地球の周りを回る人工衛星は、気象の観測や位置情報の計測など、私たちの暮らしに役立つ情報を提供し、生活に深く関わっています。しかしながら、人工衛星のことを詳しく知らない人も多いでしょう。現在、地球の周りにはいったいどれくらいの人工衛星があるのか、世界でもっとも多く人工衛星を打上げている国はどこなのか、人工衛星の数やその用途についてわかりやすく紹介します。

人工衛星は宇宙に何基ある?

画像: 画像提供:NASA Image and Video Library

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そもそも、人工衛星とは「人工の衛星」です。「衛星」とは定常的に惑星の周りを回っている天体のことで、たとえば月が代表的です。人工衛星とは、人が作った(人工)衛星であり、ロケットなどで宇宙に向けて打上げられます。そのため、基本的には地球の周りを回っているものを指します。

一方で、小惑星まで航行して石などのサンプルをとってくる「はやぶさ」などの宇宙機は「探査機」と呼ばれます。人工衛星はこうした探査機とは違って、軌道にのって地球を周回しているのが特徴です1)

これまでに打上げられた人工衛星は2万基以上

国連宇宙部(UNOOSA)によると、これまでに打上げられた人工衛星などの人工物体は世界で累計2万基以上とされています(2025年3月7日現在)2)。特にここ数年は毎年2,000基以上が打上げられており、宇宙開発が加速していることがわかります。

ちなみに、世界で初めての人工衛星は、当時のソビエト連邦が1957年に打上げた「スプートニク1号」でした。

人工衛星の数の内訳

画像: 画像:iStock.com/iLexx

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前述した2万基以上の人工衛星などの中には、故障したり軌道から外れてしまったりしたものも含まれています。UNOOSAによると、現在、軌道にのって地球を周回しているものは約1.5万基。残念ながら故障してしまったものは約3,400基、軌道を外れてしまったものは約900基とされています。

そのほか、地球以外の惑星を周回しているものなども少数あります。

【国別】人工衛星の打上げ数

UNOOSAには2025年3月現在、106の国や組織が登録されています。国別でその内訳を見ると、アメリカがもっとも多く1万2,122基、続いてロシア(ソビエト連邦含む)が3,828基、中国が1,406基となっています。なお、日本は352基で5番目に多くなっています

画像: 【国別】人工衛星の打上げ数

【年別】人工衛星の打上げ数

UNOOSAには1957年からの打上げ数も記録されています。1957年は2基、その後徐々に打上げ数は増加し、1964年には100基を超えています。そこからしばらく、100基台のまま推移していきますが、2013年に210基を記録。2020年には爆発的に打上げ数が増加し、初の1,000基超えとなる1,274基を打上げました。その後も打上げ数は増え続け、2022年〜2024年には2,000基を超えています

画像: 【年別】人工衛星の打上げ数

世界の人工衛星等の打上げ数は、近年飛躍的に伸びています。イーロン・マスク氏の宇宙ベンチャー企業、スペースX社の人工衛星サービス「スターリンク」などの影響から、小型で大規模な人工衛星の打上げが増えており、2024年に打上げられた人工衛星等は2,849基にのぼります。宇宙ビジネスの盛り上がりなどを受けて、今後も人工衛星の打上げ数は増加すると考えられています。

【コラム】人工衛星の種類

人工衛星は、目的によって大きく3つの種類に分けられます1)。いずれも増加傾向であり、関連するビジネスやサービスがまさに今、拡大しています。

●地球観測衛星
宇宙から地球の様子を観測する人工衛星。気象や海洋、森林、建物の状況など、地球の表面や大気の状態を測定します。代表的なものに気象衛星による天気予報があります。

●通信・放送衛星
さまざまな通信のために用いられる人工衛星。通信衛星はインターネットや電話、放送衛星はテレビやラジオなどに用いられています。

●測位衛星
対象が地球上のどこにいるのかを正確に知るために使われる人工衛星。GPSをはじめ、カーナビや地図アプリなどの位置情報サービスに使われています。

使い終えた人工衛星はどうなる?

画像: 画像:iStock.com/Ignatiev

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2万基以上もの人工物体を打上げて、宇宙は大丈夫なのか、と疑問に思う方もいるでしょう。

じつは、運用を終えた人工衛星は、ほかの運用中の人工衛星の邪魔にならないように、本来の高度から300km以上離れた軌道に移動させたり、大気圏に突入させて燃やしたりすることで、処理をしています3)

軌道を移動した人工衛星は、しばらくの間は地球を周回しますが、軌道が地表から数百km程度にあるものは、数年〜数十年経つと徐々に高度が下がり、大気圏に突入して燃え尽きます。一方で、地表から数千kmなどの高い軌道にあるものは、数百年以上にわたって地球を周回し続ける可能性もあります。

このように地球の周囲を回っている人工衛星等の残がいは、「スペースデブリ(宇宙ゴミ)」と呼ばれています。人工衛星が増えると、将来的にスペースデブリも増加する可能性があり、世界ではさまざまな対策が検討されています。スペースデブリの対策については、後述します。

日本の動向

近年、世界的に宇宙開発の取り組みが積極的になっており、日本でも人工衛星等の打上げ数が増加しています。経済産業省によると、大学などから約100社の宇宙ベンチャー企業が輩出されているそうで、今後ますます、日本の宇宙産業の発展が期待されています。また、国は2024年時点の宇宙産業の市場規模を約4兆円としており、2030年代初頭までに2倍の約8兆円にすることを目指しています5)

