宇宙ビジネスで農家の困りごとを解決! でも、それってどういうこと…??

かなやん
突然だけど、最近話題の“アグリテック”って知ってる?

えんちゃん
ドローンやAIを農業に活用する技術のことだよね。農業(Agriculture)×テクノロジー(Technology)の造語って、ニュースで見たよ。

やす
このところ野菜が高くて困っちゃうけど、アグリテックが普及したら安くて美味しい野菜が増えるのかな。

かなやん
じつは、アグリテックの分野と宇宙ビジネスには深い関わりがあるんだって。

やす
宇宙ビジネスというと、ロケットの開発や宇宙旅行に目がいきがちだけど、私たちの暮らしに直接関わる課題の解決に役立つ仕事もあるんだね。ところで、そのサグリという会社は、農家のどんな困りごとを解決してくれるの? 宇宙ベンチャー調査隊としては、かなり気になるところだけど……。

かなやん
そういうと思ってたの! 早速調査に行ってきます!!
衛星データとAIで農業に革命を起こすサグリってどんな会社?

画像提供:サグリ
ということで今回ご紹介するのは、2018年に設立した兵庫県丹波市を拠点とする宇宙ベンチャー「サグリ株式会社」です。会社のビジョンは「人類と地球の共存を実現する」こと。具体的には、人類にとって欠かせない農業の持続的な発展に貢献する、以下のサービスをおもに提供しています。
①アクタバ

一定期間以上使われていない「耕作放棄地」を見つける、農地パトロールアプリ。これまで膨大な時間と労力が必要だった、耕作放棄地の調査を効率化してくれます
画像提供:サグリ
②デタバ

農地で栽培されている作物の種類を調べる、作付け調査用アプリ。広範囲の農地の作付け状況を、まとめて一気に確認することができます
画像提供:サグリ
③ニナタバ

農地を売りたい・貸したい所有者と、農地を買いたい・借りたい農業従事者や企業をつなげる、農地のマッチングアプリ。使われていない、または高齢などの理由で使うことが難しくなった農地を有効活用できるようになります
画像提供:サグリ
④Sagri(サグリ)

農地で栽培されている作物の育成状況や土壌を解析する圃場(ほじょう/農作物を栽培する土地)管理アプリ。農作業の効率化に役立つほか、土壌を解析することで、散布する肥料の適正量がわかるため、コスト削減や環境負荷低減にも貢献します
画像提供:サグリ
これらサグリが提供するサービスの大きな特徴となるのが、衛星データ(地球観測衛星から送られる農地の観測データ)をAI技術によって活用していること。地表の広範囲を素早く詳細に調べることができる「宇宙の目」を使い、地球上の農地の状態を「見える化」することにより、農業の効率を高めるほか、農業が原因となる環境負荷の低減にも役立つといいます。それがビジョンとなっている「人類と地球の共存」につながるわけですね。
そんなサグリを立ち上げたのが、代表取締役CEOの坪井俊輔さんです。衛星データとAIを使い、地球の未来にかかわる農業の課題解決を目指すというアイデアは、どこから生まれたのでしょうか? ズバリ直撃しました!
●話を聞いた人

サグリ株式会社 代表取締役CEO
坪井俊輔さん
横浜国立大学理工学部機械工学科卒。2018年、サグリを創業。Forbes 「世界を変える30歳未満30人」の1人に日本版およびアジア版で選出。農林水産省 「デジタル地図を用いた農地情報の管理に関する検討会」 委員。経済産業省「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた若手有識者検討会」委員。第6回宇宙開発利用大賞において内閣総理大臣賞を受賞。
ディズニーランドで芽生えた宇宙への憧れ
かなやん「まずは、坪井さんが“宇宙”に携わろうと思ったきっかけから教えてください!」
坪井さん「じつは、最初のきっかけはディズニーランドなんです。子どもの頃からディズニーが大好きで頻繁に通っていました。とくに夢中になったのが宇宙をテーマとする『トゥモローランド』で、大きくなったら宇宙飛行士になりたいと思うようになったんです」

