●この記事の監修者
茨城大学 理工学研究科 地球環境科学領域 教授
野澤 恵さん
太陽を起点とした天文学を研究。特に磁場の振る舞いに注目し、銀河から地球まで広く磁気現象を研究。最近は太陽活動が地球に与える宇宙天気に注目し、特に人工衛星への影響に興味を持ち、軌道変化について研究を進める。
太陽フレアとはどんなもの?
太陽フレアとは、いったいどのようなものなのでしょうか?ここでは、太陽フレアと関わりの深い太陽活動をはじめ、太陽フレアの発生時期などについて解説します。
太陽の基礎知識
太陽フレアについて理解する前に、まず、太陽についての基礎知識を押さえておきましょう。太陽は身近な存在ですが、意外に知らないことが多いかもしれません。

太陽は全体が高温のガスでできており、大きさは地球の約109倍、重さは約33万倍です。地球からは約1億5,000万kmの距離にあり、太陽から出た光は約8分かけて地球に到達します。
太陽の中心では核融合反応が起こっており、これによって光や熱という莫大なエネルギーが生み出されています。中心部の温度は1,600万℃です。こうしたエネルギーが太陽の表面に伝わることで、「太陽活動」と呼ばれるさまざまな変化が絶えず生まれます。

太陽活動には、周囲より磁場が強く温度が低い場所である「黒点」、太陽の外側に炎のように浮かび上がる「プロミネンス」、高温のプラズマである「コロナ」などがあります。
太陽フレアとは

画像:iStock.com/aryos
太陽フレアも太陽活動の1つで、黒点の周辺で突然明るく光る爆発現象のことを指します。太陽フレアの大きさは1万〜10万kmにも及び、太陽系で最大の爆発現象とされています。爆発によって、太陽の大気に含まれるガス(CME)や高エネルギーの粒子、 放射線などが発生します。
太陽フレアは、磁場が強い黒点の近くで発生することが多いことから、黒点に蓄えられた磁場のエネルギーが放出されることによって起きると考えられています。そのため、黒点の磁場構造が複雑な場合に、大規模な太陽フレアが発生しやすいとされています。しかし、太陽フレアが発生するメカニズムは完全には解明されていません。
太陽フレアの発生時期
太陽フレアの発生は、太陽活動の中でも、黒点の数に影響を受けることがわかっています。黒点の数が多いと、太陽フレアも起こりやすくなり、反対に黒点がない場合には、太陽フレアは起こりません1)。このように、黒点は太陽フレアの状況を把握する上で重要な指標となっています。
太陽活動は、約11年の周期で活発になったり弱まったりを繰り返しています。これを太陽周期と呼びます。太陽活動がピークを迎える時期を「太陽極大期」、活動が弱まる時期を「太陽極小期」といい、アメリカ航空宇宙局(NASA)は2024年10月15日、太陽極大期に入っているとして、今後1年間はこの状態が続く可能性があると発表しました2)。
太陽フレアによる影響

画像:iStock.com/Pitris
太陽フレアは、地球に住む私たちにどのような影響を及ぼすのでしょうか? 総務省は2022年6月、太陽フレアなどの爆発によって、私たちの社会活動にどのような影響が及ぶ可能性があるかを取りまとめた報告書3)4)を公表しました。この報告書をもとに、太陽フレアによる影響を考えます。
太陽フレアが地上に影響を与えるメカニズム
そもそも、なぜ約1億5,000万kmも離れた場所にある太陽で起きた現象が地球に影響を及ぼすのでしょうか? その理由を知るために、太陽フレアが地上に影響を及ぼすメカニズムについて解説します。

前述した通り、太陽フレアは黒点の磁場エネルギーが放出されて起きる爆発現象です。爆発にともなって、電気や磁気を帯びたガス(CME)、放射線(X線)、高エネルギーの粒子などが飛び出します。これらは8分〜3日ほどかけて地球に到着し、地球の大気や磁場に影響を与える可能性があります。これによって、通信や放送、人工衛星の運用などに障害を引き起こすおそれがあるほか、オーロラの発生が増えるなどの現象が起きます。
ちなみに、CME(Coronal Mass Ejection)という電気や磁気を帯びたガスは、別名「コロナ質量放出」とも呼ばれ、正確には太陽フレアとは異なる現象です。そのため、太陽フレアが発生していない場合にも、まれに観測されます。
CMEが地球に到達すると、地球の磁場に大きな乱れが生じ、「磁気嵐」という現象を引き起こします。この磁気嵐が、通信障害や人工衛星の運用障害、オーロラ発生などの大きな原因の一つとなっています。
日常生活への具体的な影響
国が公表した報告書によると、次のような影響が出る可能性があります。これらの太陽フレアのさまざまな影響は、2週間にわたり続くと予測されています。
なお、前述で放射線も地球に届くと紹介しましたが、地上での日常生活においては、この放射線の人体への影響は無視できるほど少ないとされています。
・通信・放送への影響

画像:iStock.com/Rattankun Thongbun
特に、国際放送や船舶・航空における通信に大きな影響が及ぶ可能性があります。また、携帯電話の通信にも影響があると考えられ、緊急通報(110番、119番など)を含むすべての通信が困難になります。
一方で、地上でも有線でつながっているインターネット回線や固定電話回線は使える可能性があります。
・無線への影響
無線通信も、太陽フレアの影響を受けます。交通機関や自衛隊、警察などで使う無線にも影響が及ぶ可能性が指摘されており、都道府県や市町村、公共機関等の公共サービスの維持が困難になります。
・人工衛星を活用したサービスへの影響

