今後ますます盛んになる宇宙開発。今からその舞台で活躍する未来の人材を育てていくことが求められています。そんな中、中高生が宇宙空間で実験を行える世界初のプロジェクト「次世代宇宙研究プロジェクト」が立ち上がりました。今回は、プロジェクト主催企業のひとつであるIDDKの上野宗一郎さんと吉岡康平さんに、プロジェクトの内容や込められた想いを伺いました。なお、東京海上日動もこのプロジェクトにスポンサーとして協力しています。

●話を聞いた人

画像: 左から:吉岡康平さん、上野宗一郎さん

左から:吉岡康平さん、上野宗一郎さん

株式会社IDDK
代表取締役 上野宗一郎さん

株式会社IDDK・代表取締役。東芝で半導体の開発に従事し、MIDの技術を開発。その事業化を目的に、スピンアウトベンチャーとしてIDDKを設立した。東芝入社前は、大学発ベンチャーで衛星開発や衛星搭載機の開発、民間利用、地上利用などに携わっていた。

株式会社IDDK
取締役 最高財務責任者 吉岡康平さん
株式会社IDDK・取締役 最高財務責任者。アメリカで会計事務所のデロイトに勤務した後、日本に帰国。2021年よりIDDKに入社して現職。

中高生のアイデアが宇宙に行く!「次世代宇宙研究プロジェクト」

画像1: 中高生のアイデアが宇宙に行く!「次世代宇宙研究プロジェクト」

2040年を目標に、月面で1,000人が暮らす計画が構想されるなど、ますます進展する宇宙開発。そうした近い将来の活動の担い手となる中高生たちが、実際に宇宙で実験を行えるのが、今回立ち上がった「次世代宇宙研究プロジェクト」です。

中高生自らが考えた宇宙実験を行い、その結果を元に、研究発表まで行う本プロジェクト。現在はフィリピンやシンガポールなどの海外で一足先にスタートしており、日本でも今後本格始動が予定されています。

このプロジェクトを主催するのはIDDKとリバネスの2社。IDDKは、宇宙バイオ実験での活用が増えている「MID(Micro Imaging Device)」という顕微観察技術の開発や、宇宙バイオ実験のプラットフォームを構築している企業です(MIDについては、後ほど詳しく解説します)。もう1社のリバネスは、小中高生向けの教育事業やイベントを展開する企業で、フィリピンやシンガポールをはじめとした海外にも拠点を持っています。

画像2: 中高生のアイデアが宇宙に行く!「次世代宇宙研究プロジェクト」

上野さん「宇宙バイオ実験の事業を進めている中で、これまでは研究機関や民間企業、海外の政府機関などとの取り組みが中心でした。ただ、それら以外にも何か活かせる分野がないかと模索をしていたんです。そんな中で出合ったのが、“教育系”のイベントに力を入れているリバネスさんでした。共催の話がきっかけとなって、これまで自社だけでは実現できなかった今回のような教育プログラムを始めることができたんです」

宇宙空間でマイクロの世界を見る

画像1: 提供:IDDK

提供:IDDK

今回のプロジェクトに参加する中高生が体験できるのは、“顕微観察”による実験です。顕微観察とは、ミジンコなどの微生物や、肉眼では見えない物質を拡大して観察すること。しかし、地球上とは環境が異なる宇宙空間では、レンズを使う顕微鏡での観察が困難です。そこで活躍するのが、MIDを使った特殊な顕微観察装置です。

「いつでも」「どこでも」「だれでも」できる顕微観察

MIDとは、IDDKが開発した新たな「顕微観察の技術」です。半導体の特殊な技術を使っており、一辺5mmにも満たない四角い小さな半導体チップのうえに、見たいものを乗せると、拡大して観察することができます。

画像: 指先に乗ってしまうMIDチップ

指先に乗ってしまうMIDチップ

画像: USBスティックタイプのMID。対象物を乗せてPCに繋ぐと、PC画面で顕微観察が行える。

USBスティックタイプのMID。対象物を乗せてPCに繋ぐと、PC画面で顕微観察が行える。

たとえばMIDに食塩を乗せると、その結晶をはっきりと見ることができます。

レンズが使われていないことで、従来の顕微鏡に比べてさまざまな環境で観察ができるとのこと。

上野さん「私たちが目指すのは『いつでも』『どこでも』『だれでも』使える『顕微観察』の技術を広めることです。今回のプロジェクトでも、学生さんには当社のMIDやその技術を含んだ宇宙バイオ実験のプラットフォームを使って、どんな実験ができるのか、考えてもらうことになります」

