「今、宇宙旅行が盛り上がっている!」と言われても、正直なところあまり日常では感じられないし、本当かな? と思いますよね。でも、海外旅行のように宇宙旅行に行ける未来が、少しずつ着実に近づいてきているんです。そこで今回は、そんな「宇宙旅行」のリアルな実態と未来について、いろいろな数字でご紹介。一般社団法人スペースポートジャパンから、宇宙のキーパーソン2名をお迎えして、教えていただきました。

●話を聞いた人

画像1: 2050年には10万人が宇宙へ!宇宙旅行の数字トリビア

宇宙エバンジェリスト®
一般社団法人スペースポートジャパン共同創業者&理事
青木英剛さん

アメリカで航空宇宙工学の工学修士とパイロット免許を取得。三菱電機株式会社でエンジニアとして宇宙ステーション補給機「こうのとり」と月着陸実証機「SLIM」の開発に従事。その後ビジネススクールで宇宙ビジネスを学び、MBAを取得。内閣府やJAXAなどの委員会に名を連ね、技術とビジネスのみならず、宇宙政策に深く関与しながら、大企業の宇宙ビジネスへの参入やベンチャーの支援、世界各地で講演などを行っている。

画像2: 2050年には10万人が宇宙へ!宇宙旅行の数字トリビア

一般社団法人スペースポート・ジャパン共同創業者&理事
片山俊大さん

2002年、株式会社電通に入社。幅広い領域のプロジェクトに従事した後、2015年より日本とUAEの宇宙・資源外交に携わったことをきっかけに宇宙関連事業開発に注力し、2018年にスペースポートジャパンを共同創業。2021年には「超速でわかる!宇宙ビジネス」(すばる舎)を出版。2024年よりクリーク・アンド・リバー社に所属。

▶️スペースポートジャパン

お話を伺ったのは、一般社団法人スペースポートジャパンの青木英剛さんと片山俊大さん。スペースポートジャパンは、「日本がアジアにおけるスペースポートや宇宙旅行ビジネスのハブになること」を目指しており、青木さん、片山さんのほか、宇宙飛行士の山崎直子さん、宇宙弁護士の新谷美保子さんなど、有志7名が共同で設立した団体です。政府や自治体、民間企業と連携しながら、宇宙港のみならず、国内の宇宙開発を推進する活動に取り組んでいます。

画像3: 2050年には10万人が宇宙へ!宇宙旅行の数字トリビア

2024年6月現在では、国内の84の企業や団体、自治体などが会員として参画しています。もちろん、SpaceMateを運営する東京海上日動もその一員です。

そんな国内の宇宙ビジネスをリードしていくおふたりに、「宇宙旅行」の現在、そして未来について教えていただきました!

「2001年」

初めて民間人宇宙旅行者が宇宙に行った年

画像: 初めて民間人宇宙旅行者が宇宙に行った年

人類が初めて宇宙に行ったのは1961年、旧ソ連の宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンです。そしてそこから40年後、2001年4月28日に世界初の宇宙旅行者が誕生しました。アメリカの実業家であるデニス・チトー氏が、世界で初めて自費で宇宙旅行に行き、ISSに約8日間滞在。支払った旅行代金は約2,000万ドル(当時約24億円)といわれています1)2)

画像1: 青木さん

青木さん

自費で宇宙旅行に行ったという意味ではチトーさんが世界初の宇宙旅行者となります。

ただ厳密には、1990年に宇宙に行ったTBS社員の秋山豊寛さんが、世界で初めて職業宇宙飛行士ではない人として宇宙に行った人です。旅費はTBSが支払っていますので、出張扱いとなりました。

日本人としては、最初のJAXA宇宙飛行士である毛利衛さんが1992年に宇宙に行っているので、日本初の宇宙に行った人は民間人だったんです。この事実もぜひ覚えておいていただきたいですね

「2021年」

宇宙旅行者が宇宙飛行士の数を上回った年

画像: 宇宙旅行者が宇宙飛行士の数を上回った年

世界初の宇宙旅行から約20年、2021年には、なんと民間人宇宙旅行者の数が、その年の宇宙飛行士の数を上回りました3)。この年は民間企業による商業宇宙旅行が本格的にスタートした年でした。日本でも話題になった前澤友作さんの宇宙旅行も2021年のことです。

