イベント『今、宇宙ビジネスが”自分ごと“になる。―宇宙ビジネスのリアルと入り口』とは?

Kii Space HUB
今回参加したイベント『今、宇宙ビジネスが”自分ごと“になる。―宇宙ビジネスのリアルと入り口』は、リアルとオンラインのハイブリッド形式で開催され、プログラムされた2つのトークセッションでは、宇宙ビジネスの可能性を探るヒントとして、全国の先進的な取り組みや中小企業の参入事例が紹介されました。また、JAXAの自動実験システム(GEMPAK)や株式会社アークエッジ・スペースの超小型衛星の特別展示も行われ、リアル会場ではネットワーキングの時間も設けられました。
当日は、自社の技術を宇宙分野に活かしたい企業、産業振興に携わる支援機関、異業種連携や和歌山発の“宇宙まちづくり”に関心を持つ方々など、多様な人々が参加。リアル会場は満員となる80名、オンラインでも180名以上から申し込みがあり、本イベントへの関心の高さがうかがえました。
セッション1「スペースポートを核とした“宇宙産業・まちづくり”の可能性」

トークセッションの1つめは、「スペースポートを核とした“宇宙産業・まちづくり”の可能性」。スペースワン株式会社 スペースポート紀伊 所長の下瀬 滋さん、ASTROGATE株式会社CTOの中尾 太一さん、将来宇宙輸送システム株式会社 ビジネス部 部長の森實 将さんが登壇。モデレーターは、一般社団法人SPACETIDE Corporate PartnershipTeam PM 藤野 翔太さんが務めました。
宇宙をテーマにしたまちづくりがさまざまな地域で起こっている
まず、「宇宙は私たちの身の回りにどう関わってくるのか」という藤野さんの問いに対して、中尾さんはつぎのように答えました。

「今、和歌山県をはじめ、各地でスペースポートを起点にその周辺に新しい産業ができています。打上げのときには多くの人が観光で来られるのでホテルやレストランができ、そこでものを作る町工場もでき、いろいろな人が集まってきます。1つのエコシステム、まちづくりが、日本各地はもちろん世界のさまざまな地域で起こってきています」(中尾さん)
また、中尾さんは「ロケットも民生品を使ってどんどんハードルが下がってきています。射場は、地上のプラントを作るのと技術的にあまり変わらないことが多いので、よりハードルが下がってくるだろうと感じています」とも語りました。
宇宙産業に参入するハードルをさらに下げていくことが大切

森實さん
森實さんは、さまざまな企業から「宇宙産業は、投資の割には儲からないのではないか」という話が出るということに触れ、「空港利用料のような射場利用料だけでは、1社それぞれに大きなメリットが出るという話にはなかなか行きつかない。射場は打上げだけでなく周辺産業からいかに早い段階で回収をしていくか。スペースポート紀伊さんのように、周辺の皆様を招待してお祭りのようにまちを上げて盛り上げていく。そうした動きとセットにして、ハードルをさらに下げていくことが大切」と説明。

