※この記事ではNASA認定の宇宙食について紹介しています。
宇宙食とは?
宇宙食は、国際宇宙ステーション(ISS)などで、宇宙飛行士が無重力環境でも安全かつ快適に食べられるように設計された特別な食事です。宇宙食と聞くと、いまだにチューブに入った食品をイメージする人がいるかもしれません。しかし、現在の宇宙食はレトルトやフリーズドライ食品ではあるものの、地上のメニューとほとんど変わらないほど多様化しており、味や食べやすさも工夫されているのです。
宇宙食の役割
宇宙食には2つの大きな役割があります。1つ目は、健康維持に必要な栄養をしっかり補うことです1)。宇宙飛行士ごとに年代や性別、体格に合わせて必要なカロリーが計算され、適切な食事が提供されます。以下は、宇宙飛行士の1日に必要なカロリーを算出する計算式です。
〈表〉男性宇宙飛行士の健康維持に必要なカロリーの計算式
年代 | 1日の摂取カロリー |
---|---|
18~30歳 | 1.7 ×(15.3 × 体重(kg)+ 679)(kcal) |
30~60歳 | 1.7 ×(11.6 × 体重(kg)+ 879)(kcal) |
〈表〉女性宇宙飛行士の健康維持に必要なカロリーの計算式
年代 | 1日の摂取カロリー |
---|---|
18~30歳 | 1.6 ×(14.7 × 体重(kg)+ 496)(kcal) |
30~60歳 | 1.6 ×(8.7 × 体重(kg)+ 829)(kcal) |
2つ目は、宇宙空間での生活パフォーマンスを維持・向上させることです。地上と同じように、食事は宇宙飛行士にとって重要な楽しみのひとつ。おいしい宇宙食を食べることで、ストレスを軽減し、気分転換ができます。実際、ISSではピザパーティやタコスパーティなどのイベントが行われ、乗組員の交流にも一役かっています2)。
宇宙食と普通食の違い
宇宙食と私たちが地上で食べる普通の食事(普通食)には、いくつかの違いがあります。たとえば、無重力では液体が飛び散るため、汁物は粘度を高めた仕様になっています。また、飲み物は飛び散らないよう特殊なパッケージに入れられています。
さらに、宇宙食の味付けは地上の食事よりも濃いめに設定されています。これは、宇宙空間では血液が上半身に溜まることで鼻が詰まった状態になり、薄味だとおいしく感じにくくなることがあるためです。そのほか、栄養面も工夫されており、地上よりも生鮮食品などが摂取しにくい環境のため、宇宙食には多くのビタミンやミネラルが添加されています。
このように、宇宙食には宇宙の特性に合わせたさまざまな加工が施されています。
宇宙食の条件
宇宙の特性に合わせて作られる宇宙食には、宇宙で安心して食べられるよう、以下の条件が求められます。
●衛生性が高いこと
宇宙空間でもっとも避けたいのは食中毒などのトラブルです。ISSは閉鎖環境であり、万が一治療が難しい場合には緊急帰還が必要になる可能性もあります。そのため、宇宙食には高い衛生性が求められます。NASAでは食品の安全性を確保するためにHACCP(※)という国際基準を採用しています3)。また、ISSに持ち込む食品は細菌数が基準値以下と定められています4)。
※:HACCP(危害分析重要管理点)は、食品の製造・流通過程で発生する危害を分析し、重要管理点で安全を確保する衛生管理手法。
●長期保存が可能なこと
頻繁に食品を運ぶことができないため、宇宙食の多くは、常温で長期間保存できるレトルトやフリーズドライ製品です1)。一部には新鮮な野菜や果物も含まれますが、基本的に長期保存可能なものが求められます。
●安全性が高いこと
ISSでの火災リスクを減らすため、宇宙食の容器や包装は、燃えにくい素材で作られていることが必要です1)。また、万が一燃えた場合でも、有害なガスが発生しないよう設計されています。これにより、ISSのような閉鎖空間でも安心して使用することができるのです。
●飛び散らないこと
