●話を聞いた人
株式会社日本旅行
宇宙事業推進チーム 中島修さん
明治大学商学部を卒業し、日本旅行に入社。2011年にJAXAのロケット打上げ支援業務で人生初の打上げを体感し、圧倒的なスケールに魅了されて宇宙の世界へ。宇宙の可能性と楽しさをたくさんの方へ届けたいという思いから、社内に宇宙事業の専門部署を立ち上げる。現在は幅広い宇宙ビジネスへの挑戦と共に教育機関における宇宙教育の普及に努めている。星のソムリエ(R)、宇宙教育エバンジェリスト
宇宙を目指すのは“自然な流れ”。日本旅行が宇宙旅行に注力する理由
SpaceMate編集部「最初に素朴な質問をしてもいいでしょうか。『宇宙に行ってみたい!』と夢見ても、いまは宇宙飛行士とか大金持ちとか、ごく一部の人しか行くことができない世界ですよね。ちょっと現実感がないように感じてしまうのですが…」
中島さん(日本旅行)「たしかに宇宙に行けるのは現状、限られた人だけです。海外旅行ツアーのようにはいきません。でも、一般の人が宇宙に行ける日は近い将来、必ずやってくる。そもそも、私たちが宇宙事業に取り組むのには理由があって、その根拠は約120年前に遡ります」
SpaceMate編集部「120年前というと、明治時代の初期頃でしょうか?」
中島さん「はい、当時はほとんどの人が国内旅行にも行ったことがない時代でした。旅行に行くことができたのは、限られた人たちだけ。藩主が大名行列を構成して江戸と領地を往復する参勤交代なんて、まさに大旅行ですよ。移動手段がなかったので、人類の活動領域が自分の住むテリトリーに限られていたんです」
SpaceMate編集部「移動自体、大変な労力がかかる時代だったんですね」
中島さん「国内旅行には天文学的な費用がかかったそうです。そうしたなかで、いまから119年前、日本で初めて貸切列車による団体旅行を企画したのが日本旅行の創業者・南新助でした。みんなで一緒に行く団体旅行なら割引で費用が安くなり、誰でも旅行に行けるようになるんじゃないかと考えたのです」
SpaceMate編集部「なるほど! パックツアーを生み出したわけですね」
中島さん「そうです。もっとも、海外旅行となると話は違います。当時はまだ渡航制限がありましたから、いくら行きたくても海外には行くことができない時代でした。飛行機が日本の空を飛び始めたのは明治時代のことですが、一般大衆にとって飛行機は乗るものではなく見るものでした。旅行に必要なリソースが非常に少ない状態で、いってみれば、海外旅行というのは『一生に一度の冒険』に等しいものだったんです」
SpaceMate編集部「一生に一度の冒険…なんだか宇宙旅行を彷彿とさせます」
中島さん「そう、まさに現在の宇宙旅行と同じです。その後、1964年に海外渡航が自由化され、その翌年に日本初の海外ツアーとなる『JALパック』が登場。現在は誰でも気軽に海外へ行けるようになりましたが、海外旅行の黎明期ってそういう時代だったんです」
SpaceMate編集部「現在の宇宙旅行って、明治時代の海外旅行のようなものなんですね」
中島さん「宇宙旅行は限られた人だけのもので、自分には関係ないと思うかもしれませんが、じつは目的地が国内から海外へ、海外から宇宙へと置き換わっただけの話なんです。この先、いまよりももっと多くの国の宇宙飛行士や経済的に余裕のある人がどんどん宇宙に行けば、輸送や滞在コストが下がっていき、多くの人が宇宙に行ける世界をつくることができる。私たち日本旅行が宇宙事業に取り組む意味はそこにあります」
毛利衛さんのサポートが発端! 宇宙プロジェクトへの歩み
SpaceMate編集部「そうすると、日本旅行さんが宇宙旅行の実現に動くのは自然な流れだったということですね。そもそも、日本旅行が宇宙と関わり始めるきっかけはなんだったんですか?」
中島さん「1992年、毛利衛さんが日本人科学者として初めてスペースシャトルで宇宙へと飛び立ちました。このとき、毛利さんを応援する地元の関係者などで結成された応援隊の皆さまを、シャトルが発射される米国オーランドへお連れするお手伝いをしていたのが日本旅行だったんです」
SaceMate編集部「1992年ですと、30年以上も昔になりますね」
中島さん「当初は宇宙事業というより通常業務の一環でした。ただ、それをきっかけに宇宙との関わりが生まれ、日本の大型主力ロケットであるH-IIAロケットの運用が2001年に始まって以降は、関係者をサポートする渉外業務を委託いただくようになりました。いまでは、民間のロケットや海外で実施される衛星打上げの関係者支援も行っています」
SpaceMate編集部「それにしても、なぜ宇宙事業に本気で取り組み始めたんでしょうか。中島さんご自身、昔から宇宙や天文に興味があったのですか?」
中島さん「正直にいうと、それほど宇宙に興味はなかったんです(笑)。ただ、2011年に渉外業務のスタッフとして種子島宇宙センターに行き、ものすごい音と光を放ちながらロケットが打上げられる様子を目の前で見たら…。それまで宇宙はSF映画のように非現実的な世界だと思っていたんですが、そこにはロケットを打上げるために一生懸命、汗水垂らしている多くの人がいたんです」
