2024年、プラダ社とアクシオム・スペース社が共同開発した宇宙服が注目を集めました。いまや民間企業も参入する宇宙服ですが、その値段は現行NASAで使われているもので1着約15億円(1,000万ドル)もするのです。この記事では、なぜ宇宙服がそんなにも高額になるのか、その理由を解説します。

※この記事では1ドル=150円として計算します。

宇宙服とは

そもそも宇宙服と一口にいっても、じつは2種類に分けられます。宇宙船内で着用する「船内与圧服(せんないよあつふく)」と、宇宙空間での作業時に使用する「船外活動服」です1)

このうち、1着約15億円(1,000万ドル)といわれているのは、NASAの船外活動服で、「船外活動ユニット(EMU)」と呼ばれています。ここからは、おもにNASAのEMUについて説明します。

船外活動ユニット(EMU)

画像: NASAの船外活動ユニット(EMU) 画像提供:NASA Image and Video Library

NASAの船外活動ユニット(EMU)
画像提供:NASA Image and Video Library

宇宙飛行士が宇宙船外で活動する際に着用するのがEMUです。「小さな宇宙船」とも呼ばれるEMUは、極端な温度差、宇宙放射線、スペースデブリ(宇宙ゴミ)、そして真空状態の宇宙空間から宇宙飛行士を守るために設計されています。

【関連記事】新しい宇宙服が作れないって本当?40年以上も同じものを使う理由とは

船内与圧服

NASAの船内与圧服はOrion Crew Survival System (OCSS)といいます
画像提供:NASA Image and Video Library

国際宇宙ステーション(ISS)への行き帰りに乗る宇宙船内で着用するのが「船内与圧服」です。気圧を地上と同じに調整したり、水や空気を通さないファスナーを使ったり2)と、宇宙飛行士の命を守るための機能が備わっています。

宇宙服(船外活動ユニット(EMU))の値段は?

NASAのEMUは、約45年前に開発されたものが現在も使用されています。その値段は、1着約15億円(1,000万ドル)です3)。ここでは、EMUの値段の内訳などを紹介します。

約45年前に開発されたものが現在も使用されている

現在、NASAの宇宙飛行士が着用しているEMUは、約45年前のスペースシャトル時代に設計されたものです。本来の寿命は15年程度とされていましたが、新しいEMUを開発するための費用や研究開発のハードルが原因で開発が進みませんでした。そのため、約45年間も同じものが使い続けられてきたのです。

EMUは1着約15億円

約半世紀前に開発されたEMUの値段は、1着あたり約15億円(1,000万ドル)です。EMUは、宇宙飛行士が着用する「宇宙服アセンブリ」と「生命維持装置」の2つで構成されており、それぞれで値段が設定されています。

画像: EMUは1着約15億円

●宇宙服アセンブリ(Space Suite Assembly:SSA)
宇宙飛行士の体を保護するための気密性や断熱性を備えたスーツで、1着あたり約1億5,037万円(100万ドル)3)

●生命維持装置(Life Support System:LSS)
酸素供給や二酸化炭素除去、温度管理などを担う装置で、1セットあたり約13億5,333万円(900万ドル)3)
また、開発費は別で「宇宙服アセンブリ」を43セット、「生命維持装置」を13セット製造するのに、約250億5,000万円(1億6,700万ドル)の費用がかかっています3)

グローブだけでも約600万円かかる

ちなみにEMUのグローブは、片手で約300万円(2万ドル)3)。両手分だと600万円(4万ドル)です。これは、宇宙空間での作業に対応するための特別な設計であることに加え、ヒーターが内蔵されているためです。微細な作業をサポートするために手の動きを確保しつつ、極端な温度差から手を守る技術が詰まっています。

宇宙服(船外活動ユニット(EMU))が高い理由

画像: 画像:iStock.com/takasuu

画像:iStock.com/takasuu

EMUが1着約15億円(1,000万ドル)もする理由は、宇宙飛行士の命を守るために最先端の技術が詰め込まれているからです。

たとえば、宇宙服アセンブリには宇宙空間での過酷な条件に対応するため、気密性や断熱性を備えた14層の特殊素材が使用されています。また、これらの素材は、高度な技術を持つ職人による手縫い作業が必要になるなど、精密で時間のかかる工程が避けられません。

さらに、以下のような多彩な機能が加わることで、製作コストが高額になるのです。

●船外活動ユニット(EMU)の役割4)5)6)

