将来、宇宙旅行に行けるようになった時のために、今から知っておきたいのが宇宙空間の環境です。空気がなく、冷たく暗いイメージの宇宙ですが、実際にはどうなのでしょうか。この記事では、生き物が生存する上で重要な宇宙のさまざまな場所での温度について、わかりやすく紹介します。

この記事の監修者

日本気象協会、東京理科大学
菅井 肇さん

理学博士(天文学:東京大学)。京都大学、東京大学で研究を行い、京都三次元分光器第2号機を開発、すばる望遠鏡用可視赤外多天体ファイバ分光器PFSの初代プロジェクトマネージャーを務める。原始重力波検出のためのLiteBIRD衛星計画にも従事。研究・開発の傍ら、宇宙物理学を専門にさまざまな出版物やメディアの監修も行う。

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宇宙の温度は何度?

空気がない宇宙ですが、地球とどのくらい温度が異なるのでしょうか。環境の違いにより温度にどのような変化があるのかを含め、ご紹介します。

宇宙の温度は-270.425℃

宇宙の温度は、約-270.425℃1)といわれており、温度の下限である絶対零度(-273.15℃)よりも少し高い温度となっています。言い換えると、宇宙は限りなく温度が低い空間なのです

【コラム】絶対零度ってなに?

画像: 図中の数字は小数点以下を四捨五入しています

図中の数字は小数点以下を四捨五入しています

そもそも、温度の単位には、私たちが日常で使っている摂氏温度(℃)、アメリカなどで使われている華氏温度(℉)、そして熱力学などの物理学で使われる絶対温度(K:ケルビン)があります。

摂氏温度(℃)は標準大気圧(1気圧)で水が凍る温度を0℃、沸騰する温度を100℃した場合に
(※)、その間を100等分した温度を1℃と定めています。

対して絶対温度(K)は、物体が持つ熱エネルギーがゼロの場合を0Kとしているため、マイナスの温度がなく、0Kが下限となっています。この0Kは、熱力学的に考えられる最低の温度であるため、絶対零度と呼ばれているのです。

絶対温度0K(=絶対零度)は、摂氏温度(℃)に変換すると-273.15℃となります。

※:凝固点と沸点について、測定精度の向上に基づき、現在はより厳密化された値が得られています。

そもそも温度とは?

宇宙の温度についてより理解する前に、そもそも温度とは何なのか、どのように変化するのか、そのしくみをおさらいしておきましょう。

画像: そもそも温度とは?

通常、温度は物質を構成する原子・分子の運動エネルギーの量によって決まります。熱を与えるほど、分子・原子が激しく運動し、温度が高くなるのです。

宇宙の温度は光子によって決まっている

一方で、宇宙空間は真空状態であり、原子・分子がほとんど存在しません。では何が温度を決めているかというと、「光子」という光の粒子(電磁波)の存在です。

この光子は、宇宙が誕生した際のビッグ・バンの残光であり、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)として宇宙全体に広がっています。宇宙では原子・分子の数よりもこの光子のほうが多くなっています。

光子にはエネルギーがあり、そのエネルギーの分布によって宇宙の温度が決まります。現在は、2.725K(-270.425℃)となっています。

【コラム】はるか昔、宇宙の温度は高温だった

画像: 宇宙の温度はどのくらい?暑さ寒さをわかりやすく解説

宇宙は約138億年前、「ビッグ・バン」という爆発的な膨張によって誕生しました。誕生時の宇宙は、現在の宇宙よりも非常に小さく、超高密度・超高温な火の玉のような状態でした2)。

その後、宇宙は現在に至るまで膨張を続けています。宇宙が膨張すると、密度が下がり、温度が下がっていきます。膨張により、原子・分子などがどんどん冷えていく一方、光子はより穏やかに冷えていきました。結果として、この宇宙全体に広がった光子が、宇宙の温度を決めています。

太陽光は、なぜあたたかいの?

画像: 画像:iStock.com/Eclipse

画像:iStock.com/Eclipse

ここまでの中で、「宇宙には高温の太陽があるのに、なぜ熱が伝わらないの?」と考える人もいるかもしれません。確かに、太陽の中心部では核融合が起きており、極めて高温です。しかしながら、その熱を伝えるためにも、原子や分子の存在が欠かせません。宇宙空間が真空状態であることで、太陽の熱エネルギーの影響は広がらないのです。

一方で、地球をはじめとした太陽系の惑星が、宇宙空間以上の温度であることも確かです。これは、太陽から発せられる「光」、すなわち太陽光を受け取っているためです。

太陽光は可視光線、赤外線、紫外線などのさまざまな波長の電磁波で構成されており、これらは伝達するために原子や分子の存在を必要としません。そのため、遠く離れた太陽からの光が、宇宙空間を介しても地球に届いているのです。

またこれらの光は、物質に当たると一部が吸収されて、原子・分子の運動を誘発させる働きがあります。その結果、温度が上昇します。たとえば、黒いものが太陽光をあびると熱くなる現象は、黒が可視光線を吸収しやすいために起こります。

宇宙空間では、太陽光が当たる物質(原子・分子)がそもそもほとんど存在していません。そのため太陽光は影響を受けずに地球に届くのです。

ただし、宇宙にある星や人工衛星などは物質として存在しているため、太陽光の影響を受けます。これらの温度については、以下で詳しくご紹介していきます。

星や人工衛星など、宇宙にあるものの温度は?