(左から)森實 将さん、中尾 太一さん、下瀬 滋さん
さらに、下瀬さんは、「これまではロケットの機体周りは特別なものを使っていた」としながらも、今後は自動車など既存の産業の知見を生かせるようになる可能性を示唆。「裾野を広げるには打上げを増やさなければならない。そのためにはロケットの価格を下げる必要があります。工場も必要ですし、サプライチェーンの構築が非常に大事。今、県内の企業さんにもたくさん協力していただいていますが、そうした動きを広げていき、地域でものを集結できると動きやすくなると考えています」と語りました。
ITの分野にも可能性あり、多くの人々が宇宙に関する仕事をする時代に
さらに、「ITやソフトウェアの分野が、ロケットや宇宙港に何かできることはありますか」という問いに対しては、宇宙輸送機を開発する森實さんが「弊社の3人のCXOは、全員が宇宙畑ではないところの出身。ITの考え方を、ロケット開発やシミュレーターの基盤技術に使っています。開発当初からハードウェアを作りながら、シミュレーターソフトの試験を繰り返し、実際に飛行試験を行うときにも、シミュレーションデータと照らし合わせながら開発を進めています」と回答。全体を通して、宇宙業界への参入のハードルが下がり、誰もがさまざまな形で宇宙産業に携わることができる、そんな可能性の広がりが語られるトークセッションとなりました。
最後に藤野さんは、お土産屋や映画館、ホテルなどがある北海道の新千歳空港を例に挙げ、「そこで働く人が『飛行機関連の仕事をしていますか』と聞かれたら『はい』と答えるでしょう。同じように、『宇宙関連の仕事をしていますか』と聞かれたときに、直接宇宙に携わっていなくても『はい』と答える人がどんどん増えていくといいなと思います。皆様の事業にも必ず結びつく部分があるでしょうし、『この分野はまだ誰もいないから自分が始めよう』と新しい事業を始めることもできるはずです」と結びました。
セッション2「中小企業における宇宙産業参入のリアル」

トークセッションの2つめは、「中小企業における宇宙産業参入のリアル」がテーマ。新たに宇宙産業に携わるようになった株式会社由紀精密 代表取締役の大坪 正人さん、ニシジマ精機株式会社 代表取締役の西嶋 真由企さん、そして、一般企業の製品やサービスを宇宙環境で適合させる技術支援を行うスペースエントリー株式会社COOの松本 翔平さんが登壇。モデレーターは1つめのトークセッションに続き藤野さんが務めました。
諦めずに続けようという思いで宇宙産業に参入

もともと公衆電話に使うネジの町工場だったという大坪さんは、仕事が減少するなかで航空宇宙分野に参入。旅客機の部品開発をきっかけに、2010年頃に開始された多摩美術大学と東京大学の共同による衛星開発プロジェクト「ARTSAT2 DESPATCH」で初めて衛星の構造部全体を手掛けたそうです。その後、JAXAと東京薬科大学等が2015年から実施した、宇宙のチリや微生物を集めるプロジェクトに参画。
「もともと10数人しかいない会社でオーナー企業でもあるので、多少利益が出なくても諦めず何年か続けようという覚悟はありました。巨大な投資をせず、お金のかからないところから始めていきました」と大坪さんは振り返ります。
今ある技術を宇宙化していくならハードルは高くない
製鉄関連機械の部品加工・組立を手掛けている西嶋さんは宇宙産業に参入したきっかけについて、「トークセッションや講演会に興味を持って参加し、そこで九州工業大学の奥山圭一教授と名刺交換をしたことから、衛星てんこうの開発に加わりました」と説明。新規参入時の思いについて、「種子島での打上げを見に行こうといったモチベーションもあったのですが、やはり社員たちがおもしろがってやってくれたというのが一番大きい」とも語りました。

もともと有人宇宙システム(JAMSS)で働いていた経験のある松本さんは、一時、宇宙分野を離れて富山県庁に入庁。改めて宇宙に関わる会社を立ち上げた経緯についてつぎのように語りました。

「もともと私は生物系で、宇宙ステーションを実験場として使う研究の出身。宇宙は『行くところ』というより『利用するところ』というスタンスでいました。今は研究者がやりたいことと、実際にやれることには少し差があります。そこをなるべく近づけていかないと、研究者も来てくれませんし、これからの発展はないと思っていました。新しい技術をゼロから作るよりも、今ある技術を宇宙化する方が、ハードルはそれほど高くないように思います」(松本さん)
地上での試験用モデルの部品づくりからだんだんと宇宙へ
とはいえ、未知のビジネスに第一歩を踏み出すのはなかなか難しいもの。「ヒト・モノ・カネがないと、やはり続かないのではないか。1歩目は何をしましたか」という問いに対しては、松本さんは「宇宙の業界に戻ってきましたという話をいろいろな方にしました」「イベントにも行きました。JAXAさんも裾野を広げていきたいという思いがあるのでイベントを積極的に開催していますし、JAXAさん主催ではなくてもイベントのブースに参加されていたりします。そういったところに行ってみるのはアリだと思います」とアドバイス。