無重力環境では、液体や粉末が飛び散ることで電気系統に障害を与えるおそれがあります。そのため、液体を含む食品には、スパウト(吸い口)やストロー付きのパッケージが使用され、こぼれない工夫がされています。また、汁気のある食品は、粘度を高めてとろみのある状態にすることで、飛び散りを防いでいます。
さらに、ISSの空気清浄度を維持するため、食品から微粉が発生しないことも重要な条件です。また、臭いの強い食品は、ISSの閉鎖空間でほかのクルーにストレスを与える可能性があるため適しません。
条件のほかにもある!宇宙食に大切なこと
前述で紹介したことのほかに、宇宙食には次のようなことも求められます。
●軽量でコンパクトであること
宇宙食を運ぶ宇宙船や補給機(※)は搭載容量の制限があるため、宇宙食は軽くてコンパクトであることが重要です5)。軽量化により、補給機で運搬する際の輸送効率が向上します。
●簡単に調理・準備できること
ISSでは火を使うことができず、電子レンジもありません。そのため、宇宙食はお湯を注ぐだけ、または専用の装置で温めるだけで簡単に食べられることが大切です。もちろん、調理なしでそのまま食べられるものもあります。
※:補給機とは、ISSへ食品や実験機器などの物資を届ける無人宇宙船のこと。
宇宙食の歴史
今では300種類以上6)のメニューがある宇宙食ですが、開発当初は種類も限られており、味や食べやすさが十分に考慮されていませんでした。ここでは、JAXAやNASAに記録されている現在までの宇宙食の歴史を紹介します7)8)。
①宇宙食の始まり:マーキュリー計画(1958〜1963年)
アメリカ初の有人宇宙飛行計画であるマーキュリー計画の宇宙食は、ひと口サイズの固形食やチューブ入りのペースト状食品でした7)。食べやすさを重視したシンプルな構造が特徴で、チューブにはストローを付けて食べていたそうです。
また、1961年にはソ連のユーリイ・ガガーリン氏がボストーク宇宙船に搭乗し、人類初の宇宙飛行を成し遂げました。この時は、アルミチューブに入った牛肉やレバーのペースト、チョコレートソースなどが食べられていました8)。
②フリーズドライ食品の導入:ジェミニ計画~アポロ計画(1963~1972年)
ジェミニ計画では、フリーズドライ食品が初めて登場し、宇宙飛行士は水で食べ物を戻して食べていました8)。また、ひと口サイズのトーストやベーコンエッグ、オレンジジュースなども持ち込まれたそう。この時期には、パッケージを開けるはさみや、フリーズドライ食品に水を加えるウォーターガンなども開発されました7)。
続くアポロ計画では、宇宙船内でお湯が使えるようになり、フリーズドライ食品をお湯で戻して食べられるようになりました7)。この頃には、宇宙食の種類も、メインディッシュ、調味料、飲み物など約70種類ほどに増えました。また、マーキュリー計画時代には、1日分で2kgもあった宇宙食が、600gにまで軽量化され、運搬効率も向上しました7)。
③少しずつ地上に近い食生活へ:スカイラブ計画(1973~1974年)
1973年、初の宇宙ステーション「スカイラブ」が打上げられ、宇宙飛行士が宇宙での長期滞在を始めました。この時期から、無重力環境が宇宙飛行士の体に与える影響を調査する実験が行われ、食事内容も綿密に管理されるようになります7)。72種類6)あった宇宙食の約半分はフリーズドライ食品でしたが、残り半分はレトルト食品など地上に近い食事でした。また、スカイラブには冷凍冷蔵庫もあり、ロブスターやアイスクリームなども食べられるようになりました。
その後、1975年に実施されたアメリカとソ連の共同宇宙ミッション、アポロ・ソユーズテスト計画(ASTP)では、アメリカの宇宙飛行士が初めてロシアの宇宙食を食べるなどの交流が行われたそうです8)。
④宇宙で生鮮食品も食べられるように:スペースシャトル計画とISS(1981~2008年頃)
