宇宙のことをもっと知りたい、東京海上日動の宇宙プロジェクトメンバーが「宇宙ベンチャー調査隊」を結成し、気になる宇宙ビジネス関連ベンチャーを直撃取材! 第2回は、環境にもやさしい新たな宇宙への輸送手段となる「スペースプレーン」の開発を進める「SPACE WALKER」さんにお話を伺いました。

再利用可能だから地球にやさしい!? “飛行機みたいなロケット”の正体は?

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かなやん

最近、毎週のようにロケット打上げのニュースを見るよね? 2024年だけで250回以上も打上げされたんだって!

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えんちゃん

凄い! でも、現在打上げられているロケットの多くが“使い捨て”なのって、ちょっと気にならない?

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やす

確かに。あんなに大きな機体が一度しか使えないのは、もったいない話だよなぁ。ロケットの燃料も、環境に悪そうな気がするし……。

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かなやん

宇宙ビジネスが盛り上がっているのはワクワクするけど、その分地球や宇宙の環境に負荷がかかるのは心配だよねぇ。

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えんちゃん

でしょ? それで調べてみたら、環境に配慮した燃料を使う再利用可能な「ECO ROCKET」を開発している日本の宇宙ベンチャーを見つけたの。しかも開発中の機体が、まるで飛行機みたいな形をしているんだって!

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やす

それは気になる!! どうやら飛行機みたいな形をしているってところに秘密がありそうだね。

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えんちゃん

私も、そこがいちばん気になってたの! では、早速調査に行ってきます!!

未来の宇宙往還機「スペースプレーン」を開発するSPACE WALKERってどんな会社?

画像: 未来の宇宙往還機「スペースプレーン」を開発するSPACE WALKERってどんな会社?

ということで今回ご紹介するのは、2017年に設立した東京理科大学発の宇宙ベンチャー「株式会社SPACE WALKER(スペース・ウォーカー)」です。

会社のビジョンは「誰もが飛行機に乗るように、自由に地球と宇宙を行き来する未来を実現する」こと。具体的には「スペースプレーン」と呼ばれる、有翼式の再使用型宇宙往還機(単体で地球と宇宙を行き来できる宇宙船)の設計開発を行っているほか、スペースプレーンの実用化にも欠かせない、丈夫で超軽量な「複合材タンク」の開発製造を行っています。

スペースプレーンときいて、1980年代に活躍したアメリカの有人宇宙船〈スペースシャトル〉を思い出す人もいるでしょう。また、再使用できる宇宙輸送機としては、現在スペースXが実験を進める〈スターシップ〉が話題になっています。それらに対し、SPACE WALKERが開発を進めているスペースプレーンは、どこが違うのでしょうか?

画像1: 画像提供:SPACE WALKER

画像提供:SPACE WALKER

その謎を解くキーワードとなりそうなのが「ECO ROCKET」。SPACE WALKERが開発を進めているスペースプレーンのコンセプトです。“エコ”なロケットとは、いったい何なのか? 代表取締役CEOの眞鍋顕秀(まなべあきひで)さんに、ズバリ直撃しました!

●話を聞いた人

画像: 自由に地球と宇宙を行き来する未来へ!東京理科大学発ベンチャー「SPACE WALKER」を直撃

株式会社SPACE WALKER Co-Founder / 代表取締役CEO
眞鍋顕秀さん

慶應義塾大学経済学部卒。公認会計士。大手監査法人へ入社後、おもに監査業務・IPO・M&A業務に従事。2012年に独立開業し、大手企業の経営コンサルから個人の開業・法人設立の支援まで幅広い企業サポートを行ったのち、当時、九州工業大学の教授であった米本浩一さんらと、2017年12月に株式会社SPACE WALKERを共同設立。経済産業省「コンバーティブル投資手段に関する研究会」委員のほか、一般社団法人 ニュースペース国際戦略研究所の監事も務めている。

幻の「国産スペースプレーン」を宇宙へ!

えんちゃん「まずは、SPACE WALKER設立のきっかけから教えてください!」

眞鍋さん「プロフィールを見てもらえばわかるように、私は公認会計士として、宇宙とは縁がない仕事に携わっていました。そんな私が宇宙ビジネスに関わりたいと思うようになったきっかけは、SPACE WALKERの共同設立者でもある米本浩一先生(取締役CTO)との出逢いなんです」

画像: 幻の「国産スペースプレーン」を宇宙へ!

