ロケットの速度はどのくらい?
打上げ時の迫力から、ものすごいスピードで空に向かっているように見えるロケットですが、実際の速度はどのくらいなのでしょうか。
じつはロケットの速度は、その目的によって必要な速さが変わります。たとえば、「地上から打上げるとき」「人工衛星などを軌道上に送るとき」「他の天体に向かうとき」では、それぞれ適した速度が異なるのです。具体的にどのくらいの速さが必要なのか解説していきます。
①ロケットを打上げる速度
ロケットは地上から垂直に打上げられます。そのため、もちろん最初の速度は0です。そこから徐々に加速をして、宇宙を目指していきます。
具体的な速度の変化はロケットの種類などにより異なりますが、2024年7月1日に打上げられたH3ロケット3号機の場合には、打上げから1分後には時速約1,460kmまで到達、2分後に固体ロケットブースター(※)(SRB-3)を分離した際には、時速約4,325kmになっています。その後、一般的に宇宙空間と呼ばれる高度100km到達時点では、時速約6,078kmまで加速しました1)。宇宙空間到達後は、搭載した人工衛星「だいち4号」を地球周回軌道に乗せるためにさらに加速を続けました。この速度についてはつぎの項目で紹介します。
※:ロケットの推進力を上げるための補助ロケット。固体燃料が使われている。
②地球を周回するための速度(第一宇宙速度)
ロケットに積まれた人工衛星は、その役目を果たすために、地球を周回する必要があります。ただし多くの場合、人工衛星は自ら進む力を持たないため、ロケットが地球周回軌道(※1)上に高速で人工衛星を投入することによって、地球の周りを回り続けることができるのです。
このとき、なぜ人工衛星は途中で止まったり落ちてきたりしないのでしょうか。
垂直に打上げられたロケットは徐々に水平に向きを変え、地球周回軌道上に人工衛星を投入します。宇宙空間に投入された人工衛星は、空気抵抗がほとんどないため、慣性の法則に従い、ずっと同じ方向に同じ速さで動き続けようとします。しかし、地球には万有引力という力が働いているので、人工衛星は常に地球の中心に向かって引っ張られます。そのため、ただまっすぐ進もうとするだけでなく、地球の丸みに沿って曲がるように動くのです。このとき、円を描くように動くことで、中心から外に向かう力である遠心力が働きます2)。
ここで重要なのが、人工衛星の速度です。遠心力は、物体の速さに比例して大きくなるので、もし速度が遅すぎると、人工衛星は地球の引力に引っ張られて地球に落ちてしまいます。逆に、速度が速すぎると、地球の引力から振り切れて宇宙空間へ飛び出してしまうでしょう3)。人工衛星が地表付近で地球を周回するために必要な速度を「第一宇宙速度」といいます。これは、秒速約7.9km(時速約2万8,440km)で、ジャンボジェット機の約30倍の速さです4)5)。
ちなみに高度が上がると、地球の引力が小さくなるため、必要な速度も小さくなります。たとえば、静止軌道(※2)と呼ばれる高度3万6,000kmの軌道を回るためには、秒速約3.1km(時速約1万1,160km)の速度が必要です。
宇宙空間では空気抵抗がほとんどありませんが、地球の大気中では空気抵抗があるため、物体を投げても速度が低下し、やがて地面に落ちてしまいます。たとえば、国際宇宙ステーション(ISS)も、大気との摩擦で高度が徐々に下がるため、定期的に高度を上げるための推進剤を使用しています6)。
つまり、人工衛星が地球の周りを回り続けるためには、第一宇宙速度で軌道に投入され、地球の引力と遠心力が釣り合う状態を保つ必要があるのです。
※1:地球を中心とする周回軌道のこと。
※2:人工衛星の周期が地球の自転周期と同じになり、地上から見ると人工衛星が常に静止しているように見える軌道のこと。
③地球から他の天体に向かうための速度(第二宇宙速度)
「第一宇宙速度」は人工衛星の遠心力と地球の引力が釣り合う速度です。そこから地球の引力を振り切って、月や火星など他の天体に行くためにはもっとスピードを上げなくてはなりません。
地球の引力を振り切るには、秒速約11.2km(時速約4万320km)が必要になります。これを「第二宇宙速度」と呼びます7)。現在、この速度を出しているのは無人の探査機だけです。
④太陽系を脱出するための速度(第三宇宙速度)
第二宇宙速度は、地球の引力を振り切ったあと太陽を周回する軌道に入りますが、太陽の引力をも振り切ろうとすると、さらに速い速度が必要になります。これは、「第三宇宙速度」と呼ばれ、秒速約16.7km(時速約6万100km)です7)。
【コラム】最速記録は時速63万km
ロケットとは少し異なりますが、人類史上最高の速度記録は、NASAの太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」です。2024年9月30日に太陽に接近した際、時速63万5,300kmで太陽の周りを移動しました。秒速にすると約176kmと、ものすごいスピードを出していることがわかります8)。
宇宙までにかかる時間はどのくらい?