日本の人工衛星の打上げ数の推移

前述の通り、日本がこれまでに打上げた人工衛星の数は352基です。特に2000年以降、打上げ数の増加が顕著であり、コロナ禍であった2020年を除くと、近年は年間20基前後の打上げが行われています6)

画像: 日本の人工衛星の打上げ数の推移

人工衛星が増えている理由・背景

世界的に人工衛星の打上げ数が増加している主な背景には、民間企業による宇宙ビジネスの活発化が挙げられます。宇宙ビジネスは、大きく分けて輸送、衛星、宇宙科学・探査の3分野に分類されます。大規模な災害や気候変動への対策といった地球規模の課題の解決に、これらの宇宙ビジネスが役立つと期待されており、宇宙ビジネスへの注目度が高まっているのです。

衛星分野では、小型の人工衛星を打上げて、地球観測や通信などのサービスを提供する宇宙ビジネスが注目されています。特に注目されているのが、“衛星コンステレーション”という多数(数十〜数千基)の人工衛星を連携させたシステムの活用です。衛星コンステレーションに使われる小型の人工衛星は、低コストで開発・打上げが可能であることから、ビジネス化に適していると考えられています。

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人工衛星を活用したサービス

画像: 人工衛星を活用したサービス

前述した通り、人工衛星には地球観測衛星、通信・放送衛星、測位衛星の3種類があります。それぞれの人工衛星がどのようなサービスの提供に役立っているのか、詳しく見てみましょう。

地球観測衛星

地球観測衛星とは、変化する地球の環境をモニタリングすることを目的とした衛星です7)。気象衛星が代表的なもので、毎日見る天気予報などに活用されています。また、地球観測衛星の中でも、SAR衛星と呼ばれる天候や昼夜に関係なく地球を観測できる衛星を用いれば、気象災害の予測、インフラの維持管理などの防災・減災の取り組みにも役立てることができます。そのほか、農林水産業などの経済活動や、地球規模の気候変動の対策に活用されることもあります。

【関連記事】SAR衛星とは?地球観測のしくみや光学衛星との違いをわかりやすく解説

通信・放送衛星

通信・放送衛星は、衛星放送や衛星インターネット、衛星通信の提供に用いられます。衛星放送では、人工衛星からの電波を各家庭で直接受信して視聴します。よく耳にする「BS放送」とは、放送衛星(ブロードキャスティング・サテライト)を用いたものなのです8)。また、近年は衛星インターネットにも注目が集まっています。スペースX社が提供する「スターリンク」はアンテナさえあれば世界中のどこからでもインターネットが利用できるサービスで、日本でも2022年10月から利用可能となっています。

【関連記事】【今すぐわかる】スターリンクとは?料金や通信速度、しくみなどを徹底解説

測位衛星

測位衛星とは、位置情報を計測するための信号を送信する人工衛星です9)。こうした衛星測位システムには、日本の「みちびき」、米国の「GPS」、ロシアの「GLONASS」、欧州の「Galileo」といったシステムがあります。測位衛星によって提供された位置情報は、私たちが日頃使う地図アプリやカーナビをはじめ、航空や船舶の運航管理などに使用されています。

人工衛星の数が増加すると、何が起こる?

画像: 画像:iStock.com/Thx4Stock

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今や、私たちの暮らしや経済活動に欠かせない人工衛星ですが、この先、人工衛星の数がより増えることで、どのような影響が生まれるのでしょうか。

さまざまなサービスの高速化、広域化、効率化

これまでも、人工衛星を活用することで衛星放送が視聴できるようになったり、GPSを使った地図アプリが使用できるようになったり、私たちの暮らしが便利になってきました。今後、さらに人工衛星が増えることで、情報のやり取りが高速・広域でできるようになれば、暮らしやビジネスに大きな便益がもたらされるでしょう。

また、ロシアによるウクライナ侵攻の際、スペースX社のスターリンク通信衛星がウクライナの通信ネットワークを支えたように、国家の安全保障においても重要な役割を果たすと考えられています5)

スペースデブリ(宇宙ゴミ)などの課題も

画像: 画像:iStock.com/johan63

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いくつものメリットがある一方で、使い終えた人工衛星が宇宙ゴミとなって宇宙に漂い続けるという課題もあります。実際に、宇宙ゴミは年々増加しており、今後の宇宙における活動の妨げになると懸念されています。また、宇宙ゴミの処理に関する国際的なルールの策定も進められています。

日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、宇宙ゴミ対策として民間企業と協力し、世界で初めての大型デブリの除去の技術実証などに取り組んでいます10)11)

人工衛星がもたらす新たな変化

現在、人工衛星等の数は世界全体で2万基を超えており、今後も増えることが予想されています。人工衛星を活用したさらなるサービスの提供が期待されるとともに、宇宙ゴミなどの課題も浮き彫りになってきました。これらの課題をクリアするための取り組みもスタートしています。今後、さまざまな分野において人工衛星を利用した革新的なソリューションが生まれ、私たちの生活に新鮮な変化をもたらしてくれる日も近いかもしれません。

※この記事の内容は2025年3月7日時点の情報をもとに制作しています

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