●話を聞いた人
株式会社ビー・シー・シー
宇宙の店店長 立元忍さん
宇宙グッズや宇宙食の企画・製造・販売を行っている株式会社ビー・シー・シーに所属し、「宇宙の店」の店長も務める。「宇宙の店」では、宇宙食のほか、歴代の宇宙服のワッペンやピンバッジなど豊富な宇宙グッズを取り扱う。
時代とともに進化する!宇宙食の最新事情
SpaceMate編集部「まず、基本的な質問からとなりますが、宇宙食には、どのようなものがあるのでしょうか?」
立元さん(宇宙の店)「宇宙食と聞くと、ゼリーなどの流動食やフリーズドライなど乾燥したものをイメージされる方がいます。でも、現在の宇宙食は地上の食事とあまり変わらなくなってきていますね。カレーやハンバーグといった調理が必要なレトルト食品もあれば、鯖缶などそのまま食べられるものも多数あります」
SpaceMate編集部「ハンバーグも食べられているんですね! 地上で食べるものとは何が違うのでしょうか?」
立元さん「宇宙食は、味付けを濃くしているのが特徴です。これは、ムーンフェイスといって、宇宙空間では血液が上半身に溜まり、鼻詰まりのようになりやすいため、薄味はあまりおいしく感じないと言われているから。ただし、近年の減塩ブームで、塩分を減らした宇宙食も登場しています(笑)。
ほかにも、栄養が手軽に取れるものであることも重要です。宇宙空間では骨密度が地上の10倍の速度で減少するため、対策としてカルシウムを多く入れたり、顎をきたえるため咀嚼回数を増やそうとごろっとした野菜を入れたり……。あとは長期保存ができるものであることもポイントです」
日本食は宇宙でも大活躍!
SpaceMate編集部「ところで、こちらのお店に売られているのは、実際に宇宙で食べられているものなのでしょうか?」
立元さん「宇宙で食べられているものもありますが、そうではないものもあります。当店では、宇宙日本食、フリーズドライ製品、宇宙で研究された素材を使用した食品の3つのタイプを販売しており、中でも宇宙日本食は宇宙空間で実際に食べられたものを店頭に置いています」
立元さん「宇宙日本食というのは、JAXAが定める宇宙日本食認証基準をクリアして認定を受けた食品のことで、現在では56品目1)が認定を受けています(2024年4月時点。市販は一部製品のみ)。大手食品会社から地域の企業や地方自治体まで、さまざまな企業・団体が宇宙日本食の開発に取り組んでいます」
SpaceMate編集部「宇宙でも日本食が親しまれているのはうれしいですね。そして、フリーズドライ製品と宇宙で研究された素材を使用した食品についても教えてください」
立元さん「まず、フリーズドライ製品は、当店オリジナルの宇宙食で、アポロ計画の頃に宇宙食として食べられていたフリーズドライ製品をイメージして作っています。昔は輸送コストの関係もあり、軽くて長持ちするフリーズドライが重宝されていました。
宇宙に行った素材を使用した食品は、宇宙に行った素材を地上で培養した素材が食品に入っています。宇宙空間で乳酸菌や藻を培養するなど、さまざまな研究が行われているんです」
「宇宙産」の野菜が店頭に並ぶ日も遠くない!?
SpaceMate編集部「宇宙食は地上の食事とあまり変わらないというお話がありましたが、今後はどう進化していくと予想されますか?」
立元さん「アルテミス計画という、2040年頃までに人が月で暮らせる居住区を作る計画があります。計画には月での食品の栽培も含まれていて、将来、宇宙産の食品ができる可能性があるんですよ。実際、日本国内で月の土地を再現して小松菜を栽培する実験が行われて成功しています。月で作られた食品が地上で販売される日が来るかもしれません。そうなったら、当店でも販売したいですね」
参考資料
まずはこれを食べてみて!宇宙の店のおすすめ3選
「宇宙の店」の店長、立元さんにイチオシの宇宙食を3つピックアップいただきました。宇宙食が気になる方は、まずここからスタートしてみてはいかがでしょうか?