画像2: 青木さん

青木さん

2021年には年間29人の民間人が宇宙旅行に行きました。同じ年、職業として宇宙に行った宇宙飛行士が19人だったので、はじめて民間人宇宙旅行者がプロの宇宙飛行士の数を上回ったんです

私は、この2021年を『民間宇宙旅行時代2.0』と呼んでいます。ヴァージン・ギャラクティックやブルー・オリジンといった民間企業が宇宙旅行サービスをはじめた影響で、一気に宇宙旅行者が増えた年です。

といっても、多くが『サブオービタル飛行』と呼ばれる、宇宙に数分だけタッチして地球に戻ってくるアトラクションのような体験でした

画像: 片山さん

片山さん

サブオービタル飛行のことを、私は『宇宙体験アトラクション』と呼んでいます(笑)。数分間だけ宇宙にいるっていうのは、実際には旅行というよりテーマパークのアトラクションに近いからです

「約80人」

これまでの民間人宇宙旅行者の数

画像: これまでの民間人宇宙旅行者の数

2024年6月現在、これまで宇宙に行った民間人宇宙旅行者の数は世界で約80人います(※1)4)5)6)7)8)9)。このうち日本人宇宙旅行者は2名、2021年に国際宇宙ステーション(ISS)に滞在した前澤友作さんと平野陽三さんです。

※1:ソユーズ、インスピレーション4、アクシオム ミッションによるオービタル旅行、ブルー・オリジン、ヴァージン・ギャラクティックによるサブオービタル旅行の人数が含まれています。

画像3: 青木さん

青木さん

機体の調整や開発などの影響でフライトを停止している期間もありますが、2022年以降も民間企業による宇宙旅行が実施されているので、宇宙旅行者の数はどんどん増えています。まだ行っていなくても、宇宙旅行のチケットを買っている人は世界に数千人いて、数年待ちの状態なので、今後はより増えていくと思います。日本人の中にも、すでにチケットを持っている方が数人いますね

ヴァージン・ギャラクティックの宇宙旅行を19年間待ち続けている宇宙旅行予定者・稲波紀明さんのインタビューは以下の記事で紹介しています。ぜひあわせてご覧ください。

【関連記事】【特別インタビュー】稲波紀明さん、19年待ち続けた「宇宙旅行」への道のり

「10万人」

2050年の世界の宇宙旅行者の数

画像: 2050年の世界の宇宙旅行者の数

前述のとおり2024年6月時点で、これまで宇宙旅行に行った人は世界で約80人です。しかし、2050年頃にはこれが急激に増え、サブオービタル旅行で年間10万人、オービタル旅行で年間数千人〜1万人の人が宇宙旅行に行くという予測10)もあります。現在、南極への旅行者が年間約5万人11)なので、これの約2倍ということになります。

画像4: 青木さん

青木さん

サブオービタル旅行については、2050年には世界で20カ所の宇宙港(スペースポート)から、それぞれ毎日2便が出発して、年間の宇宙旅行者は約10万人の見込みです。宇宙まで行って『宇宙ホテル』(今は国際宇宙ステーションですが)などに滞在するオービタル旅行は、アメリカ・中国・イギリス・日本・中東(ドバイ)5カ国の宇宙港から毎日1便出発、年間旅行者は数千人から1万人の見込みと考えています

「7,000万円〜50億円」

2024年の宇宙旅行の価格

画像: 2024年の宇宙旅行の価格

2001年に最初の宇宙旅行に行ったデニス・チトー氏の支払った旅行代金は約2,000万ドル(当時約24億円)でした。しかし、2009年10月、7人目の宇宙旅行者であったギー・ラルベルテ氏の際は、約3,500万ドル(当時約31億円)まで上がりました12)。そして2021年の前澤友作さんの旅行においては、2人分で8,800万ドル(当時約100億円)13)1人分にすると50億円ほどかかったといわれています。

一方で、ISSに滞在するようなオービタル旅行とは別の、サブオービタル旅行という宇宙旅行が最近では主流となっています。サブオービタル旅行は宇宙空間に数分程度滞在する旅行で、オービタル旅行よりも比較的安価です。代表的なものとしては、ヴァージン・ギャラクティック社が1人45万ドル(6月4日時点のレートで約7,000万円)で販売をしていました。

