『SpaceMate』は東京海上日動が運営する宇宙メディアですが、「なぜ保険会社が宇宙メディアを?」と疑問に思う方も多いでしょう。じつは東京海上日動は、約50年前から宇宙保険を取り扱っています。そして2022年4月には、会社をあげての一大プロジェクト「宇宙プロジェクト」も立ち上げました。そんな東京海上日動と宇宙の関係について、なぜ今、本気で取り組んでいるのか。東京海上日動の吉井信雄に聞きました。

●話を聞いた人

画像: 東京海上日動が『宇宙』に本気になる理由

吉井信雄

1989年日動火災海上保険株式会社(現・東京海上日動火災保険株式会社)入社。国際宇宙保険市場において宇宙保険アンダーライターとして20年以上にわたり世界のロケットや人工衛星に関わる宇宙保険の引受け業務に従事。国際市場での経験を生かし宇宙関連企業に対するリスクコンサルティングも行っている。

始まりから約50年、東京海上日動と宇宙の関係

画像: 取材を行った東京海上日動「G/D Lab.」には、宇宙モチーフの空間が広がっている

取材を行った東京海上日動「G/D Lab.」には、宇宙モチーフの空間が広がっている

東京海上日動と宇宙との関係は、50年近くにも及びます。その始まりは1970年代。宇宙開発事業団(今のJAXA)が開発した人工衛星打上げ時の保険引受に参加したことが始まりだそう。宇宙は長らく保険の対象でもあり続けているのです。

「人工衛星を宇宙に上げるとき、もっともリスクが高いのはロケットを打上げるフェーズです。ですから保険はロケット点火の瞬間から始まり、その後の一定期間の運用を補償します。この保険のしくみは、当時から現在まで変わらず続いていますね」(吉井、以下同)

1980年代に入って、通信衛星を中心とした人工衛星の打上げがより盛んになり、東京海上は国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)から宇宙保険を引受けることとなったそう。
そして現在では、国内外の多くの宇宙関連企業の宇宙保険を担当しています。

東京海上日動が宇宙関連企業から信頼されるワケ

現在、東京海上日動が数多くの企業から宇宙保険を任せてもらえるようになった背景には、約50年の歴史の中で培ってきた宇宙産業と宇宙リスクに関する知見と、国際宇宙保険市場でのネットワーク力がある、と吉井は語ります。

「東京海上日動は、国際宇宙保険市場の黎明期から、主要アンダーライターの1社として宇宙保険を積極的に引受けてきました。これまで宇宙保険の引受けを通じて、世界各国で進められてきたさまざまな宇宙開発プロジェクトに関与してきており、そのプロジェクト参画によって獲得し蓄積した知見を活用して、現在多くの国内の宇宙関連プロジェクトをご支援しています」

ここまで知見が蓄積されてきたのには、宇宙保険のしくみが関係しているそう。

「人工衛星の保険というのは完全にオーダーメイドの商品です。衛星ごとに用途は異なりますし、使用されている技術も違うので、対象となる衛星とその都度向き合って保険を設計する必要があります。

そのため、宇宙保険の手配に先立っては、国際宇宙保険市場へ参加する保険会社に対して、衛星メーカーによる技術説明会が開催されるのが通例です。説明会の場では衛星の設計内容について詳細な説明がなされます。また、ロケットに関する情報や各メーカーとの契約内容等も開示され、それらを詳細に研究・検討して引受条件を決定します。こうしたプロセスを通じて、宇宙保険を引受ける保険会社には、世界各国の宇宙開発に関するさまざまな情報が集まってくるんです」

画像: 東京海上日動が宇宙関連企業から信頼されるワケ

「その衛星がどのような機能を持ち、いかなるしくみで稼働しているかを把握する必要がありますし、どのような場合に衛星の稼働能力が失われるのかきちんと理解していかなければなりません。衛星が故障した場合、実際に故障した箇所を修理することができないので『何をもって損害とするか』を保険約款で具体的に定義することが必要となります。そこが、宇宙保険を扱う上でもっとも難しい点ですね」

培った知見を求めて、アドバイスを求める声も

それぞれの衛星に合わせて、その都度保険を設計していくのは非常に難易度の高い仕事ですが、こうした経験が宇宙保険を扱う保険会社の強みにもなっています。

画像: 培った知見を求めて、アドバイスを求める声も

「さまざまな宇宙関連企業の中で、おそらく国際宇宙保険市場に参加している保険会社が、一番宇宙開発に関する情報を持っているのではないかと思います。そのため、世界の宇宙関連企業が新たなプロジェクトに取組む際には、“宇宙保険の引受けを行っている保険会社にアドバイスを求める”ということが一般的に行われます。当社もお客様からそうしたご要請をいただくことがよくあるため、宇宙保険の引受けだけでなく、宇宙関連企業に対してコンサルティングサービスもご提供しています」