えんちゃん「米本さんとは、どのような方なのでしょう?」

眞鍋さん「元々は川崎重工で航空機の開発を担当したのち、JAXAの宇宙科学研究所に出向して〈HIMES〉という再使用型の弾道飛行機、そして〈HOPE〉や〈HOPE-X〉という再使用型の宇宙往還機、つまりスペースプレーンの開発プロジェクトに携わっていた人物です。出逢った当時は九州工業大学の教授を務めていて、その後、東京理科大学嘱託教授も務めました」

画像: HOPE-Xのイメージ 画像提供:JAXA

HOPE-Xのイメージ
画像提供:JAXA

えんちゃん「日本がスペースプレーンの開発をしていたとは、恥ずかしながら知りませんでした……」

眞鍋さん「じつは、私も知らなかったんですよ(笑)。残念ながら国産スペースプレーンの計画は、さまざまな事情で中止になってしまいましたからね。しかし米本先生は、その夢を諦めてはいませんでした。ちなみに、米本先生と最初に出逢った2016年は、スペースXが再使用可能なロケットの第1段機体を、洋上の台船に着陸させることに初めて成功した年でもあります」

えんちゃん「民間の宇宙ビジネスが大きく加速しはじめたタイミングですね」

眞鍋さん「そうなんです。だから私は『あのイーロン・マスクが、今でも実用化が難しいといわれる再使用型のロケット開発に取り組んでいるんだから、米本先生が研究してきたスペースプレーンにも、大きなビジネスチャンスがあるに違いない』と考えました。そこで自分なりに1年かけてリサーチを行った結果、米本先生の夢をビジネスとして実現させることが可能だと確信し、一緒にSPACE WALKERを立ち上げたんです」

小型のスペースプレーンが生み出す、大きなビジネスチャンスとは?

えんちゃん「米本さんの夢が形になる。つまり、SPACE WALKERのスペースプレーンが、ビジネスとして成立すると考えたのはなぜですか?」

画像1: 小型のスペースプレーンが生み出す、大きなビジネスチャンスとは?

眞鍋さん「その理由はいくつかあります。なかでも大きな要因として挙げられるのは、私たちが開発を進めているスペースプレーンが『小型』であることです。たとえば、2028年の打上げを目指しているスペースプレーン〈Fujin/Raijin〉の全長は17.7 m。対して、スペースXの〈スターシップ〉は、ブースターとなる〈スーパーヘビー〉とあわせて全長118mにもなるんです」

えんちゃん「7倍近いサイズの差があるんですね!」

眞鍋さん「そうなんです。こんなにも小型にできるのは、〈HIMES〉や〈HOPE-X〉の開発で培った技術があるからこそ。先行しているプレーヤーが、同じサイズのスペースプレーンを開発するのは、なかなか難しいと思います」

えんちゃん「小型であることが、なぜビジネスに役立つのでしょう?」

眞鍋さん「自動車にたとえて、大型トレーラーと軽トラの違いといえばわかりやすいかもしれません。現在運用されているロケットは、大型トレーラーのようにたくさんの荷物を一度に運ぶ用途には適していますが、その分稼働に必要なコストも高いので、頻繁に打上げるわけにはいきません」

えんちゃん「確かに、人工衛星を宇宙へ送る場合も、複数の衛星を、一機のロケットに相乗りさせていますね」

画像2: 小型のスペースプレーンが生み出す、大きなビジネスチャンスとは?

眞鍋さん「対して、私たちが開発を進める小型のスペースプレーンは、軽トラのように小回りが利く存在です。そのため、相乗り便を待たず、希望するタイミングで人工衛星を打上げることができます。いわばチャーター便としての需要ですね。小型であることのメリットは、ほかにもあります。一例を挙げるなら、人工衛星の故障対応です。低コストで気軽に飛ばせるスペースプレーンなら、故障した人工衛星の修理や交換が容易に行えるんです。人工衛星の増加にともない故障対応のニーズが高まるのは必然ですが、それに適した小回りの利く宇宙往還機は、まだ実現していません。そこに、ひとつのビジネスチャンスがあると考えたわけです」

翼を持つ宇宙船だから地球にもやさしい

えんちゃん「なるほど! それは確かに需要がありそうですね。ところで、SPACE WALKERのスペースプレーンは、なぜ『ECO ROCKET』と名乗っているのでしょうか?」

画像1: 翼を持つ宇宙船だから地球にもやさしい

眞鍋さん「その理由は、私たちのミッションに掲げる『誰もが飛行機に乗るように、自由に地球と宇宙を行き来する未来の実現』と深く関わっています。私は、宇宙ビジネスが盛んになりつつある現在の地球って、18世紀後半に産業革命が始まった時代と似た状況にあると思っているんです。産業革命によって世界は大きく発展しましたが、機械を動かすために化石燃料を採用したことで、結果的に地球規模の環境汚染という問題が生まれました。もちろん当時は、それ以外の選択肢が考えられなかったわけですが、科学技術が進んだ現在は事情が異なりますよね?」

えんちゃん「宇宙ビジネスがさらに本格化する前に、クリーンなエネルギーを主力として採用すれば、産業革命の轍を踏まずに、私たちの地球や宇宙の環境を守ることができるということですね?」