画像5: 青木さん

青木さん

じつは宇宙旅行の価格は高騰しています。アメリカのヴァージン・ギャラクティックが20年前に初めてサブオービタルの宇宙旅行を募集したときは、当時の日本円で2,000万円だったものが、今は7,000万円以上。それでも買いたい人が多すぎて、現在は一旦販売中止になっています

「300万円」

2040年の宇宙旅行の価格

画像: 2040年の宇宙旅行の価格

現在数千万円以上する宇宙旅行ですが、国内の宇宙開発に取り組む会社「将来宇宙輸送システム」は、2040年に300万〜1,500万円での宇宙旅行を予定しています14)。そのほか、宇宙機開発に取り組む会社「PDエアロスペース」でも、2045年に100万円を切る宇宙旅行を目指しています。

画像6: 青木さん

青木さん

今後は需給のバランスで価格が決まっていくと思います。7,000万円でもチケットを買う人が世界に多くいる現状から考えると、数年は価格は下がらないと思います。ただ、2030年代頃から、日々いろいろな人が宇宙旅行に行くようになり、サービスを提供する企業も増えてくると、一気に価格が下がり始めるでしょう。2020年代は家一軒、2030〜2040年代は高級車一台相応の価格というイメージで下がってくるんじゃないですかね

【関連記事】39万8千円で宇宙旅行を目指せ! PDエアロスペースの宇宙飛行機の挑戦

今後の宇宙旅行はどうなる?

画像1: 今後の宇宙旅行はどうなる?

最後に、私たちが当たり前に宇宙旅行に行けるようになるまで、今後どのような道を辿っていくのか、おふたりの予想を伺いました。

片山さん「今の宇宙旅行のネックとして“価格”があると思います。一般的な経済では、まずは需要に対して供給が追いつかないので値段が上がる。利益も上がる。すると参入する会社が増える。競争が激しくなってコストダウンが起こって安くなる……っていう流れになるんですけど、宇宙旅行の場合、参入障壁が高いので、そこは簡単にいくか分かりません。しかも、これは誰がいつ、参入してくるかがわからないので、市場価格の予測が立てづらいんです。

でも、ひとつ言えることは『未来を予測する最良の方法は、自らそれを創ることだ』っていうアラン・ケイの言葉のとおり、まさに我々が世の中の人にできるかぎりインパクトを与えて、宇宙旅行のマーケットを活性化していければ、値下げにもつながっていくだろうということですね」

青木さん「60数年前に日本人への海外渡航が解禁された時代、ハワイに行って帰ってくるだけで400万円でした。そのとき大量に日本人の富裕層がハワイ旅行に行ったんです。そしたら現在では20万円ほどでハワイに行けるようになりました。それと同じ道を、宇宙旅行では2030〜2040年にかけて辿っていくことになると思います」

画像2: 今後の宇宙旅行はどうなる?

片山さん「今、宇宙旅行に行く人って、おそらくよっぽど宇宙が好きで、意識が高くて、冒険家の人ですよね。でもたとえば、それこそ今ハワイに行くのが冒険家かと言われるとそんなことはないわけです。つまり、『せめて人生で1回は海外旅行くらい行きたいよね』という感覚が、『せめて人生で1回は宇宙旅行くらい行きたいよね』というように変わっていけば、一気に宇宙旅行が浸透すると思うんです」

青木さん「そのためには、まず日本国内の宇宙開発を進めることが急務です。ロケットが飛び立つための宇宙港の整備や、ロケットそのものの開発など…政府と一緒に進めなければいけないことが山積みですね」

片山さん「日本は今、すでに有人宇宙飛行を実現させているアメリカや中国などに大幅に遅れを取っているわけで、本当にこのまま置いていかれたらヤバイと思います。宇宙に行きたい人は海外旅行して、そこから旅立つということが一般化する可能性が高く、こと旅行に限らずに人工衛星を打上げる宇宙港も海外に持っていかれる傾向がありますからね。日本の宇宙旅行を実現させるために、私たちがまさに活動している“宇宙港”の推進を大至急進めないといけないですね」

青木さん「それらのインフラ整備が進んで、宇宙旅行が当たり前になったら、『21エモン』のようなSFの世界が来ると思います。いずれは自家用宇宙船なんてものもできるでしょうね」

画像3: 今後の宇宙旅行はどうなる?

日本の宇宙旅行のために重要な“宇宙港”。気になる宇宙港に関するお話は次回紹介します。

(つづく)

宇宙港について伺った後編はコチラ
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