スペースシャトルでの短期滞在とISSでの長期滞在が行われていた1980年以降の宇宙食は、さらに地上の食事に近づきました。レトルト食品やフリーズドライ食品などが中心であることは変わりませんが、ドライフルーツやビーフジャーキー、ナッツ、クッキー、果物、野菜など、地上と同じ食品が宇宙でも食べられるようになったのです7)。当時、その種類は200以上9)に増えていました。
また、現在ISSの標準食となっているトルティーヤが導入されたのもこの時期です。アポロ計画時代、主食としてパンを持ち込もうとしましたが、パンくずが無重力環境で飛び散る問題が発生。そこで、メキシコ出身の宇宙飛行士ロドルフォ・ネリ・ヴェラ氏がトルティーヤを提案しました8)。パンくずが出ず、さまざまな具材を挟めるトルティーヤは、その便利さから現在では宇宙食の定番となっています。
⑤多国籍の食文化:ISS(2008年~)
宇宙飛行士の多様性が増し、ISSにはさまざまな国の宇宙飛行士が訪れるようになりました。それにともない、宇宙食は多様化、多国籍化し、現在では300種類6)にまで増えています。
また、NASAが決めたメニューのほかに、自分の好きな食事をISSに持ち込める制度も導入されました。2010年には、宇宙飛行士の山崎直子さんと野口聡一さんがこの制度を利用して、寿司パーティを開催。ニュースにも取り上げられ、話題になりました10)。
⑥宇宙食の未来
これから計画されている惑星探査に向けて、宇宙食は地球から持ち込む時代から、探査先で栽培したものを食べる時代へと進化が求められています。たとえば、NASAでは宇宙空間での自給自足を目指し、ISS内でロメインレタスやズッキーニの試験栽培が行われています11)。
また、日本でも月や火星での長期滞在を視野に入れた持続可能な食料生産システムの開発が進められています12)。これらの技術が確立されれば、探査先での長期滞在が現実のものとなるでしょう。
宇宙食の種類
時代とともに進化してきた宇宙食は現在300種類以上あるといわれています。ここでは、実際にISSなどで食べられている宇宙食の一例を紹介します。
フリーズドライ食品(湯・水で戻して食べる食品)
フリーズドライ食品は、持ち運びしやすく日持ちもするため、アポロ計画の頃から欠かせない宇宙食です。メイン料理、副菜、ご飯など幅広いメニューが揃っています。
【フリーズドライ食品の宇宙食例】13)
- ビーフストロガノフ
- メキシカンスクランブルエッグ
- 野菜キッシュ
- ピラフ
- エビチャーハン
【コラム】いいことだらけ!フリーズドライ食品の作り方
私たちの食生活でもお馴染みのフリーズドライ食品は、食品を急速に凍結し、真空下で水分を昇華(※)させて乾燥させることで、風味や栄養価を保持しつつ長期保存を可能にしています14)。
そのため、栄養補給や食事の楽しみとしての“おいしさ”が重要な宇宙食に重宝されているのです。
日本では1960年代からフリーズドライ食品の研究が行われ、1970年代にカップラーメンが登場したことで一般家庭に普及しました。現在では、インスタント食品や乾燥野菜など、様々な食品に活用されています。
※:固体が液体にならず、直接気体になること。
参考資料
レトルト食品や缶詰など(温度安定化食品)
宇宙食には、レトルト食品や缶詰も豊富です。これらは、温めて食べるだけでなく、常温でもおいしく食べられるよう工夫されています。また、汁物は粘度を高めて無重力環境でも食べやすいよう作られています。
【レトルト食品や缶詰の宇宙食例】15)
- インド風フィッシュカレー
- チキンヌードルスープ
- ビーフシチュー
- トロピカルフルーツサラダ
- バナナプディング
生鮮食品
生鮮食品は、ほかの宇宙食や生活用品とともに補給機でISSに運ばれています。その際、野菜や果物は、塩素などによる除菌、個別包装が行われ、専用のバッグに入れて積み込まれます。傷みやすいため、ISS到着後は早めに消費されます。
【生鮮食品の宇宙食例】16)
- 生野菜
- 果物
- トルティーヤ
参考資料
16)JAXA「生鮮食品」
