「宇宙開発」というと、未知の惑星探索、冷凍睡眠による超長距離移動…といったSF的なイメージが浮かびがち。ですが、いまの宇宙開発の多くは、地上での私たちの生活に深く関わる、地に足のついたものなのです。天気予報をはじめ、衛星通信、GPSなどなど…。とくに衛星データの活用分野は拡大の一途。そんななか、東京海上日動は衛星データ等を活用した「宇宙×防災」に積極的に取り組んでいます。いったいどういうことなのか、詳しくご紹介します。

じつは私たちの生活になくてはならない「人工衛星」

画像1: じつは私たちの生活になくてはならない「人工衛星」

私たちの生活に深く関係している宇宙開発としては、その多くが「人工衛星」によるものです。国連宇宙部の資料1)によると、これまで打上げられた人工衛星などの人工物体は、延べ1万8,541基(2024年6月現在)に及びます。

とくに近年、人工衛星などの打上げ数は飛躍的に増加していて、2022年には2,368機が軌道上に打上げられており、この数字は過去10年間で約11倍に増加しています2)

画像2: じつは私たちの生活になくてはならない「人工衛星」

では、そんな人工衛星は私たちの生活とどのように関わっているのでしょうか。代表的なものとしては、以下のようなものがあります。

〈人工衛星が活用されているものの具体例〉

天気予報気象衛星を使い、地上から観測困難な場所(海・山・砂漠など)の温度、雲の動きなどを観測。
地図の作成、案内測位衛星からの電波で位置情報を特定。地図アプリやカーナビなどに使用されている。
衛星通信通信衛星によりテレビや電話、放送などの通信を行う。世界のほぼ全域をカバーしている。

とくに衛星通信では、近年「NTN(Non-Terrestrial Network)」、つまりは「非地上系ネットワーク」が注目されています。文字どおり、地上ではない場所に基地局を配備して構築する通信ネットワークで、衛星を活用したNTNは、地上に通信インフラが置けない災害などの代替ネットワークとして運用が期待されています。

「衛星データ」と「防災」の意外な関係

天気予報から待ち合わせ場所の検索、テレビ中継やインターネットまで、私たちの日常に欠かせない人工衛星ですが、じつは「非日常」においても大いに役立ってくれているのです。それが「防災」

防災活動で利用されているおもな衛星は、JAXAの「だいち2号」などをはじめとした地球観測衛星です。地表から500~900km上空を南北に周回し、地球上をくまなく観測します。

しくみとしては、地球が約24時間(23時間56分4秒)かけて自転するのに対し、地球観測衛星は90〜100分で地球を1周するため、周回のたびに観測する地点が変わるようになっています。

画像: 「衛星データ」と「防災」の意外な関係

人工衛星が防災につながるしくみ

地球観測衛星は搭載している観測装置によって大きく分けて2種類あり、「光学センサ」を搭載しているものは光学衛星、「レーダセンサ(SAR:合成開口レーダ)」を搭載しているものはSAR衛星とも呼ばれます。

画像1: 人工衛星が防災につながるしくみ

「光学センサ」とは、簡単にいうとカメラのようなもの。自然の放射光や反射光を観測するためのセンサです。普通の写真と同じように、見たとおりの地表の様子が撮影できるため、そこで何が起きているかを目視で判断できます。

画像: 光学衛星による地表の様子 提供:国際航業

光学衛星による地表の様子 
提供:国際航業

ただし、夜間や悪天候で雲に遮られると、地表の様子は観測できません。そこで力を発揮するのが「レーダセンサ」。衛星からマイクロ波を地上に向けて発射し、その反射波で、地表や水面の変化を観測するしくみです。こちらは昼夜や天候に関係なく、地表の観測が可能です。

画像: SAR衛星による地表の様子 提供:国際航業

SAR衛星による地表の様子 
提供:国際航業

これらのような地球観測衛星からのデータを活用することで、以下のようなことを知ることができます。

画像2: 人工衛星が防災につながるしくみ

では、これらの情報が具体的にどのように「防災」に活用されているのでしょうか。

●ハザードマップの作成

地球観測衛星のデータは、ハザードマップの作成に役立っています。たとえば、収集したデータを元に縮尺2万5千分の1の地図を作成。蓄積したデータを利用することで災害以前・以降を比較し、どのような場所でどのような被害が発生したかを詳しく調べることができるのです。そうして、今後の災害に備えて被害を最小限に抑えるためのハザードマップを作成することができます。