SpaceMate編集部「人の力で行われている打上げ現場を目の当たりにして、宇宙への見方が変わったんですね」
中島さん「こんなにすごい世界があったのか…と衝撃を受けました。だから、2015年に弊社が創立110周年を迎え、会社から記念事業を何か考えろといわれたとき、宇宙事業を提案したんです。当時は米国で宇宙ビジネスが盛んになり始めた時期だったので、宇宙プロジェクトをスタートするのに絶好のタイミングでしたから」
涙を流す人も…圧倒的なスケールを感じるロケット打上げツアー
SpaceMate編集部「そうやって始まったのが打上げ応援ツアーだったんですね」
中島さん「そうです。まずロケット打上げのカウントダウンイベントを企画しました。米国のケネディ宇宙センターではカウントダウンするのが当たり前なんですが、それまで種子島宇宙センターではカウントダウンをやったことがなかったそうなんですね」
SpaceMate編集部「たしかに、みんなでカウントダウンすれば盛り上がりますよね。ちなみに、ロケット打上げ応援ツアーは予約開始から2分で完売! なかなか予約が取れないくらい人気を集めているようですが、ツアー参加者はどんな反応なのですか?」
中島さん「けっこう涙を流す方が多いですね。ロケットの発射時には特有の『バリバリバリ…』という空を震わすものすごい音が伝わってきますから、圧倒的パワーに感受性が刺激されるのです。『何かが生まれた感覚』と話す参加者もいました」
SpaceMate編集部「何かが生まれた感覚?」
中島さん「はい、言語化できない『何かが』です。ある参加者は『子どもが生まれた瞬間に感動するのと似ている』と話していました。非常に不思議な体験で、音、光、振動…五感すべてでロケットの打上げを感じることができる。私たちは“一生モノの感動体験”という言い方をしているのですが、お金では買えない沢山の方に経験してもらいたい体験だと思います」
星空観測やワークショップで宇宙ファンの裾野を広げる
SpaceMate編集部「日本旅行さんは、ロケット打上げ応援ツアーだけでなく、宇宙に関連した星空観測イベントなど、より多くの方が参加でき、楽しめる催しやツアーも企画されていますよね」
中島さん「そうですね。2015年に設立した『sola旅クラブ』というブランドでは、H-IIBロケット5号機を皮切りに、国内のロケット打上げの応援ツアーを提供してきました。ほかにも、各地で星空観測イベントを展開したり、星空の案内人『星のソムリエ(R)』を養成したりと、宇宙事業は多岐にわたります」
中島さん「2020年には探究体験プログラム『ミライ塾』の提供も開始しました。主に中学校や高校など教育機関向けに宇宙教育やSTEAM教育を通した、ワークショップを行っています。なかでも月面探査ワークショップで使っているシステムは、JAXAの宇宙飛行士候補者を選抜するツールの一部として採用されるほどのクオリティなので、機会があればぜひお試しいただきたいですね」
SpaceMate編集部「いろいろなきっかけから、かつての中島さんと同じように、宇宙に関心を寄せる人が増えていきそうですね」
2030年代半ばに本格的な宇宙旅行が始まる
SpaceMate編集部「ツアーやイベントに参加する人のなかには、いつか宇宙を旅したいと思う人も多いと思います。一般の人が海外旅行のように宇宙旅行に行けるようになるのは、ズバリ、何年後ですか?」
中島さん「そうですね…ひと口に宇宙旅行といっても、成層圏(地上30km程度)まで気球で上がるものや、地球を周回するもの、さらにISS(国際宇宙ステーション)に滞在するものまで、いくつか種類があります。何をもって宇宙旅行とするのかは、じつはしっかりと定義されていません。
ただ、海外旅行でいえば、日本から飛行機でハワイなどに向かい、目的地にタッチ(接地)して初めて海外旅行になるはずです。仮に韓国旅行に行くとして、羽田から飛び立ち、韓国上空を通過して富士山を回って帰ってきたら、それは遊覧飛行です」
SpaceMate編集部「すると、宇宙旅行といえるのはどこかに滞在もしくは着陸することが必要ですね」
中島さん「そうです。なので、現状ではISSに滞在したり、軌道上を周回しながら一定時間とどまることが宇宙旅行といえるかもしれません。ただし、現在のISSは2030年に運用が終了される予定なんです。次につくられる“ポストISS”が新たな滞在先として使用されることになるのかもしれません」
SpaceMate編集部「じゃあポストISSは宇宙旅行客の受け入れを想定してつくられるんですか?」
中島さん「実際に宇宙関連企業数社が商用宇宙ステーションの開発構想を発表しています。宇宙ホテルと呼ばれるものですね。だからゴールとしては、2030年半ばとか、それくらいのイメージです」
SpaceMate編集部「意外と近い! もっと先の話と思いきや、約10年後ですね」
中島さん「そう! わりと早いんです。いまから準備して、私たち日本旅行が宇宙旅行を提供できる日を心待ちにしていただけるとうれしいですね」
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