自然形態食品・半乾燥食品
そのまま食べられる食品が中心で、スペースシャトル計画の時代から食べられています。ドライフルーツなどは水分を加えて柔らかくして食べることもあるようです。
【自然形態食品・半乾燥食品の宇宙食例】17)
- ナッツ
- クッキー
- キャンディー
- ドライフルーツ
- ビーフジャーキー
参考資料
放射線照射で殺菌処理した食品
放射線照射で殺菌処理を施すことで、長期保存を可能にした食品です。宇宙食では、ビーフステーキなどが提供されています。
【放射線照射で殺菌処理した宇宙食例】18)
- ビーフステーキ
参考資料
調味料
好みに合わせて味を変えられるよう、宇宙食には調味料も揃っています。塩とこしょうは、無重力環境で飛び散らないよう液体状に加工されています。
【調味料の宇宙食例】17)
- 塩
- こしょう
- ケチャップ
- マスタード
- マヨネーズ
国際宇宙ステーション(ISS)での食事
さまざまな宇宙食を紹介しましたが、実際にISSではどのような献立で1日の食事をしているのでしょうか。宇宙飛行士の野口聡一さんが宇宙で食べた1日のメニューを紹介します。
〈表〉ISSの1日のメニュー例18)
朝食 | 昼食 | 夕食 |
---|---|---|
・乾燥洋なし ・お吸い物 ・ブランチェックス(シリアル) ・ホワイトチョコ ストロベリー ・オレンジマンゴードリンク ・ココア | ・ビーフストロガノフ&パスタ ・ラーメン ・シーフードチャウダー ・アーモンド ・レモンティー | ・照り焼きチキン ・カレー ・白飯 ・トルティーヤ ・タピオカプリン ・パイナップルドリンク ・抹茶(砂糖入り) |
朝食はシリアルや果物、昼食はパスタやラーメン、夕食はカレーライスといった、日本人にもなじみのある料理が取り入れられています。一食にこれだけのメニューを食べるのは、宇宙食の1個あたりのサイズが小さいためです。
【コラム】宇宙でアイスクリームが食べられているって本当!?
宇宙でアイスクリームが食べられているという話を聞いたことはありますか? じつは、宇宙食をモチーフにしたお土産品の中に、フリーズドライ食品のアイスクリームがあり、それが宇宙でも食べられているとウワサされています。しかし、フリーズドライ食品のアイスクリームが本当に宇宙で食べられていたかどうかは明らかになっていません。
一方、本物のアイスクリームが宇宙で食べられた記録は存在します。1973~1974年に利用された宇宙ステーション「スカイラブ」では、冷凍冷蔵庫を利用してアイスクリームが提供されていました。また、2018年には実験用の冷凍庫にアイスクリームを入れた補給機がISSに届けられ、宇宙飛行士たちが楽しんだといわれています9)19)。
宇宙食の調理方法・食べ方
宇宙飛行士にとって、食事は栄養補給だけでなく、心のリフレッシュにも欠かせない時間です。特に温かい食事は、その満足感をさらに高めてくれます。しかし、ISSにはガスコンロや電子レンジはありません。そこで活躍するのがPWD(Portable Water Dispenser)やフードウォーマーです20)21)。ここでは、それらを使った宇宙食の調理方法を簡単に紹介します。
PWD(ポータブル ウォーター ディスペンサー)
PWDは、おもにフリーズドライ食品に水やお湯を注ぐための機械です。水またはお湯、注ぐ量を選択してボタンを押すだけで、適切な量が自動的に注がれます。ISSではヤケドのリスクを防ぐため、お湯の温度は80℃に設定されています22)。
フードウォーマー
フードウォーマーはレトルト食品などを温める専用機器です。使い方はシンプルで、食品をセットしてスイッチを入れるだけ。ただし、食品が温まるまでには20~30分程度かかるため、調理時間を見越して準備する必要があります。電子レンジのような利便性はありませんが、宇宙飛行士が温かい食事を楽しむための重要な装置です。
鯖缶からラーメンまで!宇宙日本食とは?