かなやん「なんと、ディズニーランドがきっかけで宇宙に憧れを抱くようになったとは!」
坪井さん「その後、初めて宇宙飛行士に会えたのが、中学2年生のときです。日本科学未来館を訪れた際、当時の館長だった毛利衛さんの講演を聞く機会がありました。
そしてその際、宇宙エレベーターをテーマとするアニメーション作品『宇宙エレベータ 〜科学者の夢みる未来〜』を観たことで、宇宙への夢がより具体的なものになったんです。作品のエンディングで、宇宙飛行士の若田光一さんから『戦争がなくなれば、宇宙エレベータが実現して誰もが宇宙に行けるようになる』というメッセージがあったのですが、それまでの私は“宇宙飛行士にならないと宇宙に行けない”と思っていたため、この言葉は衝撃でした。
もし宇宙エレベーターが完成すれば、もっと多くの人が宇宙に行けるようになる。その夢を実現するために、自分も貢献したいと思い、研究者を目指すことに決めたんです」
かなやん「たしかに、宇宙の仕事=宇宙飛行士のイメージが強いので、“宇宙に行く手段をつくる”という関わり方は、中々思いつきませんよね」
坪井さん「その後紆余曲折を経て、大学で宇宙の研究に実際に携わった際には、おもにローバーなどの探査機が必要とする機器やシステムのシミュレーションに関する研究を行っていました。ただ、研究を続けるうちに、次第と教育の分野に関心が向かうようになっていったんです」
「宇宙」を地球の課題解決に役立てたいと思ったきっかけとは?
かなやん「“教育の分野”というと、どういうことでしょう?」

坪井さん「在学中に教育の現場に接する機会があり、成長するにつれて自分の夢を諦めてしまう子どもたちが多いことに、あらためて気づかされたんです。私自身も過去に似た経験をしたので、子どもたちが自分の夢を諦めずに実現できるような環境が必要だと強く感じました。そこで、宇宙開発のための人材育成を目的とした教育事業を行うスタートアップを、学生時代に設立したんです。これが、サグリの前身となる株式会社うちゅうでした」
かなやん「教育を通じ、誰もが宇宙への夢を抱ける環境づくりに貢献したいと思ったわけですね」
坪井さん「そうですね。しかし、その仕事で東アフリカのルワンダに行った際、ルワンダの子どもたちの大半が、親の仕事である農業を手伝うため、中学校にも行けない状況にあるという現実を知ることになります。夢を実現するための教育を受ける機会すら閉ざされている子どもたちがいることに、大きなショックを受けました」

画像:iStock.com/guenterguni
かなやん「教育で世界を変えたいと思っていた坪井さんにとっては、つらい出来事だったと思います……」
坪井さん「調べてみると、当時のルワンダの農業は人力に頼らざるを得ない昔ながらのやり方が続けられていて、家族全員で働かなければ生活が成り立たない状況だったんです。世界の農業を救いたいと思うようになったのは、このときの見聞が直接のきっかけでした。それ以降、自分がこれまでに得た宇宙開発にまつわる知識を、どうにか農業に役立てる方法はないかと考えるようになりました。奇しくもルワンダから帰国してすぐに、欧州宇宙機関(ESA)の地球観測ミッションで運営している人工衛星「センチネル(2A/2B)」の観測データが、無償で商業利用できるようになったというニュースを知りました。そこで、この衛星データを使えば、農業を効率化することができるかもしれない、と考えたわけです」

衛星データとAIのコラボで農家の困りごとを救う!
かなやん「なるほど。そこでサグリを起業したんですね! でも、どのように“衛星データ”と“農業”を結びつけたのでしょうか?」

坪井さん「宇宙に浮かぶ観測衛星は、地球上の広範囲を見ることができます。たとえば、地球上のどこに農地があるのかが細かくわかりますし、赤外線やマイクロ波などを使った観測なら、農地で栽培されている作物の種類や土壌の状態まで把握することができます。ただし、観測データはそのままの状態では役に立ちません。そこで頼りになるのがAIの技術です。人間による作業では膨大な時間がかかるデータの解析ですが、AIなら素早く知りたい情報を取り出してくれます。ラッキーなことに、それまでの研究を通じて私には、宇宙ビジネスやAIに関する知見がありました。そこで検討を重ねて開発したのが、サグリが提供するアプリたちです」

