月の裏側はどうなっている?
月には、地球から見える面と見えない面が存在します。一般的に、地球から見える部分は「月の表」、見えない部分は「月の裏」と呼ばれています。地上からは簡単に観測できないため、謎の多い月の裏側。その秘密を探っていきましょう。
地球からは月の裏側が見えない理由
月は、約27日をかけて地球のまわりを一周(公転)します。そして同時に、月自身もくるくると回転(自転)しています。月の自転は公転とほぼ同じスピードで、約27日で一回転です。その結果、月は地球へ常に同じ面を向けることになり、地球上からはいつも月の表だけが見えているのです1)。
〈図〉周期が同じになるしくみ
月の裏側には何がある?汚く見えるのはクレーター
地球からは観測できない月の裏側は、いったいどうなっているのでしょうか。表側とは、どんな違いがあるのか見ていきましょう。
日本では、「うさぎの餅つき」と表現される月の模様。月を見た際にこの黒く陰っているように見える部分は「海」と呼ばれています。海と言っても水があるわけではなく、その実態は玄武岩に覆われた平地です。この玄武岩は、かつて噴出した月のマグマが冷えて固まったものなのだそう2)。
月の表側には「海」が大きく広がっていますが、裏側にはあまり存在しません。月の裏側は全体に起伏が多く、大小さまざまなクレーターが分布しています。ボコボコとしたその見た目を「汚い」と感じる人もいるようです。裏側の地盤が厚くマグマが噴出しにくかったことなどが、海が少なくクレーターが多い理由と言われています3)。
また、月面でもっとも標高が高い場所は、裏側のクレーターの縁にあります4)。地球上でもっとも高い山・エベレストが8,849mであるのに対し、月の最高地点はなんと約1万750mに及びます。
さらに、近年注目されているのは水の存在。裏側の極地にあるクレーターには永久影(えいきゅうかげ)(※)になっている箇所があり、その部分に氷の状態で蓄積されていることが有力視されています。
※:太陽光が全く届かない領域のこと。
月の裏側では25億年前まで火山活動があった
月の裏側では、少なくとも25億年前まで火山活動があったようです。これまで月の火山活動はほとんどが表側で生じていたと考えられてきましたが、日本の月周回衛星「かぐや」(後述)の観測データによって、裏側でも火山活動が続いていたことが明らかになっています5)。
月の裏側で人工物を発見?
2022年、月の裏側に人工物が衝突したというニュースがありました6)。その正体は、少なくとも2015年から宇宙を漂っていたロケットの一部だと考えられています。2014年に打上げられた中国のロケットだと指摘する意見もありますが、はっきりとはしていません。
人類が月の裏側を目指すのはなぜ?
NASAの「アルテミス計画」をはじめ、近年、世界中で月探査に力が注がれています。その大きな理由のひとつは、前述の水の存在の可能性。水は、水素と酸素に分解することでロケットの燃料として活用できます。月面での燃料生産が可能になれば、月での継続的な活動や、より遠くの星への中継地としての活用などが叶うでしょう7)。さらなる宇宙開発への鍵となることは、間違いありません。
加えて、鉄やレアメタルなど、貴重な資源の採掘も期待されています8)。月の裏側には大規模なクレーターが多く、そこから月深部の物質が取り出せる可能性があるのです。
さらに、月の裏側に電波望遠鏡を設置するというビジョンも9)。地球では検出できない波長と周波数を計測することが可能になる想定とのことで、より研究の進化が期待されます。
月の裏側に行った国は?世界の探査の歴史
月の裏側の実態は、各国の探査によって少しずつわかってきました。その歴史の一部をご紹介します。
【旧ソ連】「ルナ3号」が月の裏側の撮影に初めて成功
月の裏側の撮影に世界で初めて成功したのは、1959年に旧ソ連が打上げた無人探査機「ルナ3号」です10)。10月4日に発射されたルナ3号は、3日後の10月7日に月の裏側の撮影を開始。撮影した29枚の画像のうち、17枚が地球上で受信されました。このとき観測された地形には、「モスクワの海」など旧ソ連にちなんだ名前もつけられています。
参考資料
10)NASA「Luna 3」
【アメリカ】「アポロ8号」によって人類が初めて自身の目で月の裏側を観察
1968年には、NASAのアポロ8号が史上初めて、人を乗せて月を周回することに成功11)。乗組員のフランク・ボーマン氏、ジム・ラヴェル氏、ウィリアム・アンダース氏は、人類で初めて月の裏側を直接目撃した3人となりました。周回の最中にアンダース氏が撮影した「地球の出(月の向こう側に地球が昇る様子)」の写真は、アポロ8号を象徴する名シーンとして今でも多くの人を魅了しています。
【日本】月周回衛星「かぐや」が月の裏側のデータ計測に成功
「アポロ計画」以来の本格的な月面探査のため打上げられたのが、日本の月周回衛星「かぐや」です12)。2007年に地球を出発してから、2009年にその役目を終えるまでに、月のすべてのエリアをカバーする地形データを取得。それまで未探査だった地域の様子も明らかになり、月の裏側を解明する大きな一歩となりました。
参考資料
【中国】史上初の月の裏側への軟着陸・試料採取に成功
2019年、中国の無人月面探査機「嫦娥(じょうが)4号」が、世界で初めて月の裏側に軟着陸(※)しました。続いて2024年には、「嫦娥6号」が月の裏側から岩石などの試料を採取し、地球へ持ち帰ることに成功13)。この貴重なサンプルは、月の成り立ちを探る手がかりになるはずです。
※:衝撃を和らげるために速力を抑えながら着陸すること。
月の裏側にはまだまだ秘密が多い
世界中で日々研究が進められている「月の裏側」。まだまだ謎に満ちた場所ですが、その全貌は少しずつ明らかになっています。直近では、中国の嫦娥6号が持ち帰った試料の解析結果に期待が高まるところ。今後も新しい発見が続くことを、楽しみにしておきましょう。
※この記事の内容は2024年10月10日時点の情報をもとに制作しています