気密性と大気圧の維持真空状態の宇宙空間で、宇宙飛行士の体を保護し、生存可能な環境を維持する
動作の確保素材や設計の工夫により、宇宙空間でも体を動かしやすく、効率的に作業ができるようにする
温度管理宇宙の極端な温度差(-150℃~120℃)から体を守り、快適な内部温度を保つ
衝突防御スペースデブリ(宇宙ごみ)や微小隕石の衝突から体を守る
電磁波防護宇宙線や有害な電磁波から体を保護し、健康リスクを軽減する
生命維持機能酸素を供給し、呼気から出る二酸化炭素を除去することで、宇宙飛行士が安全に呼吸できる環境を提供する

進む次世代宇宙服の開発

2019年にNASAが発表した次世代EMUのプロトタイプ
画像提供:NASA Image and Video Library

NASAは、約45年前に製作されたEMUの老朽化問題を解決するため、次世代宇宙服の開発を進めています。さらに、民間企業の参入により開発スピードが加速し、新たな技術革新も期待されています。ここでは、注目のプロジェクトやその背景についてご紹介します。

NASAは宇宙服開発に約600億円を投資

現在使用されているEMUは、設計寿命(※)が15年程度とされていますが、それを大幅に超えて、これまで約45年間使用され続けています。その結果、老朽化が進み、全18着のうち7着は事故や破損で使用不能となりました。現在は、残りの11着を修理しながら運用している状況です7)

こうした課題を解決するため、NASAは2007年から2020年までの間に約630億円(4億2,010万ドル)を投じて、次世代EMUの開発を進めてきました8)。しかし、資金不足や新型コロナウイルスの影響、設計の難航などが重なり、開発はなかなか進まなかったようです。

※:設計寿命とは、機械設備が設計された時点で予定された使用期間のこと。

アクシオム・スペース社とプラダ社が次世代EMUを共同開発

状況を打開するため、NASAは方針を転換し、民間企業に次世代EMUの開発を委託することを決定しました。2022年にはアクシオム・スペース社とコリンズ・エアロスペース社を宇宙服開発のパートナーとして選定しました9)

その後、2023年にはアクシオム・スペース社が次世代EMUのプロトタイプを発表。さらに同社は、2024年10月にはプラダとの提携を発表し、共同開発した次世代EMUを公開しました10)。わずか数年で開発が大きく進展し、次世代EMUは早ければ2026年のアルテミスⅢミッションから使用される予定です。

開発費用は明らかにされていませんが、現在のEMUの値段を考えると、15億円以上になると予想されます。

【関連記事】アルテミス計画とは?目的やスケジュール、日本の役割などを解説

【コラム】なぜプラダ社が次世代EMUの開発に参加?

高級ファッションブランドのプラダ社が次世代EMUの開発に携わると聞くと、少し意外に感じるかもしれません。じつは、プラダ社は1990年代から世界的なヨットレース「アメリカズカップ」に参戦しており、クルー用の高機能ウェアをデザイン・製作してきました10)。これらのウェアは過酷な海上環境に対応した性能を持ち、ブランドの技術力とデザイン力の象徴ともいえるものです。

長年の経験が評価され、プラダ社はアクシオム・スペース社とのパートナーシップを締結。布地の生産や縫製技術を活かしながら、次世代EMUの開発に取り組むことになりました11)

スペースX社が進める独自の宇宙服開発

画像: 画像:iStock.com/Jorge Villalba

画像:iStock.com/Jorge Villalba

NASAのほかには、スペースX社が船外活動服の開発に参入し、革新的な技術と効率性で宇宙探査の未来を切り開いています。2024年、同社は独自開発の船外活動服を用いて初の船外活動を実施し、注目を集めました12)

スペースX社は以前から宇宙服の研究・開発を進めており、独自開発した船外活動服はスマートなシルエットと高い機能性が特徴です。自社開発のストレッチ素材を採用し、関節の可動域を広げて作業性を向上させています12)

初の船外活動では、アメリカの富豪ジャレッド・アイザックマン氏とスペースX社員のサラ・ギリス氏がこの船外活動服を着用。約10分間の船外活動を含む、さまざまなテストが行われました13)

なお、スペースX社の船外活動服の値段は公表されていませんが、プロジェクト全体の費用が数百億円といわれており、船外活動服にもかなりのコストがかかっていると考えられます。

宇宙服の値段は民間企業の参入で変わる

NASAのEMUは1着で約15億円と非常に高額です。しかし、民間企業の参入や技術革新が進むことで、製作コスト削減が期待されています。

将来、こうした取り組みが進めば、一般の人が宇宙旅行に出かけるための船外活動服も、より手頃な価格になっているかもしれません。「自分だけの宇宙服を着て、月を歩く」という夢が、現実になる日を心待ちにしましょう。

【関連記事】宇宙旅行でもオシャレしたい! 宇宙服はどこまで自由?

※この記事の内容は2025年2月14日時点の情報をもとに制作しています

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