画像:iStock.com/MARY GRACE VARELA
かなやん「なるほど。衛星データでそんな細かなことまでわかるなんて驚きです! アプリにはいくつかの種類がありますが、それぞれどのように活用されているのでしょうか?」
坪井さん「たとえば、耕作放棄地を調査する『アクタバ』や作付け状況を調査する『デタバ』は、おもに自治体向けのアプリです。これまで、耕作放棄地や作付けの調査は目視によるアナログな手法で行われていたため時間もコストもかかっていました。しかし、『アクタバ』や『デタバ』を導入することで大幅な効率化が可能になります」
かなやん「『アクタバ』を利用して使える農地がたくさん見つかれば、収穫量アップが期待できるわけですね」
坪井さん「また、耕作放棄地になっている原因として見逃せないのが、農地を所有する農家の方々の高齢化です。これは、日本だけではなく世界各国で深刻な問題となりつつあります。そこで役立つのが『ニナタバ』です」
かなやん「農地のマッチングアプリですね」
坪井さん「耕作していない、または耕作できなくなった農地を所有する人と、農地を探している人とをつなぐことで、農地の有効活用が期待できます。また、耕作放棄地に太陽光発電設備を導入したり収穫物の加工場をつくったりすることで、農家の収入を増やせる可能性も生まれます。農家の収入を増やすという点では、圃場管理アプリ『Sagri』も役立ちます。農地の土壌や作物の育成状況を解析することで、所有する農地に最適な作物の種類や必要な肥料の分量がわかり、農業の効率アップにつながるんです」

実際の「Sagri」のアプリ画面
農業が変われば世界も変わる!サグリが目指す未来とは?
かなやん「農業にかかる人間の手間を減らして、農家の収入を増やすことができれば、子どもたちが働かなくても生活できるようになるかもしれませんね!」

坪井さん「そのとおりです! ですから『Sagri』は農家向けのアプリですが、基本的に誰もが無償で利用できるようにしています。ゆくゆくは世界中の農家の方々に『Sagri』を活用していただくのが、私の夢なんです。それを実現するためには、自治体や大企業など農業に関わりを持つ大きな組織と小さな農家が一体となり、農業全体の課題を解決するしくみもつくらなければなりません」
かなやん「具体的にはどのようなしくみなのでしょうか?」
坪井さん「たとえば、個々の農家が肥料を削減することでCO2の削減ができた分を、カーボンクレジットとして企業に売るしくみが確立すれば、環境問題解決と農家の収入アップの両方にメリットがあります。また、農機具や肥料の購入が経済的に難しい状況にある農家を助けるマイクロファイナンス(小口金融)のしくみができれば、農機具や肥料のメーカーにもメリットがありますよね? そうしたしくみづくりに関する取り組みも、サグリの重要な使命になっています」
かなやん「農業を取り巻く社会全体に貢献しようという想いがとても伝わってきます。そういった取り組みを世界各国に広げているのも、サグリの大きな特徴ですよね」
坪井さん「そうですね。サグリの起業当初から、ルワンダで目の当たりにしたような、世界の農家の現状を改善したいという気持ちは変わっていません。現在はインドをはじめアジアやアフリカ、中南米など、日本を含めた14カ国で事業を展開しています」

インド訪問の様子。画像提供:サグリ
かなやん「14カ国も! 農業は世界のどの国も例外ではない仕事ですもんね、今後のグローバル展開も楽しみです。ところで、そんな中でもなぜ、サグリの拠点は兵庫県丹波市にあるのでしょうか?」
坪井さん「じつは、最初に立ち上げた教育事業のベンチャー(株式会社うちゅう)で初めに連携したのが丹波市なんです。また、サグリを起業する際にも丹波市の農家の方々から農業の知識を学びました。当時の私は農業のことは右も左もわからなかったので、とてもお世話になりました。現在では東京のほか世界各地にオフィスを構えていますが、起業の起点となった丹波市には特別な思いがあります。恩返しの意味でも、丹波の地域創生に貢献できるような活動を続けていきたいですね」

かなやん「始まりの地ということなんですね。熱い想いがよく伝わりました! ここまでお話しを聞いて、世界規模で農業、ひいては農業に関わる人々の生活まで考えていることに、とても感動しました。サグリさんなら、きっと地球の未来を変えてくれると信じています。今日はありがとうございました!」
社会貢献につながる宇宙ビジネスが築く「人と宇宙の身近な関係」

画像:iStock.com/Userba011d64_201
ディズニーランドがきっかけで宇宙に憧れを抱き、若田光一さんの言葉で宇宙開発に携わる仕事に就くことを決心した坪井さん。現在取り組むサグリの仕事は、宇宙開発に直接関わるものではありませんが、宇宙開発の成果を地球規模の課題解決や子どもたちの明るい未来の実現に役立てる、立派な宇宙ビジネスのひとつです。
農業を取り巻く問題が解決されれば、教育を受けられる子どもたちも増え、食糧不足や貧困も解決に向かうはず。そうすれば、世界はもっと平和になるかもしれません。少年時代に夢見た、宇宙エレベーターで誰もが気軽に宇宙を旅する時代を実現させるため、坪井さんの活躍はこれからも続くことでしょう!
※この記事の内容は2025年3月25日時点の情報をもとに制作しています