一般的に宇宙空間といわれる高度100kmにロケットが到達するのは、打上げからわずか3分ほど1)9)10)と、あっという間です。
また、地球から約400km上空にあるISSまでは、2020年10月に打上げられたロシアの宇宙船「ソユーズMS-17」が3時間3分で到着11)しています。それまでは最速でも約6時間、そのさらに前は2日間12)を要していたISSまでの道のりは、宇宙船の改良や地上との通信システムの改良などにより、短縮されてきているのです。
ちなみに、地球から約38万kmの距離にある月までにかかる時間は、アポロ11号の場合、約102時間(4日と6時間)かかりました13)。
ロケットが速く飛べるのはなぜ?
ロケットはなぜ、こんなにも速いスピードで飛べるのでしょうか。そのしくみを簡単に解説します。
ロケットの推力となるエンジンと燃料
ロケットは、エンジン内で燃料を燃やし、高温高圧のガスを後方へ噴射する際の反動で推進力を得ています14)。これは、ゴム風船を膨らませて口を離すと、空気が噴出しながら飛んでいく原理と同じです。
航空機も同じく、燃料を燃やすことで推進力を得ていますが、宇宙に行くことはできません。 これは、航空機に使われるジェットエンジンとロケットエンジンのしくみの違いが関係しています。
燃料を燃やす際、必ず酸素が必要になりますが、ジェットエンジンの場合は、大気中から酸素を取り込むしくみになっているため、酸素のない宇宙空間では飛ぶことができません。一方でロケットエンジンは、燃料とともに酸素や酸化剤を積んでいくため、酸素がない宇宙空間でも飛べるしくみになっています。
また、ロケットは、使用する燃料により大きく2種類に分けられます14)。日本のロケットの代表的な例として、液体燃料を使用するロケットではH3ロケット、固体燃料を使用するロケットではイプシロンロケットがあげられます。
燃料の種類 | 特徴 |
---|---|
液体燃料 | 液体水素や液体酸素など、異なるタンクに貯蔵された燃料と酸化剤を燃焼室に供給し、燃焼させる方式。構造は複雑だが、燃焼量を細かく調整できるため、打上げ後の軌道修正など、柔軟な運用が可能。 |
固体燃料 | 燃料と酸化剤を混ぜ合わせて固めたものを燃焼させる方式で、構造がシンプルで製造も容易。ただし、一度燃焼を開始すると、燃焼速度を途中で調整することが難しい。 |
ロケットの推進力は、噴射するガスの速度と量に比例します。より高速で大量のガスを噴射することで、ロケットは強力な推力を得て、宇宙空間へと飛び出すことができるのです。
ロケットのパワーを上げる工夫
ロケットをより遠くに、より速く飛ばすためには、さまざまな工夫が凝らされています。
まずは、ロケットの重量を軽くすることが重要です。一見、燃料をより多く積めば、遠くの宇宙まで速く飛ぶことができるように思いますが、燃料を増やすとその分重量が増え、パワーも必要になってしまうのです。そこで、ロケットでは、全体の重量の約9割を燃料が占めるように設計されています。こうすることで、燃料が消費されるにつれてロケットが軽くなり、より速く飛ぶことができるのです14)。そのほかにも、機体を構成する素材を強度の高い軽量な素材にしたり、不要な部品を極力減らしたりすることで、重量を減らしています。
また、多段式ロケットや、クラスターロケットといわれる構成の工夫もされています。
多段式ロケットは、ロケットを複数の段に分け、各段に燃料とエンジンが搭載されている構造です。燃料を燃やし尽くした段は切り離され、残りの段がさらに加速するというしくみです。段数を増やすことで、より高い速度を出すことができます14)。
クラスターロケットは、複数の小型のロケットエンジンを束ねて、ひとつの大きなエンジンとして使う方法です。大型のロケットエンジンを開発するには、多大な時間と費用がかかりますが、クラスターロケットであれば、比較的簡単に大きな推力を得ることができます14)。
そのほか、ブースターと呼ばれる補助ロケットを使用することもあります。ブースターは、ロケットの打上げ初期に大きな推力を出すために使用され、ある程度の高度に達すると切り離されます。固体燃料を使用したブースターが多く、その強力な推力によって、ロケットは短時間で高度を稼ぐことができます。