●インフラ設備の監視と老朽化などのチェック

地球観測衛星が観測できるのは、災害時の地形変化だけではありません。老朽化が進み、災害時のリスクが高まるインフラ設備などに関しても、上空からの監視が行われています。たとえばJAXAの「ANATIS(アナティス:『衛星SARデータによるインフラ変位監視ツール』)は、河川の堤防や港湾、空港などの設備を衛星によって監視できるため、より頻度が高く広範な点検が可能になっています。

●自然活動のモニタリングから、地殻変動予測まで

地球観測衛星では、特定の箇所だけでなく幅広い範囲を監視できるため、森林面積の変化、火山活動、地殻変動など、地球上のさまざまな自然活動をモニタリングすることができます。これらは、自然災害の予測やメカニズムの解明に役立てられています。たとえば、山間部の地表をモニタリングすることで、数センチ単位の地面の動きを見つけ、地すべりのリスクがある場所を予測することができます。

人工衛星は災害時の迅速な状況把握にも活躍

画像: 人工衛星は災害時の迅速な状況把握にも活躍

衛星データは、防災だけでなく実際に災害が起きた際の迅速な状況把握にも活躍します。

自然災害が発生した場合、防災関係機関からの要請で「だいち2号」などの地球観測衛星は緊急観測を行います。そこで観測したデータや、それに基づいた被災情報が防災関係機関に共有され、迅速な被害状況の把握などに役立てられるという流れです。

これまでの事例を2つご紹介します。

●【平成23年 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)】

2011年3月11日の東日本大震災では、発災直後から過去のデータが政府機関に提供され、地震対応に役立てられました。また、観測も直ちに行われ、快晴となった3月14日には津波による被害の全貌を初めて把握することに成功。福島第一原子力発電所から半径30km以内においては、防災ヘリなどが飛行できない状況の中、宇宙から広範囲を観測することで、大規模災害の全貌を明らかにすることができました。国際協力による海外衛星からの緊急観測も行われ、公園に書かれたSOSのメッセージも発見されました。

●【平成29年7月 九州北部豪雨】

2017年7月5日から6日にかけて福岡県と大分県を中心とした九州北部で発生した豪雨の際、国土交通省からの要請で観測。福岡県朝倉市・東峰村、大分県日田市などでの被害が拡大し、悪天候により防災ヘリからの調査が困難な中、衛星データにより地すべり推定箇所をいちはやく特定しました。

東京海上日動の「宇宙×防災」の取り組み

東京海上日動は約50年にわたって、宇宙にまつわる保険を提供し、いま「宇宙プロジェクト」を展開しています。現在、衛星データはさまざまな防災活動に利用されていますが、東京海上日動でも、衛星データや上空からのデータとして、高解像度の航空写真を活用した防災サービスなどの提供を進めています。

①大規模水災時の迅速な調査と保険対応

画像: ①大規模水災時の迅速な調査と保険対応

フィンランドの企業「ICEYE(アイサイ)」と協業し、衛星データを活用した大規模水害における素早い被害状況の把握と、保険金支払の対応を行っています。

ICEYEは、SAR(合成開口レーダ)衛星を自社で製造し、保守・運用、衛星画像の高度な解析などを一貫して行う企業で、民間では世界最多となる34機の自社衛星を打上げています。そして、天候や昼夜に関係なく、高精度のデータを高頻度で取得しています。人工衛星を運用しているといっても、自社衛星でない場合、地上の観測を自由に行えない場合も多々ありますが、ICEYE社は自社の判断で観測を行うことができます。

●保険金支払いのタイムラグを人工衛星が解決

大規模災害が発生した場合、現地調査の必要が出てきます。ただ、災害は突然起こるものなので、事前に人員を配備することが難しく、現状、他の地域から応援に駆けつけるのが一般的です。また、同時に多数の保険請求が発生するのも大規模災害の特徴。結果として、保険金の支払いまでに時間がかかってしまうという事態が発生することが課題でした。

