ラグジュアリーな空間で、お酒を楽しみながら地球を眺める──。そんな夢を叶えてくれるのが、気球型宇宙船で高度約30kmの成層圏まで上昇し、“宇宙の入り口”から眼下に広がる地球の姿をゆっくりと眺めることのできるツアーです。この旅の仕掛け人である旅行会社のHISと、旅の販売を担うクオリタに話を聞きました。

●話を聞いた人

画像1: シャンパンで乾杯も!気球で行く“宇宙体験ツアー”の魅力【HIS・クオリタ】

株式会社エイチ・アイ・エス(以下、HIS)
執行役員 海外事業統括本部長 波多野英夫さん

HISアメリカ現地法人にて北中南米地域営業統括として2022年までニューヨークに在住。2020年に地球型宇宙船「ネプチューン」の開発を手掛けるSpace Perspective社と出会い、2022年に同社の宇宙体験ツアーの日本での独占販売契約を結んだ。

画像2: シャンパンで乾杯も!気球で行く“宇宙体験ツアー”の魅力【HIS・クオリタ】

株式会社クオリタ
代表取締役社長 望月一徳さん

2022年、HISの子会社であるクオリタの代表取締役に就任。HISの波多野さんが独占販売契約を結んだ地球型宇宙船「ネプチューン」で行く宇宙体験ツアーの販売を担当。旅の魅力を発信するために、広報活動などを行っている。

▶Web

連載「宇宙旅行を支える人々『SpaceMate』」

“宇宙旅行”を盛り上げ、支える仲間、それがSpaceMateです。さまざまな領域で活動を続ける彼らの活動をご紹介します。

Vol.1「一生モノの感動ツアーを届ける。宇宙への架け橋を目指す日本旅行の思い」
Vol.2「39万8千円で宇宙旅行を目指せ! PDエアロスペースの宇宙飛行機の挑戦」

シャンパンで乾杯! 気球で行くラグジュアリーな宇宙体験ツアー

画像: 気球型宇宙船「ネプチューン」の公式販売代理店として、旅の魅力を発信するクオリタの望月さん。

気球型宇宙船「ネプチューン」の公式販売代理店として、旅の魅力を発信するクオリタの望月さん。

SpaceMate編集部「まずは気球型宇宙船『ネプチューン』で行く宇宙旅行の日本唯一の公式販売代理店、クオリタの望月さんに旅の“中身”についてお聞きしていきます。そもそもの質問ですが、気球はどこから出発するのでしょうか」

画像: 気球型宇宙船「ネプチューン」。丸いカプセルに乗り、“宇宙の入り口”を旅します。 ©Space Perspective

気球型宇宙船「ネプチューン」。丸いカプセルに乗り、“宇宙の入り口”を旅します。
©Space Perspective

望月さん「『ネプチューン』はアメリカのフロリダ州の港に停泊する海洋宇宙港、つまり船上から出発します。出発後は2時間かけて高度約30kmまで上昇し、そこで2時間滞在。それからまた2時間かけて地上に戻ってくるスケジュールとなっています」

画像: 「ネプチューン」は海に浮かぶ海洋宇宙港(船上)から出発します。 ©Space Perspective

「ネプチューン」は海に浮かぶ海洋宇宙港(船上)から出発します。
©Space Perspective

望月さん高度30kmは成層圏と呼ばれる宇宙の入り口ですが、堪能できる宇宙の景色は高度100kmの景色と遜色ありません。また、サブオービタル旅行(※)の宇宙空間の滞在時間が数分程度なのに対し、ゆっくりと宇宙を楽しめるのが魅力です

※:サブオービタル旅行とは、ロケットなどの宇宙船で宇宙空間に数分間滞在するアトラクションのような宇宙旅行のこと

SpaceMate編集部「たしかに、宇宙に近い場所からゆったりと地球を眺めるのはなかなかできない体験です。しかも写真を見ると、船内には大きな窓がたくさんあり、まるで高層ビルの最上階にあるバーのようなイイ雰囲気ですね」

画像: 「ネプチューン」の窓ガラスは特注サイズ。現存する宇宙船のなかでは最大級です。 ©Space Perspective

「ネプチューン」の窓ガラスは特注サイズ。現存する宇宙船のなかでは最大級です。
©Space Perspective

望月さん「船内にはバーカウンターがあり、眼下に広がる地球の姿を眺めながらシャンパンで祝杯を挙げたり、軽食を楽しんだりすることも可能です。また、船内は十分に加圧されていますので、Tシャツに短パンなど、ラフな服装で自由にくつろぐことができます。加えて、Wi-Fiが完備されていて、自分のスマホなどからネット接続できるのもポイントです」

画像1: ©Space Perspective

©Space Perspective

SpaceMate編集部「お酒を嗜みつつ、宇宙から撮影した写真や動画をその場で地上の友だちともシェアすることができるということですね! すごい、すごすぎる!」

望月さん『ネプチューン』にはトイレも完備されています。アルコールを飲んでトイレが近くなっても心配いりません。今実現している宇宙旅行では、アルコールは厳禁ですし、基本は私物のスマホが持ち込めないので、かなり自由度が高いと思いますよ」

