宇宙保険とは

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宇宙保険は、簡単にいうと自動車保険などと同じ損害保険の一種にあたります。具体的には、ロケットや人工衛星などを対象として、事故などのさまざまなリスクを補償する保険商品です。ロケットの打上げ事業者や人工衛星のメーカー、オペレーターといった民間の企業がおもに利用しています。
たとえば、ロケットの打上げに失敗した場合に事業者が被る損害や、宇宙空間で運用される人工衛星が目的の機能を発揮できなかった場合などに生じる損害が、宇宙保険によって補償されます。さらに、ロケットや人工衛星のトラブルによって、契約者以外の第三者に損害が生じた場合の補償も、宇宙保険によってカバーされます。
宇宙保険はなぜ必要?

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動車であれば走行中の事故、家であれば自然災害による損害など、一般的に知られている損害保険においては、保険が必要になる機会が想像できるかと思います。では、宇宙保険において保険が必要な機会とは、どういったときなのでしょうか。
宇宙保険の対象となるロケットや人工衛星には、製造から打上げ、そして運用までに様々なリスクが伴います。たとえばロケットや人工衛星が工場を出荷してから発射場に到着するまでの輸送中の破損、ロケット打上げ失敗に伴う損壊、そして宇宙空間での衝突など、事故やトラブルが想定されます。
そしてこれらはまだ発展途上。人類が宇宙に到達してから70年にも満たない現在では、船舶や自動車、飛行機に比べるとやはりリスクも多く、万が一トラブルが発生した場合の損害もまた、莫大な金額になってしまいます。
そこで必要とされるのが、最近とくに注目を集める宇宙保険というわけなのです。
【コラム】2040年には、宇宙ビジネスが当たり前に
経済産業省が公表した資料1)によれば、世界の宇宙産業の市場規模は、2024年時点で約54兆円。2040年までには140兆円まで成長するという予測もあります。2023年時点での世界のレジャー旅行市場規模が約130兆円2)なため、今後より身近な業界になっていくことが予想されます。
こうした流れの中で、現在民間企業が続々と宇宙産業に参入してきています。
宇宙保険の保険料や保険金額は?

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前述で、宇宙保険は自動車保険と同じ損害保険の一種と説明しましたが、現状における宇宙保険は他の損害保険に比べ、非常に特殊な性質があります。
その一番の理由は、宇宙保険の対象となるロケットの打上げや人工衛星の運用の実績が限られているほか、歴史も浅いため、リスクの確率を統計から導き出す「大数の法則」が適用できない点にあります。
一口に宇宙ビジネスといっても、その内容や目的が多岐にわたるため、案件ごとにオーダーメイド方式で、保険料や保険金額を決めているのが現状です。
宇宙保険を引き受けている保険会社の数は?
宇宙保険は非常に特殊な保険であるほか、リスクの規模も大きくなるため、引き受けることができる保険会社は世界中でも30社に満たないといわれています。
とはいえ、それらの保険会社も宇宙保険のリスクを1社で負っているわけではなく複数社で保険を引き受けを行っています。
なぜそこまでして、リスクの高い宇宙保険を保険会社が引き受けるかというと、その理由は世界の産業の発展に欠かせない宇宙ビジネスへの挑戦を保険の分野で支えるためです。そもそも、保険のしくみはひとりでは負担しきれない損失を、大人数で支え合う「相互扶助」の精神がベース。宇宙保険もまた、相互扶助の精神から生まれた保険といえるのです。
【一覧】宇宙保険の種類と補償内容
ここからは、宇宙保険の種類と、それぞれの主な補償内容について紹介します。

前述したように、宇宙保険は損害保険の一種です。そのため、自動車保険と同じように、補償内容は大きく「物保険」と「対物賠償保険」の2つに分類することができます。
そのほか、月面着陸船・月面探査ローバーのミッションを補償する「月保険」も現在提供されています。
それぞれ詳しく解説します。
物保険(被保険者の所有物に対する補償)

物保険とは、ロケットや人工衛星など、具体的な物に生じる損傷・焼失などを対象とする保険です。おもに4つの種類があり、「打上げ前保険」「打上げ保険」「軌道上保険」「寿命保険」が該当します。
打上げ前保険

打上げ前保険は、ロケットや人工衛星を打上げる前までに起こりうる物的損害を補償する保険です。具体的には、製造、保管、運搬、搬入、そして打上げ準備までに、何らかの理由でロケットや人工衛星に起こった損害が補償の対象です。一般的に打上げ保険の契約者は、ロケットの打上げ事業者や人工衛星の製造メーカーになります。ちなみに打上げ前保険の保険責任はロケットが点火するなど、打上げの瞬間で終了となります。
打上げ保険

打上げ保険は、一般的に打上げを発注する立場にある衛星オペレーターが保険の契約者となります。名前からもわかるように、打上げた瞬間から一定期間内で、ロケットの打上げ失敗や人工衛星の不具合等により発生する損失を補償します。たとえばロケットが打上げられたものの、意図していた軌道高度に到達できなかった場合も、衛星運用に支障が生じるため打上げ保険の補償範囲となります。
寿命保険