画像:iStock.com/Golden Sikorka
太陽フレアによって、人工衛星を利用して地上の現在位置を計測するための衛星測位システム(GPSなど)が機能しなくなると、さまざまな社会インフラへの影響が予測されます。身近な例を挙げると、地図アプリやカーナビなどが使用できなくなります。航空や船舶、鉄道などの運行へも甚大な影響があるでしょう。
また、気象衛星が機能しなくなると、天気予報を更新することが難しくなるため、台風や大雨など予測ができず、気象災害が起きる可能性も高まります。
・電力への影響

画像:iStock.com/CribbVisuals
太陽フレアによって磁気嵐が起きると、電力を送るための設備や機器への悪影響が予想されます。こうした設備や機器が機能しなくなると、最悪のケースでは大規模な停電が長期間にわたる可能性もあります。
・人工衛星への影響
人工衛星には発電装置として太陽電池が搭載されていますが、太陽フレアによって太陽電池の劣化が急激に進行すると、衛星の寿命が短くなるおそれがあります。また、宇宙にある衛星そのものの運用が難しくなるため、故障したり軌道から外れたりするおそれもあるでしょう。
太陽フレアによる過去の影響事例
これまでにも、太陽フレアが社会インフラに影響を及ぼした事例があります。日本や海外の事例3つをピックアップして紹介します。
・カナダ・ケベック州(1989年)
太陽フレアの磁気嵐によって電力会社設備が影響を受けて、約9時間の停電が発生しました。これによって、約600万人に影響が及びました3)。
・日本(2000年)
2000年7月、日本の天文観測衛星「あすか」が、太陽フレア起因の磁気嵐により、姿勢が不安定となりました。その後も正常な姿勢制御を行うことが困難となった「あすか」は、徐々に軌道高度を下げ、翌年3月に大気圏に突入し消滅しました5)。
・日本・成田空港(2001年)
成田空港の管制塔と飛行中の国際線航空機との間で通信状況が悪化し、約2時間にわたって数分ずつ、断続的に通信ができない現象が発生しました3)。
・米国・フロリダ州(2022年)
スペースX社が打ち上げた人工衛星49機のうち40機が、太陽フレアによる磁気嵐の影響で軌道から外れ、大気圏に落下し、喪失したと発表されました3)。
太陽フレアへの対策
太陽フレアがもたらす影響を回避するために、日本や海外ではさまざまな取り組みが行われています。最新の研究内容やテクノロジーに加えて、個人でできる対策についても、いくつか紹介します。
世界で行われている太陽フレアに関する研究
日本では、国立天文台、JAXA、東京大学、名古屋大学などと、NASAが協力し、太陽フレアの発生メカニズムを解明するための研究を行っています。2024年4月には、世界で初めてX線集光撮像分光観測という手法で太陽フレアを観測するために、日米共同で観測ロケット実験「FOXSI-4」を実施しました6)。その他にも、樹木の年輪から過去の太陽フレアの記録を見つける研究7)も行われており、世界中で日々、さまざまな太陽フレアに関する研究が進んでいます。
新テクノロジーの開発

もともと、地球には地磁気と呼ばれる磁気があり、これによって目に見えない磁気バリアが形成されています。この仕組みに着想を得て、太陽フレアを防ぐ電磁バリアという技術の研究がされており、日本ではNTTが取り組んでいます8)9)。電磁バリア技術が実用化されれば、太陽フレアによる放射線の軌道を磁場によって曲げることができ、さまざまな電子機器などへの影響を防ぐことができると期待されています。
また、宇宙天気予報による発生時期の予測も、太陽フレアへの対策として期待されています。あらかじめ発生時期を予測することで、航空機や船舶の運行をはじめとして、大きなリスクにつながる業務を一時停止するなどの対策を取ることが可能になります。
個人でできる対策
太陽フレアは宇宙規模の大きな現象ですが、生活への影響については、個人でできる対策もあります。たとえば、通信や交通などにさまざまな障害が発生したケースにあらかじめ備えておくことは有効です。地震などの自然災害への対策と同様に、災害時の家族との連絡手段の確認や、避難場所・ルートの確認、そして、自宅避難を想定した場合の備蓄の準備をしておくとよいでしょう。
2025年は太陽フレアのピーク、まずは自分でできる対策を
2025年は太陽極大期にあたり、太陽フレアが発生する可能性が高まっています。また、太陽研究者たちの間では、太陽周期の後半にも巨大な太陽フレアが発生する恐れがあるとされており、2028〜2029年頃までは気をつけるべきとの考えもあります。
太陽フレアがさまざまな社会インフラに影響を与えるケースを想定して、まずは、個人でできる対策から始めましょう。WEBサイトで宇宙天気予報を確認したり、災害対策を見直したりするなど、できることから取り組んでみてはいかがでしょうか。
※この記事の内容は、2025年1月31日時点の情報をもとに制作しています

この記事の監修者
野澤 恵
茨城大学 理工学研究科 地球環境科学領域 教授。太陽を起点とした天文学を研究。特に磁場の振る舞いに注目し、銀河から地球まで広く磁気現象を研究。最近は太陽活動が地球に与える宇宙天気に注目し、特に人工衛星への影響に興味を持ち、軌道変化について研究を進める。