1970年代から始まった東京海上日動の宇宙保険の歴史に対して、コンサルティングへの需要はここ数年で高まってきているそう。

「これまで宇宙開発に取り組んでいるのは豊富な経験を持つ大企業が中心でした。しかしここ数年、宇宙関連のスタートアップ企業がどんどん出始めてきました。また、宇宙事業に取り組んでいなかった大企業も続々と宇宙事業に参入してきています」

「宇宙プロジェクト」誕生の背景

そして、まさにそうした宇宙産業全体の盛り上がりが加速したからこそ、今の「宇宙プロジェクト」が誕生したと吉井はいいます。

「当社ではこれまで、宇宙保険の引受けを行う専門チームのみで宇宙関係の対応を行ってきましたが、増加するお客様のニーズに対応していくために、社内横断的な組織『宇宙プロジェクト』がスタートしたんです。

『宇宙プロジェクト』を立ち上げたことで、DX推進の部門や営業企画・開発部門、商品開発部門など、社内の多くの部門・部署が横断で宇宙事業に関与するようになりました」

画像: 「宇宙プロジェクト」誕生の背景

そんな現在の宇宙産業の成長に関して、印象的なエピソードを尋ねると、吉井の口からアノ企業の名前が出たのでした。

「スペースXが商用ロケットの打上げ事業に参入した当初、国際宇宙保険市場での評価が芳しくない時期がありました。そこでスペースXは、宇宙保険関係者を集めて、プレゼンをしたんです。私も参加したのですが、当時は世間のスペースXへの関心が極端に低かったのを覚えています。参加者への手土産として用意されていたいろいろな種類のロゴ入りTシャツも山積みで残っていたほど。今であればあっという間になくなっていたと思います。

そこからスペースXが今のように注目を集めるまで、10年もかかってないんですよ。その瞬発力と技術力、実行力をリアルタイムに体感できたのはいい経験だったと思っています」

長年、宇宙産業を見守ってきた立場だからこそのエピソードですね。このように、かつて“新参者”に厳しい空気のあった宇宙産業界の雰囲気も、今やフレンドリーなものに変わってきたのだとか。

「それまでは民間企業がロケットを作った例がなかったですからね。ロケット開発は国家事業として取り組まないと不可能っていう概念を、スペースXが打ち破った印象でした。

宇宙事業ってそもそも難しいことなので、どうしても失敗はつきものなんですよ。そこにみんなで協力しながら挑戦しているような業界だと思います。ですから、失敗から学ぶという姿勢が重要です。たとえばH3ロケットの初号機が打上げに失敗したときも、『H3ロケットは、日本の技術をもってすれば、初号機の失敗を乗り越えて、きっと品質の高いロケットになっていくだろう』というのが、国際宇宙保険市場でのリアルな反応でした」

「日本の宇宙産業を応援すること」が東京海上日動の役割

東京海上日動の「宇宙プロジェクト」も、まさにこれからの宇宙事業を応援していくために運営されているといいます。社内のいろいろな部門で個別に検討されていた「衛星データを活用したサービスの開発」も、集約することで効率的にスピード感を持った論議ができるようになりました。また、宇宙旅行者向けのリスクを補償する保険の提供も実現に向けて動き出しています。

「これまではNASAやJAXAの宇宙飛行士を除けば、大富豪だけが宇宙に行ける、限られた大企業だけが宇宙事業を行える、そんな時代が長く続いたんですが、これから宇宙はより身近な世界になっていきます。

そうして人類の活動領域が宇宙にまで広がっていったとき、当社として、人類が行ける領域のリスクヘッジをきちんと提供できるようなしくみ作りをしたい。それこそが社会的な使命なのかなと思っております。

また、保険商品の提供は当然なんですが、これまで蓄積した宇宙産業のノウハウや国際市場との関係を活用して、世界の宇宙ビジネスの中で、日本発の企業やテクノロジーがちゃんと活躍できるような土壌を作ることも、東京海上日動、そして『宇宙プロジェクト』の役割だと思っています。宇宙に行ったら、国境は関係ないですからね」

最後に、もし宇宙旅行に行くことがあれば何をしてみたいか聞いてみました。

画像: 「日本の宇宙産業を応援すること」が東京海上日動の役割

「過去に保険金を払った人工衛星が本当に想定したように壊れているのかどうか見て回りたいですね(笑)。地上であればちょっと手で動かして修繕できそうなものが、機能しないまま残されているような例が歴史上たくさんあるんですよね。だからそれぞれの衛星を巡って直していきたい。旅行というより、出張になりますね(笑)」

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