画像: トイレにも窓が配置されており、地球を眺めることができます。 ©Space Perspective

トイレにも窓が配置されており、地球を眺めることができます。
©Space Perspective

SpaceMate編集部「まさに至れり尽くせりですが、そうなるとけっこうなお値段になりそうです」

望月さん「おひとり様12万5,000ドルとなっています。日本円に換算すると1,900万円弱でしょうか。いま申し込みいただいているお客様に聞くと、『昔から宇宙に憧れがあった』『一生のうち1回でいいので行ってみたかった』とみなさんおっしゃいます。高いと感じるかもしれませんが、思い入れの強い方にとっては値段以上の価値があるのではないでしょうか」

SpaceMate編集部「予約はもう始まっているのですか」

望月さん2024年と2025年分のフライトはすでに完売し、クオリタでは2026年以降のフライトを取り扱っています。ちょうど現在、無人のテスト飛行を行っていて、それをクリアしたらつぎは有人のテスト飛行。そこで問題なければ2024年の年末からお客様が搭乗したフライトがスタートする予定です」

SpaceMate編集部「2年先までもう完売したということですか? すごい人気ですね! 2025年までフライト予約が埋まっていることからも、新しい旅先として注目されていることがわかります」

危機がチャンスに。コロナをきっかけに出会ったHISと気球型宇宙船

画像: コロナ禍に出会った、気球型宇宙船「ネプチューン」のエピソードを語る波多野さん。

コロナ禍に出会った、気球型宇宙船「ネプチューン」のエピソードを語る波多野さん。

SpaceMate編集部「ここからは、“宇宙体験ツアー”の仕掛け人であるHISの波多野さんに、気球型宇宙船『ネプチューン』を日本で展開することになった経緯をお聞きしていきます。HISは海外旅行市場で個人旅行という新しいマーケットを開拓したことで知られる旅行会社ですが、なぜ宇宙に着目したのでしょうか」

波多野さん科学技術のイノベーションによって、ひと昔前に比べて人類が宇宙に行きやすくなりつつあります。目的地が宇宙なら、これまでと違った旅のスタイルをお客様にご提供できるのではないかと考え、以前からいろいろと模索していたんです」

SaceMate編集部「具体的にどんな模索を?」

波多野さん「たとえば、宇宙機開発ベンチャーのPDエアロスペースとは宇宙輸送事業化に向けて資本提携もしています。そのほか、ロシアの戦闘機『ミグ29』で成層圏まで上昇し、宇宙の入り口を体験する旅を販売したこともありました。近年の宇宙事業開発に伴い、お客様にも新しい旅の商材をご提案できるよう、様々な取り組みをしています」

SpaceMate編集部「戦闘機で成層圏まで飛ぶのはすごいですね! ただ、そういった取り組みと、リアルな宇宙旅行ではかなり違いますよね」

波多野さん「この『ネプチューン』の取り組みを開始したきっかけは、2020年1月頃から世界的流行が始まった新型コロナウイルスでした。私は当時、HISアメリカ現地法人にて北中南米地域の営業統括という立場で仕事をしており、おもにニューヨークにいました。

ところが、3月7日のニューヨーク州知事による非常事態宣言を皮切りに、ニューヨーク市民は不要不急の外出が禁止され、ロックダウンが始まりました」

SpaceMate編集部「たしか、ニューヨークは感染爆発が起こるなど、当時は非常に厳しい状況にあったと記憶しています」

画像: 危機がチャンスに。コロナをきっかけに出会ったHISと気球型宇宙船

波多野さん「旅行どころか外出も禁じられ、気持ちも落ち込みがちになりました。とはいえ、ずっと落ち込んでいるわけにもいきません。何か新しいことに挑戦しなければ再びコロナ禍のような事態が起きたとき、会社が立ち行かなくなります。

そこで、2020年5月に、HIS社員に新規事業のアイデアを募り、何か新しいことに挑戦してみようという取り組みを開始したのです」

SpaceMate編集部「なるほど。そのひとつが宇宙だった」

波多野さん「はい。2020年後半当時、まだコロナ禍が続いていましたが、カリフォルニア州シリコンバレーにはスタートアップが続々と誕生し、新規事業を立ち上げていました。もともとHISではシリコンバレーにスタッフを派遣してアンテナを張り巡らせていましたから、彼らに協力してもらい、新しい事業に取り組んでいるスタートアップを探したんです。そうやって見つけた企業が、現在のSpace Perspective社でした」