①古川宇宙飛行士も食べた!宇宙で贅沢気分「スペースうなぎ」
立元さん「『スペースうなぎ』は長野県の老舗うなぎ店が開発し、2023年に認定を受けた新しい宇宙日本食です。2024年3月まで国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在していた古川聡宇宙飛行士のうなぎ好きがきっかけで開発されたとも言われていて、宇宙空間でも実際に食べたそうです。個人的には、宇宙日本食のちりめん山椒と一緒に食べたらおいしそうだなと思っています」
②防災食にもなる「LIFESTOCK[ムーンショットレモン味]」
立元さん「JAXAなどが取り組む『防災スペースフードプロジェクト』(BSFP)によって開発された、防災備蓄食としても重宝するゼリー飲料です。賞味期限が5年もありますし、固形物が喉につまりやすいお年寄りが飲むことも想定して流動性が良く、さらに、おにぎり1個と同じくらいの151キロカロリーを手軽に摂取できます」
③高校生が長年研究を引き継ぎ完成した「若狭宇宙鯖缶」
立元さん「福井県立若狭高等学校の高校生が開発した鯖缶です。先輩から後輩へ12年にわたってレシピを引き継ぎ、宇宙日本食の認定を受けたことで話題にもなりました。野口聡一さんが宇宙に行った際に持っていっていましたね。個人的には宇宙食の中で一番おいしいなと思います」
3つの気になる味については、つぎの宇宙食生活レポートでもご紹介します!
【レポート】SpaceMate編集部が「3日間宇宙食生活」に挑戦!
ここからは、宇宙食について学んだSpaceMate編集部が、3日間の宇宙食生活に挑戦!宇宙の店で売られているオリジナル商品を組み合わせて、食事だけでも宇宙旅行気分を味わってみました。
【1日目】宇宙食入門! まずはお手軽サクッとフードから
宇宙食初心者として、まずは「ザ・宇宙食」が感じられるようなお手軽フードから1日目をスタート!記念すべき一食目には、立元さんおすすめのゼリー飲料を飲んでみました。
●1日目:朝食
●1日目:昼食
●1日目:夕食
【2日目】挑戦中一番の高級品!3,000円のハンバーグを堪能
2日目は、夕食に今回の挑戦で一番高額のハンバーグをチョイス!朝には鯖缶、昼にはたこ焼き&味噌煮と、なんだか濃いものが食べたい1日でした。
●2日目:朝食
●2日目:昼食
●2日目:夕食
【3日目】待ちに待ったうな丼を実食
いよいよ最終日!挑戦中ずっと楽しみにしていたうな丼をいただきました。朝には1日目に食べた宇宙白米をリピートしましたが、水加減によって柔らかくなったり芯が残ったりと、絶妙な食感の違いを発見。好みの硬さに調整するのが難しかった…!
●3日目:朝食
●3日目:昼食・間食
●3日目:夕食
食べるおいしさと楽しさは宇宙も地上も変わらない
「どんな味がするのだろう?」と少し不安もある中で始まった宇宙食生活でしたが、食べてみるとすぐ楽しみに変わりました。想像していたよりもおいしいものが多かったので、正直もっとお腹いっぱい買ってみてもよかったかなと、ちょっとした後悔も。
宇宙日本食は立元さんのお話のとおり、地上での食事との差は少ないので、飽きることなく食べ続けられました。フリーズドライ製品は、それぞれ食感が異なるなど、食べてみてわかる気づきもあり、他の商品と食べ比べるのも楽しめそうです。どれも宇宙で食べたらもっとおいしいんだろうな……と思うと、ワクワクした気持ちになりました。
身近なところで手に入る! 宇宙食を一度食べてみては?
この記事で紹介した宇宙食はすべて、「宇宙の店」の店頭またはネットショップで購入可能です。
他にも、日本科学未来館、国立科学博物館といった教育施設をはじめ、最近では一部のホームセンターでも購入が可能。意外と身近なところで手に入る宇宙食。気になった方は、ぜひ一度食べてみてください。
宇宙の店
住所
〒105-5105 東京都港区浜松町2-4-1 世界貿易センタービル南館 5階
営業時間
月~金曜9:30~18:00(土曜 10:30~)
定休日
日曜・祝日(※祝日が土曜の場合は営業)