宇宙には太陽や地球、月などの天体のほかに、国際宇宙ステーション(ISS)や人工衛星があります。これらの温度は、それぞれが持つ特徴や置かれた環境によって異なります。詳しく見ていきましょう。

太陽の温度

画像: 画像:iStock.com/designsstock

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全体が高温のガスでできた太陽の中心部の温度は約1,600万℃、表面温度は約6,000℃です。

太陽の表面ではさまざまな活動が起こっています。周囲より温度が低い黒点の温度は約4,000〜5,500℃、太陽の表面から2,000kmほど上空にある高温のガス層であるコロナは約100万〜300万℃とされています。

地球からは約1億5,000万kmの距離にありますが、太陽から出た光は、宇宙空間を通過して地球に届いています。

地球周辺での温度

画像: 画像:iStock.com/Inok

画像:iStock.com/Inok

地球の周辺には、さまざまな人工物があります。例えば、地上から約400kmの高さには国際宇宙ステーション(ISS)、約3万6,000kmの高さには気象衛星や放送衛星などの人工衛星が飛行しています。

使用されている材質にもよりますが、一般的にこれらの表面温度は、太陽光があたっているところではおよそ120℃、太陽光があたらないところではおよそ-150℃になります3)

ISSで船外作業を行う宇宙飛行士の宇宙服も、表面温度が極めて高温になったり低温になったりします。宇宙飛行士の安全を守るため、宇宙服には熱をシャットアウトする機能が欠かせないのです。

【関連記事】新しい宇宙服が作れないって本当?40年以上も同じものを使う理由とは

月の温度

画像: 画像:iStock.com/Cylonphoto

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地球の衛星である月にはほとんど大気がありません。そのため、月の表面温度には、太陽の光があたっている面とそうでない面で大きな寒暖差が生まれます。月の赤道付近では、太陽があたる昼間は110℃、夜は-170℃と、温度差は200℃以上にのぼります4)。また、極地ではさらに低温になることもあります。

火星の温度

画像: 画像:iStock.com/mikolajn

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太陽から4番目の惑星である火星は、直径が地球の約半分、質量は約10分の1、重力は約3分の1と言われています5)。二酸化炭素を主成分とする大気がありますが、地球と比較するととても薄く、大気圧は約160分の1しかありません。

この薄い大気と、太陽からの距離が遠いことなどもあり、火星の表面温度は、-140℃から30℃と、地球と比べて低いものになっています6)

【関連記事】火星に人は住める?環境や移住するための課題を解説

国際宇宙ステーション(ISS)内の温度

画像: 画像:iStock.com/dima_zel

画像:iStock.com/dima_zel

ISS内は空調装置によって18.3〜26.7℃に保たれています7)

ISS内にはさまざまな装置があり、熱を発しています。また、搭乗員の体からも熱が発せられるため、温度を快適に保つには空調のコントロールが不可欠です。ISSの中には地上と同様にエアコンが搭載されています。しかし、宇宙空間では熱が対流しないので、常にファンを稼働させて熱を均一にしています。

また、発熱する装置には、「コールドプレート」と呼ばれる水冷の冷却装置を設置して温度の上昇を抑えています。機内の熱は集約され、最終的には船外に取り付けられた大型のラジエーターによって、宇宙へと放出されています8)

地球の温度

画像: 画像:iStock.com/FlashMovie

画像:iStock.com/FlashMovie

地球には、月や火星と違って分厚い大気の層があるため、太陽光の影響を直接受けづらく、また熱の放出も緩やかになります。その結果、寒暖差が比較的穏やかになっているのです。

最低気温は-88℃、最高気温は58℃ほどで、地球全体の平均気温は14℃です6)

宇宙の温度はどうやってわかった?

宇宙の温度が判明したのは、1964年にアメリカの2人物理学者、アーノ・ペンジアス氏とロバート・ウィルソン氏が宇宙からの微弱な電磁波(前述の宇宙マイクロ波背景放射(CMB))の存在を発見したことがきっかけでした9)

彼らは、通信実験中にノイズと思われるこのマイクロ波を検出し、それが宇宙全体に広がる放射であることを突き止めました。その後、理論的な研究が進み、このノイズこそがビッグバンの名残であることがわかりました。そして研究はさらに進み、宇宙の平均温度が約2.725K(-270.425℃)であることが判明したのです

1989年にはNASAが宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の詳細な温度分布を測定するための人工衛星「COBE(コービー)」を打上げました。 これにより、宇宙全体の温度がほぼ均一でありながら、わずかな「ゆらぎ(温度の微小な差)」が存在することが確認されました。これらのゆらぎがあったおかげで、現在の天体や私たちができあがっているのです。

画像: NASAのWMAP衛星の観測データから作成された、宇宙の温度分布 画像提供:NASA/WMAP Science Team

NASAのWMAP衛星の観測データから作成された、宇宙の温度分布
画像提供:NASA/WMAP Science Team

宇宙空間での快適な暮らしを目指して

宇宙には、地球よりも低温・高温の場所が多くあり、過酷な環境が広がっています。しかしながら、世界では宇宙空間でも人々が生活できるような技術開発が日々進められています。

近年では、民間企業による宇宙旅行が実現し始め、将来的には一般の人々も宇宙に滞在できる可能性が高まっています。 宇宙ステーションでの長期滞在技術の進歩や、宇宙ホテルの構想も進められており、将来の宇宙開発がさらに発展すれば、より快適に宇宙空間で過ごせる日が来るかもしれません。

※この記事の内容は2025年3月31日時点の情報をもとに制作しています

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