寿命保険は、軌道上で運用されている人工衛星に不具合が発生し、意図していたミッションが出来なくなった場合の損失を補償する物保険の一種です。この保険は、一般的に人工衛星のオペレーターが契約者になります。
月保険

月保険とは、月面探査を行うために必要な月輸送の失敗、あるいは月面探査や月面開発等の活動が出来なくなった場合の損失を補償する、多様化する宇宙活動に適応した新たな宇宙保険です。打上げ保険や寿命保険の考え方を月面活動向けに設計した保険商品といえます。今後、宇宙における人類の活動範囲が広がっていけば、「火星保険」や「深宇宙(ディープスペース)保険」というように目的別の宇宙保険が増えていくかもしれません。
賠償責任保険(被保険者以外の第三者に対する補償)

物保険がロケットや人工衛星そのものの損害が対象になるのに対し、賠償責任保険は、ロケットや人工衛星の打上げ、宇宙空間での運用時に起こるトラブルによって第三者の財物や身体に損害を与えた場合の賠償責任をカバーする保険です。賠償責任保険には、「打上げ第三者責任賠償保険」「軌道上第三者責任賠償保険」が該当します。
打上げ第三者賠償責任保険

打上げ第三者責任賠償保険は、ロケットの打上げ時の予期せぬ不具合によって、第三者の財物や身体に損害を与えた場合の賠償責任をカバーする保険です。一般的に打上げ事業者が保険の契約者となります。たとえばロケットの打上げに失敗し、墜落したロケットが第三者の財物や身体に損害を与えた場合の、訴訟費用や賠償費用などが補償範囲です。契約にもよりますが、打上げに関わるあらゆる関係者を被保険者に含めることが一般的です。
軌道上第三者賠償責任保険

軌道上第三者責任賠償保険は、軌道上で運用されている人工衛星に起こったトラブルによって、第三者の財物等に損害を与えた場合の賠償責任をカバーする保険です。一般的に人工衛星のオペレーターが契約者になります。たとえば軌道上の人工衛星が、何らかのトラブルで他の人工衛星と衝突してしまった場合の訴訟費用や賠償費用などが補償範囲となります。
東京海上日動の宇宙保険

東京海上日動では、前述で紹介した「物保険」「賠償責任保険」のすべての宇宙保険、宇宙関連保険を提供しています。ただ、その契約はすべてオーダーメイドになっています。
なぜ東京海上日動に、ここまで宇宙保険が充実しているか疑問に思う方もいるでしょう。その理由は、約50年にわたり宇宙保険の提供を続けてきたためです。
東京海上日動がいわゆる「宇宙保険」を始めたのは1970年代のこと。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の前身となる宇宙開発事業団が開発した人工衛星打上げ時の保険引き受けに参加したことが始まりです。
社名にもあるように、1879年創業の東京海上日動は、当時の日本の未来を担う海運事業の発展を支えるために生まれた、日本初の海上保険会社でした。その後は損害保険会社として、航空業界の発展もサポート。早い段階から宇宙保険を引き受けているのも、保険を通じて日本そして世界の未来を支えたいという創業以来の理念を貫いているからです。
【関連記事】東京海上日動が宇宙事業に取り組む理由について詳しくはコチラ
ちなみに東京海上日動は現在でも、国内・海外問わず多くの宇宙保険を引き受けています。これは1970年代以降、国内のみならず海外の宇宙保険も数多く手がけてきた実績が評価されてのこと。海外の保険会社とも連携し、常に最新技術や宇宙活動に関わる各国の法制度の情報収集を行なっているほか、これからの宇宙ビジネスを視野にいれた研究や商品開発を進めている点も、強みのひとつとなっています。
なお、宇宙保険の引き受けだけでなく、国内外の宇宙ビジネス発展を支えるため、JAXAとの共創になる「宇宙リスクソリューション事業」や、宇宙ビジネスを通じた社会課題の解決を目指す「宇宙プロジェクト」などの取り組みも進めています。
【関連記事】宇宙プロジェクトの内容や取り組みについて詳しくはコチラ
今後より充実する宇宙保険

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宇宙旅行や資源開発、そして宇宙空間を利用した輸送など、宇宙ビジネスは今後ますます私たちの暮らしに欠かせない存在となっていくでしょう。それに応じて、宇宙保険や宇宙関連の保険もより細分化され、新しいものが追加されていきます。今後、誰もが宇宙旅行に行けるようになった日には、より身近なものになっているはずです。これから「宇宙」が当たり前になる時代に備えて、宇宙保険の動向にぜひご注目ください。
10-09-2801-24002-2025年3月作成
10-10-2801-24003-2025年3月作成
10-11-2801-24004-2025年3月作成
10-12-2801-24005-2025年3月作成
※この記事の内容は2025年3月27日時点の情報をもとに制作しています