IDDKという社名も、4つのキーワードの頭文字から来ているのです。

プロジェクトは学生たちと二人三脚で進む

そんな最新の顕微観察技術が用いられる、今回のプロジェクト。1度きりのイベントで終わるのではなく、以下のような流れで、時間をかけて学生たちと進めていきます。

画像: プロジェクトは学生たちと二人三脚で進む

スタートから成果発表まで、じつに1年以上をかけた計画です。中学校生活や高校生活の半分ほどの時間を、宇宙とともに過ごすことになるかもしれません。

参加学生は、具体的にどのような流れで宇宙実験を行っていくのでしょうか。「今回のプロジェクトは大きく3つのフェーズがあります」と吉岡さんは話します。

【フェーズ1】ワークショップで宇宙に触れる

フェーズ1では、共催しているリバネスとともに、学生が宇宙に触れる機会となる「宇宙バイオワークショップ」を実施。学生は専門家からの講義やアドバイスを受けながら、宇宙で実験したいテーマを考えていきます。

画像: 【フェーズ1】ワークショップで宇宙に触れる

吉岡さん「いきなり宇宙実験といっても学生はイメージが湧かないと思うので、実際に今、どのような実験が行われているのか、どういうことができるのか、というところから伝えていきます」

上野さん「たとえば、『地上にあるモノが、宇宙に行ったらどうなるんだろう?』という疑問があったときに、ワークショップの中でまずはそのモノの地上での様子を観察します。そして、それをどうやったら宇宙に持っていけるのか、ということまで一緒に考えてみるんです」

ワークショップを経て、学生たちは「宇宙に持っていったら面白そうなもの」「宇宙でどのように変化するか見たいもの」などを考え、実験の提案書を作成します。

【フェーズ2】自分が考えた実験が宇宙へ

提案された中から採用する実験が決まると、フェーズ2へ。実験計画の全体デザインや実験装置の準備を進めます。ここにはIDDKの宇宙バイオ実験のプラットフォームが活用され、専門的な作業が必要な部分はIDDKが担当します。

吉岡さん「フェーズ2についても、アイデアを出した学生と毎月細かくミーティングをしながら行っていく予定です。あくまで学生が主体となり、進めていきたいですね」

準備が完了したのちに、学生が考えた実験は、いよいよ宇宙に打上げられます。観察対象となる“サンプル”と実験装置を積んだ人工衛星は、宇宙に一定期間滞在したあと、サンプルが地球に戻ってくる予定です。実験経過はもちろん、人工衛星の打上げ状況やサンプルがどこを経由して学生たちの元に戻ってくるのかなど、IDDKにより細かく学生たちに共有されます。

【フェーズ3】実験結果をプレゼンテーション

最後のフェーズ3では、戻ってきたサンプルをもとに、宇宙での変化や分かったことをまとめ、サイエンスイベントの場で発表を行います。発表では学生たち自身がプレゼンテーションを行います。

中高生ならではの自由なアイデアに期待

画像1: 中高生ならではの自由なアイデアに期待

研究テーマは、MIDに乗せて観察できるものなら基本的には制限がありません。食べ物・飲み物、微生物などの小さな生き物、砂や鉱物、プラスチック…etc. 学生が気になるものを自由に選ぶことができます。

宇宙に行くと、地上では見られない不思議な現象がたくさん起きます。重力がほとんどないため、魚がまっすぐ泳げなかったり、地上では比重の違いから混ざらないものが宇宙では混ざったり。

顕微観察でもそれは同じです。たとえば最近よく行われている宇宙実験のひとつに「タンパク質」の結晶を生成するものがありますが、宇宙空間では地上よりも品質のよい結晶を生成できるため、医薬品の研究・開発などに応用されています。

ワークショップでもこの事例を紹介する予定で、中高生からもタンパク質の結晶に関する実験アイデアが出てくるのでは、と2人は予想します。

画像2: 中高生ならではの自由なアイデアに期待

上野さん「ただし学生からは観点が違うアイデアも出ると思っていて、宇宙でタンパク質の結晶を作るにも『花形の結晶を作ってみたい』といった大人では思いつかないような目的が見つかるかもしれません。それ以外にも、『理科の授業で観察したあの生物が宇宙ではどうなるかな』など、中高生ならではのアイデアや純粋な疑問から実験が生まれると面白そうですね」