契約まで2年。普段着で行ける新しい“宇宙旅行”を日本へ

画像: 契約まで2年。普段着で行ける新しい“宇宙旅行”を日本へ

SpaceMate編集部「そのSpace Perspective社が気球型宇宙船を開発したアメリカの宇宙ベンチャー企業ですね」

波多野さん「そうです。“スペースバルーン”という独自技術によって飛行する『ネプチューン』は、世界で初めてカーボンニュートラルな方法で宇宙の入り口に行くことのできる気球型宇宙船です。さっそくアポを取り、同社の創設者で共同CEOのジェーン・ポインターさんとテレビ会議でミーティングをさせていただきました」

SpaceMate編集部「いよいよ、宇宙体験ツアーの準備がスタートしたわけですね」

波多野さん「お互いにとって最適な関係を築くために、約2年間かけて話し合いを重ね、2023年9月に出資を行い、同時に日本市場での地球型宇宙船『ネプチューン』での宇宙体験ツアーの独占販売権を獲得したのです

SpaceMate編集部「その2年間、どんな話し合いを?」

波多野さん「宇宙旅行の商品化はジェーンさんのなかで決定していたことでしたので、じゃあ我々はどのように一般の人へ宇宙旅行を提案できるだろうかと。それを考えたときに大きな魅力になると思ったのが、気球で行く宇宙旅行には事前のトレーニングが必要なく、普段の服装のまま宇宙の景色を見ることができる点でした。

これなら日本国内のマーケットにも必ず『行きたい』とおっしゃるお客様がいるに違いないと思ったのです。そこで約2年間を費やして、そのためのさまざまな準備を行っていました」

決め手は乗船できる人数。HISが気球で行く宇宙体験ツアーを独占契約したワケ

SpaceMate編集部「ひとつ気になるのは、なぜ数ある宇宙ベンチャーのなかからSpace Perspective社を選ばれたのか、ということです。アメリカは宇宙ビジネスが盛んなので、おそらく気球型宇宙船を開発する企業はほかにもあったと思うのですが……」

波多野さん「たしかに、ほかに4社ほど同じようなスタートアップがありましたし、アメリカ以外の国にもそうした企業があります。ただ、パイロット1名と乗客8名が搭乗できる大きな気球型宇宙船を開発しているのはSpace Perspective社だけだったのです」

画像: 「ネプチューン」の船内。乗客8名がゆったりと過ごせるような設計になっています。 ©Space Perspective

「ネプチューン」の船内。乗客8名がゆったりと過ごせるような設計になっています。
©Space Perspective

SpaceMate編集部「乗客数が決め手に。目の付け所が、さすがは旅行会社さんですね。でもそれなら、他の企業も乗客数を増やせばと思ってしまうのですが……」

波多野さん「乗客数だけなら、そうかもしれません。でもジェーンさんの宇宙旅行にかける情熱も独占販売権を獲得する決め手のひとつだったんです。もともとジェーンさんは、国際宇宙ステーションなどの宇宙飛行ミッションにハードウエアを提供する企業で働いていた宇宙開発の専門家なんです。しかも非常にパワフルで気持ちのいい人で。彼女のそういった人柄も契約に至った理由になりますね」

宇宙結婚式や宇宙ホテルも! 気球型宇宙船の未来予想図

画像2: ©Space Perspective

©Space Perspective

SpaceMate編集部「気球型宇宙船による宇宙旅行がまもなく実現しようとしている現在、つぎはどのような取り組みを思い描いていますか」

波多野さん「現在、『ネプチューン』の打上げはフロリダの港でのみ計画されています。ただし、気球を打上げるための船と専用機材があれば、理論上は日本国内でも可能です。海が周囲にあり、天候が比較的安定している地域や自治体さんが、打上げ候補地として名乗りを上げていただければ、HISグループとしてサポートをしたいと考えています」

SpaceMate編集部「それは本当に可能なんですか?」

波多野さん「FAA(アメリカ連邦航空局)の承認を得ることができれば、日本国内でフライトする許可も下りる可能性はあると考えています。近い将来『ネプチューン』を日本から打上げることができたら、気球型宇宙船による宇宙旅行をもっと身近なものにすることができるのではないかと思っています」

SpaceMate編集部「そうなったら、宇宙に憧れている人がこぞって予約しそうです」

画像: 宇宙結婚式や宇宙ホテルも! 気球型宇宙船の未来予想図

波多野さん「もうひとつは、ジェーンさんと以前から話しているのですが、“宇宙ホテル”の実現です。『ネプチューン』は出発してから6時間で地上に戻ってきますが、食事もできますし、ベッドを設置すれば宿泊することが可能です。気球で行く、宿泊付きの宇宙旅行はいずれ実現させたいですね」

望月さん「気球型宇宙船は高度約30kmに『2時間滞在できる』というのがポイントで、さまざまな付加価値を与えることが可能だと思います。たとえば、滞在時間を少し延ばして、宇宙の入り口で結婚式を挙げるとか。そういったことを企画して価値を高めていきたいと考えています」

SpaceMate編集部「夢が膨らみますね。日本国内からの打上げと宇宙ホテルや結婚式、楽しみにしています!」

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