NASAから提供される宇宙食とは別に、宇宙飛行士は自分の好きな宇宙食をISSに持ち込むことができます。民間企業がつくったものを持っていけることもあり、日本では「宇宙日本食」として多彩な宇宙食が開発されています。どんな日本食が宇宙で食べられているのか、宇宙に関するグッズを扱う「宇宙の店」店長の立元忍さんに伺いました。
宇宙日本食とは?
宇宙日本食とは、JAXAから認証を受けている宇宙食のことです。2024年11月現在、31社55品目23)が認証を受けており、その数は年々増加中です。国内の大手食品メーカーだけでなく、地域の名産を世界に広める取り組みの一環として、地方の食品メーカーや自治体も開発に携わっています。
参考資料
23)JAXA「宇宙日本食」
宇宙日本食の種類一覧
ここでは、宇宙日本食の一例を紹介します23)。
●ラーメン(カップラーメン)
日清食品のカップヌードルやチキンラーメン、カップ焼そばU.F.O.が宇宙日本食の認証を受けています。これらは、市販品を基に宇宙仕様に改良された製品です。たとえば、カップヌードルとチキンラーメンはスープが飛び散らないように粘度を高め、70℃のお湯でも作れる仕様になっています。また、ISS内では湯切りができないため、カップ焼そばU.F.O.にはお湯を吸い切る特殊な麺が採用されています。
●缶詰(鯖缶など)
サバやイワシの缶詰も宇宙日本食の認証を受けているものがあります。その中のひとつ、サバ醤油味付け缶詰は、福井県立若狭高等学校の生徒が代々研究を受け継ぎ、12年かけて完成させた缶詰で、2020年には宇宙飛行士の野口聡一さんがISSで食べたことで話題になりました。
●うなぎの蒲焼
うなぎの蒲焼のような贅沢なメニューもあります。宇宙飛行士の古川聡さんがうなぎ好きだったことがきっかけで開発され、ISS滞在時に実際に食べられました。
●カレー
レトルトカレーにはハウス食品のチキンカレー、ポークカレー、ビーフカレーなどがあります。地上のレトルトカレーよりも濃い味付けが特徴です。
●お米
白米、赤飯、山菜おこわ、おにぎり 鮭が宇宙日本食の認証を受けています。いずれもお湯を入れて調理をするアルファ米でできており、ご飯のおいしさを宇宙でも味わうことができます。
●からあげクン®
ローソンで人気のからあげクン®も宇宙日本食になっています。この製品も、市販品を基に、宇宙環境に適応するように改良されています。たとえば、フリーズドライ食品ですが、お湯で戻さずそのまま食べられる仕様になっています。
●マヨネーズ
キユーピーが開発した宇宙用マヨネーズは、生野菜サラダと一緒に食べるために長期間の品質維持を実現しています。地上とは異なる製法で作られた特別仕様です。
このように、宇宙日本食には日本人になじみのあるメニューが揃っています。その味や工夫は、ISSでの生活に安心感を与えるだけでなく、日本の食文化を世界に広める大きな役割も果たしています。
【関連記事】3日間の宇宙食生活にチャレンジ!宇宙旅行を擬似体験してみた
これからの宇宙食はどうなる?