また、今後プロジェクトを第二回、第三回と継続していくことも予定しており、その過程では実験できる対象を広げていくことも考えているそう。

上野さん「最初期のプロジェクトでは、MIDを使った顕微観察実験のみになっていますが、今後プロジェクトを続けていく中では、もっと大きなものを見られるようにする開発なども進めているんです。たとえば、昆虫や植物などを見られるようにもなるかもしれません」

「自分も宇宙を目指していいんだ」学生たちの希望になる体験を

画像1: 「自分も宇宙を目指していいんだ」学生たちの希望になる体験を

上野さんと吉岡さんが望むのは、このプロジェクトを通して学生が宇宙に興味を持ち、将来この領域で活躍する人が育つこと。そもそも今回の企画の目的は、未来の宇宙開発を担う「次世代の教育」に他なりません。

上野さん「2030年、2040年に向けて新しい宇宙ステーションが立ち上がる計画や、月の開発を進める計画がある中、そこで活躍する人たちを今から育てていくことが大切です。数十年後の未来で活躍するのは今の小中高生たちなので、彼らが学生のうちから、実験という形で宇宙に触れたり、宇宙を活用する体験をできるのは、大きな価値があると思っています」

じつは上野さんも、小さい頃から宇宙が好きだったといいます。ただ、いくら宇宙が好きでも「あまりに存在が遠すぎて、自分がそこで何かできるとは思っていなかった」とも話します。

上野さんこのプロジェクトに参加すると、学生のうちから宇宙を“使って”何かをする体験ができるんです。もし自分が小さい頃にこんな機会があったなら、すごく大きな感動があっただろうなと思うので、そうした場を提供できることに意義を感じています」

画像2: 「自分も宇宙を目指していいんだ」学生たちの希望になる体験を

吉岡さん「学生たちに宇宙を身近に感じてもらえる場にもなると思いますし、その中で『自分も宇宙を目指していいんだ』という考えを持つきっかけになれればうれしいですね。また、私たちのような民間企業が宇宙に取り組んでいることを知ってもらうことで、学生たちが将来宇宙に関わるための選択肢を示せたらとも思います」

宇宙に関わるというと、宇宙飛行士や人工衛星を作る仕事などを思い浮かべるもの。しかし上野さんは、じつはいろいろな業界の人が、宇宙という特殊な環境を“使う”発想を取り入れていると言います。

前述したタンパク質の結晶もそのひとつで、元は医療業界の研究が始まりです。また、食物についても、宇宙の過酷な環境で育てる方法を確立できれば、その技術を地上に適用して未来の食糧不足を回避できるかもしれません。宇宙を“使う”ことで地上の暮らしを良くする可能性はたくさんあるのです。

たくさんの未知へのチャレンジを楽しんでほしい

未来の宇宙開発、そして地上の暮らしを豊かにすることにもつながる今回のプロジェクト。最後に上野さんは、子どもたちに向けて宇宙の面白さを口にします。

画像: たくさんの未知へのチャレンジを楽しんでほしい

上野さん「宇宙には未解明のこと、前例のないことがたくさんあります。地上で暮らしていると、そういう“未知”のことにチャレンジできる機会はなかなかありません。未知へのチャレンジは楽しいですし、何かの1番目になれば名前も残ります。宇宙にはそのチャンスがたくさんあると子ども達に伝えたいですね」

日本でのプロジェクトについては、これから参加者の募集を開始する段階。中高生からどんな実験アイデアが出て、どんな成果を得られるのか。今から楽しみです。

クラウドファンディングのお知らせ

画像2: 提供:IDDK

提供:IDDK

IDDKでは、2024年度末に予定している同社の自動バイオ実験装置の打上げについて、クラウドファンディングを行っています。人工衛星に装置を搭載し、宇宙で自動バイオ実験装置の実証を実施。地上に戻ってくる計画。成功すれば、人工衛星を用いた全自動の宇宙バイオ実験としては世界初。クラウドファンディングの出資者は、リターンとして、IDDKのキーホルダーやTシャツ、USBスティックタイプのMIDなどがもらえるほか、実証機の側面に名前を載せることができたり、報告会への参加権などがもらえます。

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