松本さん
大坪さんは「最初から宇宙に飛んでいくものは作れないので、まずは地上での試験用モデルの部品、それを作るための治具、実験機器などからですね。たとえばJAXAさんの仕事を初めて受けたときは、推力測定台を作りました。そうしたところから入って、宇宙ベンチャー各社と進めていく中で『EM(設計を固めるためのデータを取得するためのモデル)がうまくいったので、FM(実機と同一仕様で製作されるモデル)をやってみないか』という話が来たのが数年後です」と、段階を追って製作の幅を広げていったことを明かしました。
宇宙に関わることで注目度が上がり、人材が集まるようになる
宇宙産業に参入したことの効果について、松本さんは「私は富山県在住ですが、富山県にも宇宙に関わる企業さんがいらっしゃいます。そこの企業の方によると、人の集まりがすごく良くなったそうです。メディアも取り上げてくれますし、それを見た学生が『あの会社は宇宙もやっているんだ、おもしろそうだ』と集まるんです」とコメント。
会社に対する注目度が上がり、中高生の会社見学を多数受けるようになったという西嶋さんも、「うちも『人』です。今、平均年齢が30代で、鉄工所の中ではすごく若い。親御さんが『ニシジマ精機は宇宙関連の仕事をやっているよ』と勧めたことから入社した社員もいます。会社をアピールするうえで、宇宙は効果的」と同意。
大坪さんは「宇宙をやって良かったこととしては、やはり今が成長産業なので、そのマーケットに乗れたことがすごく良かった。今では、うちの売上げ規模の半分ぐらいは宇宙のもの。そこがすごく伸びているお陰でうちの会社が伸びている」と語りました。
「宇宙産業はとてもおもしろくワクワクできる。今からの参入でもまったく遅くない」(大坪さん)、「和歌山県が非常に熱い」(西嶋さん)と、宇宙産業とまちづくりへの期待に満ちたトークセッション。それぞれが参入したばかりのときの貴重な経験談を聞くこともでき、モデレーターを務めた藤野さんも「皆さんも今日、この場から一歩目。和歌山から宇宙を作っていければ」と参加者にメッセージを送りました。

自動実験システム「GEMPAK」と「超小型人工衛星」を展示
会場内には、JAXAが開発している自動実験システム「GEMPAK」と、アークエッジ・スペースによる「超小型人工衛星」の展示も。GEMPAKは、ロボットアームを設置し、国際宇宙ステーション「きぼう」における宇宙実験・利用の遠隔化・自動化・自律化を目指すシステム。会場では操作実演を実際に見ることができました。


超小型衛星は、一辺が10cmという手のひらサイズの立方体を6つ組み合わせた「6U」と呼ばれる衛星。衛星内部は、電源や姿勢制御などの基本機能を担う「バス部」と、ミッションに応じてカメラやセンサーなどを搭載する「ミッション部」で構成されています。会場では原寸大モックアップを展示。GEMPAKとともに多くの人だかりができていました。

和歌山県「Kii Space HUB」では今後もセミナー・ゼミナールを開催予定
Kii Space HUBでは、宇宙産業に関すること以外にも、衛星データをどう活用するか、宇宙をテーマにしたまちづくりにどう関わっていけばいいのかといった幅広いテーマでセミナーを開催。今後はさらに、「衛星データ利活用×事業創造」「宇宙関連製造業×事業創造」をテーマとしたワークショップを通じて、宇宙産業参入に向けた具体的な取り組みを後押ししていく予定のようです。和歌山をはじめ、ますます発展していく宇宙ビジネス。これからの動きにもぜひ注目したいですね。
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