現在、各国で月探査や火星探査が計画されています。それにともない、宇宙食はさらなる進化が求められることになるでしょう。以下では、今後の課題とその対応策について紹介します。
火星探査に向けた長期保存食品の研究
火星探査は往復に数年かかるため、現在の宇宙食の賞味期限である1年半では不十分です24)。補給機による食品運搬も、ISSと比べて大幅に難易度が高くなると予想されます。
現時点では、火星探査用の宇宙食の具体的な答えは出ていませんが、NASAは5年以上の保存が可能な宇宙食の必要性を指摘しています。これに対応するため、賞味期限を延ばすパッケージ技術の開発が進行中です25)。また、長期輸送中に破損しない強度も求められます。火星探査は宇宙船や機器の開発に注目が集まりがちですが、宇宙食の研究も成功には欠かせない要素といえるでしょう。
宇宙で育てる食品の開発
現在、宇宙食は地上から持っていくことが基本ですが、前述したように、将来的には探査先で栽培した食品を食べる時代がくるかもしれません。ISSでは、すでに野菜の栽培実験が行われており、ロメインレタスやズッキーニの栽培に成功しています。しかし、宇宙空間での自給自足には至っていません。現在進行中のアルテミス計画では、月面滞在時に植物工場を設置し、食料を現地で生産する構想があります26)。実現にはまだ時間がかかるものの、月面での食料生産に向けた調査やテストが進められています。こうした試みは、将来的な火星探査や長期宇宙滞在の実現に向けた重要なステップとなるでしょう。
【関連記事】アルテミス計画とは?目的やスケジュール、日本の役割などを解説
宇宙食は非常食にもなる
このように、宇宙への進出に欠かせない宇宙食ですが、じつは非常食として活用することも可能です。また中には、もともと非常食として開発された宇宙食もあるようです。宇宙食と非常食の、その高い親和性について見ていきましょう。
宇宙食のメリットが非常食のメリットになる
ISSではガスコンロや電子レンジが使えません。これは、災害時の地上でも同じ条件といえます。そのため、加熱が不要でそのまま食べられる、または水やお湯があれば調理できる宇宙食は、非常食としても最適です。
さらに、現在の宇宙食は栄養バランスを考慮して作られているため、災害時に必要な栄養補給にも役立ちます。また、常温で長期間保存が可能なため、非常食として長期間備蓄できるのも大きなメリットです。JAXAと一般社団法人日本災害食学会(JDFS)は、この親和性に注目し、宇宙日本食が簡易な審査で「日本災害食」の認証を受けられる仕組みを構築しています27)。
非常食が宇宙食になることもある
宇宙食の中には、もともとは非常食だったものもあります。たとえば、2009年に宇宙飛行士の若田光一さんがスペースシャトル・ディスカバリーに搭乗した際に食べた缶入りのソフトパンは、阪神淡路大震災の救援物資として開発されていました。その後、製造元のパン・アキモトにより改良され、宇宙食として採用されました。
また、ワンテーブルが製造する防災備蓄ゼリーは、開発当初から非常食と宇宙食の両方での利用を想定した商品です28)。ISSと災害時の環境に共通点が多いことに着目して開発されたそうです。
宇宙食を販売している場所や購入方法
非常食としても使える宇宙食ですが「どこで購入できるの?」という人もいるかもしれません。宇宙食は、日本科学未来館や国立科学博物館などの教育施設、浜松町にある「宇宙の店」の店頭やネットショップで購入可能です。最近では、一部のホームセンターでも取り扱いが始まっています。
非常食の買い換え時期に、宇宙食を選んでみるのもいいでしょう。災害時の備えをしながら、宇宙への興味を広げるきっかけにもなるかもしれません。
宇宙の店
住所
東京都港区浜松町2-4-1 世界貿易センタービル南館 5階
営業時間
月~金曜 9:30~18:00
土曜 10:30~18:00
定休日
日曜・祝日(祝日が土曜の場合は営業)・年末年始
進化する宇宙食の今後に期待
宇宙開発とともに進化を続けてきた宇宙食。初期の宇宙食は、宇宙飛行士の評判も今ひとつで、お腹を満たすだけの存在だったかもしれません。しかし現在では、おいしさと栄養価が両立し、ISS滞在中の楽しみやクルー同士のコミュニケーションツールとしても欠かせない存在になっています。
また、宇宙食の開発で培われた技術や研究成果は、地球上の食料危機や災害時の食料供給といった課題の解決にも貢献する可能性があります。一見、縁遠いように思える宇宙食ですが、私たちの未来の食生活の救世主となるかもしれません。今後の進化に期待しておきましょう。
※この記事の内容は2024年12月23日時点の情報をもとに制作しています