これらの技術を組み合わせることで、ロケットはより遠くに、より速く宇宙へと飛び出すことができるのです。たとえば、スペースX社のファルコン9は、再利用可能な第1段と、複数の小型エンジンを束ねたクラスターロケット方式を採用することで、コストを抑えつつ高い性能を実現しています15)。
参考資料
ロケットを打上げる方向
より効率的にロケットを宇宙に飛ばすために、ロケットを打上げる方向にも工夫があります。
じつは、多くのロケットは東向きに打上げられます。これは、地球の自転の力を利用するためです。地球は西から東に自転しており、もっとも速度が速い赤道上では、時速約1,670kmで動いています。そのため、ロケットを赤道に近い場所から東向きに打上げることで、この運動エネルギーをロケットに加算し、より効率的に打上げることができるのです16)。
【関連記事】日本のロケット発射場はどこにある?立地条件や打上げが見られるスポットもご紹介
ロケットの速度が速いとどうなる?地上や人への影響は?
ロケットはものすごいスピードで宇宙に向けて打上げられますが、一方で速度が速いことで周囲の環境や人体への影響はないのでしょうか。それぞれ見ていきましょう。
大きな騒音(ソニックブーム)が発生する
ロケットや航空機が超音速で飛行すると、機体の各部から衝撃波が発生します。衝撃波は大気中を伝播し、地上に届くと人間には瞬間的な爆音として2回聞こえます。この現象は「ソニックブーム」と呼ばれています17)。ソニックブームを低減することは、JAXAをはじめ世界的な共通課題となっており、課題解決のためにさまざまな研究や技術開発が行われています18)。
人体への影響がある場合も
実際に宇宙に行くとなった場合、ロケットの速度が人体に影響を与えるのではという不安もあるでしょう。
ロケットの打上げ時に加速される時間は数分間。このとき人間に強いG(重力加速度)がかかります。人間は、立った状態では3.5~4G、横になった状態では6~7Gの加速度まで耐えられます。これを超えると、心臓から頭に血を送ることができず、失神してしまいます19)。
そのため、今後技術の進化などでより速いロケットが打上げられるようになったとしても、人体を守る機能を伴わないと、宇宙飛行士や宇宙旅行者は搭乗することが難しいのです。
【コラム】地上と宇宙で時間の流れが変わるかも?
「高速で動くと時間の進みかが遅くなる」という特殊相対性理論があります。一方で、「宇宙空間では、重力がある惑星上より時間が早く進む」という一般相対性理論もあります。
宇宙を6年間旅した「はやぶさ2」を調査したところ、地球上より0.4554秒時計が進んでいたことがわかりました20)。今後宇宙開発が進むにつれて、もしかしたら、地上と宇宙の時間の流れが変わっていくかもしれません。
参考資料
ロケットの速度に関するギモン
最後に、ロケットの速度に関する気になるギモンを一問一答形式で簡単に紹介します。
Q1.ロケットの速度をもっと速くする方法は?
ロケットをもっと速くするためには、推力を大きくしなければなりません。推力を大きくするには、吹き出すガスの量を増やす、または吹き出すガスの速さを速くする方法があります。
そのほかには、ロケットの素材をもっと軽いものにしてロケット自体を軽くすることや、より性能のよい燃料を使用するなどの方法もあり、日々研究や開発が進められています。
Q2.打上げたロケットはどうなる?
ロケットが多段式の場合、大気中で切り離された第1段ロケットなどは、海に捨てられます。そして、宇宙空間で切り離された第2段ロケットなどは、残りの燃料で地球の周りを回りながら少しずつ高度を下げ、やがて大気圏に突入して燃えつきてしまいます21)22)。
ロケットが開く宇宙への道
広大な宇宙。ロケットの速度がアップすれば、より遠くまでたどり着くことができます。宇宙に行く最大の手段であるロケットの研究開発が進められることで、宇宙探査や宇宙開発がより発展するようになるでしょう。ロケットがどこまで速くなりどこまで進化するのか、楽しみですね。
※この記事の内容は2024年11月22日時点の情報をもとに制作しています