眞鍋さん「そのとおりです! 宇宙ビジネスが急拡大する今のうちに、使い捨てのロケットを環境に悪い燃料で打上げる方式を改善する必要があります。その第一歩を担うことが、私たちが開発する『ECO ROCKET』の使命でもあるんです。具体的には、カーボンニュートラルな液化バイオメタンを燃料に採用しているほか、燃料自体の節約に欠かせない機体の軽量化を実現する、丈夫で軽い燃料タンク(複合材推進薬タンク)の開発製造も行っています」

画像2: 翼を持つ宇宙船だから地球にもやさしい

えんちゃん「軽くて丈夫な燃料タンクなら、スペースプレーンだけでなく地上でも役立ちそうですね!」

眞鍋さん「実際、水素自動車のようなエコカーに応用するためのタンクの開発も進めています。そういえば、SPACE WALKERのロケットは飛行機のような形状になっていることで、環境への配慮にもつながっているんですよ」

えんちゃん「どういうことでしょう?」

眞鍋さん「先ほども言ったように、ロケットの打上げが環境に悪い主な原因は、使用する燃料です。ですから、なるべくクリーンな燃料を使うのはもちろん、燃料の使用量自体も減らす必要があります。機体の軽量化も燃料を減らす解決策のひとつですが、私たちのスペースプレーンは、翼を使ってグライダーのように滑空飛行することが可能です。つまり、宇宙から地球へ戻り着陸するまでの間は、燃料をほとんど使わずに飛ぶことができるんですね」

えんちゃん「帰りの燃料がいらないということですか! それは確かにエコだなぁ」

自動車や飛行機のような“モビリティ”を目指して

えんちゃん「最後に、これからの計画について教えてください!」

画像1: 自動車や飛行機のような“モビリティ”を目指して

眞鍋さん「私たちの計画は4つのステップにわかれています。最初のステップとなるのが、2026年の有翼ロケット実験機打上げです。先ほどお話した液化バイオメタンと液化酸素を混合した燃料と複合材製推進薬タンクを採用した、全長4.6mの実験機の開発が、最終段階を迎えているところです」

えんちゃん「すでにカウントダウン状態じゃないですか!」

眞鍋さん「続く第2ステップとなるのが、2028年に予定している科学実験と小型衛星の打上げを目的とする〈Fujin/Raijin〉の打上げです。こちらは、北海道大樹町にある『北海道スペースポート(HOSPO)』からの打上げを予定しています」

えんちゃん「成功すれば、先ほど教えていただいた、小回りの利く人工衛星打上げビジネスの本格始動につながるわけですね」

眞鍋さん「そして第3ステップが、2030年に予定しているスペースプレーンを使ったサブオービタル宇宙旅行の実現。その成果を踏まえ、2040年にはオービタル飛行による本格的な宇宙旅行や、地上2地点間高速輸送の実現を予定しています」

えんちゃん「米本さんが夢見たスペースプレーンで宇宙旅行をする時代が、もうすぐやってくるなんて本当に楽しみですね!」

画像2: 自動車や飛行機のような“モビリティ”を目指して

眞鍋さん「人間を宇宙に運ぶためのモビリティ(輸送手段)を創ることが米本先生の目標なんです。自動車や飛行機って『行って帰ってくる』ことが当たり前になっているじゃないですか。つまり、誰もが『自由に地球と宇宙を行き来する未来』は、宇宙船が自動車や飛行機と同じモビリティにならなければ実現しないということ。私たちが開発するスペースプレーンが、その最初の存在となるよう、今後も開発を進めていきたいと思います!」

「ECO ROCKET」に乗って地球の明るい未来へ!!

画像2: 画像提供:SPACE WALKER

画像提供:SPACE WALKER

その形状だけではなく、人や物を何度も運ぶことができる点でも、飛行機のようなモビリティを目指すペースプレーン。さらにSPACE WALKERが開発を進めている「ECO ROCKET」は、地球や宇宙の環境にも配慮することで、持続可能な宇宙ビジネスの実現に貢献する、いわば地球の明るい未来に欠かせない存在となりそうです。

ちなみにお話を伺った眞鍋さんによれば、「ECO ROCKET」で使用するバイオメタン燃料を、打上げ場所となるHOSPOがある大樹町で飼育されている牛のフンからつくる構想もあるのだとか! 環境にとってもネガティブなイメージがある牛のフンが、宇宙ビジネスに役立つなんて、面白い話ですよね? SPACE WALKERの活躍に、これからも注目したいと思います!

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▼連載「あなたの町から宇宙へ挑む 全国宇宙ベンチャー調査隊!」

画像: spacemate.jp
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※この記事の内容は2025年3月28日時点の情報をもとに制作しています

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