というのも、水害などの被害状況を把握するには、調査員が現地に出向き、「浸水線」(洪水などの場合、家屋のどこまで水が到達していたか)の高さをひとつひとつ確認する必要があり、被害規模が大きい場合、この作業を行うには1カ月以上を要することがあります。このタイムラグを軽減するために導入されたのが、人工衛星データの活用なのです。

●近年増加する大規模水災に対応するために

過去のそうした経験があるなかで、気候変動の影響などにより、近年水害が多発。荒川および利根川の氾濫による被害想定では、100万世帯以上が影響を受けるとの予測もあります。災害の規模が大きくなればなるほど、迅速な保険金支払いの対応が必要になります。

東京海上日動では、2018年から衛星データを活用した災害対応の取り組みを進めてきました。SAR衛星による浸水域の観測のほか、2019年からはSNSによる情報やさまざまなデータを組み合わせて精度の向上に取り組み、損害査定実務のトライアルも行ってきました。

そして、衛星データとSNSの情報を組み合わせ、AIで解析することで被害発生から24時間程度で水災による被害規模を把握できるようになったのです。

●自社の対応のみならず、復興にも貢献

水災による損害を算定するだけでなく、さまざまな企業や団体と連携し、発災後の復興にも貢献しています。たとえば、被害状況をまとめたレポートをボランティア団体に共有し、被災地域ごとの支援の必要性を判断する手助けを行う取り組みなどがあります。

水災に関するさまざまなデータを幅広く提供することで、東京海上日動のお客さまだけでなく、被災した地域や社会への手助けとなれることを目指しています。

②風災リスク診断ソリューション

画像1: ②風災リスク診断ソリューション

2023年4月17日より提供が行われているサービスで、航空写真測量などを行う企業「国際航業」と協業しています。

この「風災リスク診断ソリューション」の内容は、過去に台風や竜巻などの風災で被害を受けた建物を所有するお客さまに、航空写真の画像を診断することで施設の現状をお知らせし、再び被害を被ることがないように注意喚起を行うというものです。

●上空から屋根のサビが見つかる

おもに対象となるのは建物の屋根です。空からの写真で施設の屋根の状態なんてわかるの? と疑問に思うかもしれませんが、それがわかるからこそ、このサービスは実現しました。国際航業は、人工衛星より低高度で高精度なデータが取得できる航空機で、地上解像度5cmという、高解像度のデータを得ることができます。「地上解像度5cm」とは、みなさんがスマホやPCで見るデジタル画像の点ひとつが5cmに相当するということです。

■地上解像度の違いのイメージ

画像2: ②風災リスク診断ソリューション

このような高解像度の航空写真を診断することによって、通常は点検しにくい場所である、倉庫やビルの屋根のサビや傷みを確認できるのです。この診断結果をもとに、お客さまは新たに台風や強風がやってくる前に、所有する物件のウィークポイントを把握し、早めに修理を実施しておくなど、備えておくことができます。

●航空写真によるリスク診断は、より安全&スピーディー

お客さまが所有する建物の状況を把握するためには、実際に現地へ赴き、ドローンを活用して屋根の状況を把握する方法もありますが、法規制や墜落リスクなどの障壁があります。

上空から撮影した航空写真を活用して屋根の状況を見ることで、そうした調査段階のリスクを減らせるほか、現地へ赴くことなく、よりスピーディーに精度高く現状を知ることができるのです。

衛星データは、未来の暮らしを変えるはず

画像: 衛星データは、未来の暮らしを変えるはず

衛星データの活用が今後より進化すれば、未来には自然災害を事前に予測し、被害をより少なくすることができるかもしれません。

また、もし被害が起きてしまった際にも、迅速な被害状況の把握や正確な情報収集などが行えれば、その後の復興が今よりもっとスピーディーになるはずです。

東京海上日動は、保険会社として「何かが起きたときにお客さまをお守りする」という立場から一歩先を目指しています。事前にリスクをお知らせすることで、お客さまの被害そのものをなくすことができるかもしれませんし、もし被害にあってしまった場合には、保険金をお客様にお支払いするまでの期間を大幅に短縮することもできるかもしれません。

これからは、 “保険金支払い”だけにとどまらず、お客様への保障に関して、宇宙技術を活用しながらより貢献していければと考えています。

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