宇宙に行くと、こんなことに困る!
「一度は宇宙に行ってみたい…」と思う方も多いかもしれませんが、実際に宇宙に行くと、無重力空間ならではの悩みや、水を十分に使えないといった不便さも伴います。具体的にどんな悩みがあるのか、これまでISS(国際宇宙ステーション)に滞在した宇宙飛行士からは、以下のような項目が挙げられています。
JAXAが公表している宇宙飛行士の声を集めた「Space Life Story Book」(※1)によると、上図のように入浴、歯磨き、洗濯、睡眠など日常生活に関わる悩みがたくさんあります。宇宙船にシャワーが付いていた時代もありましたが、使用後のシャワーブース内の1時間の拭き掃除に手間がかかったため、使わなくなったという過去も。水を自由に使えるようになったら解消するわけでもなく、宇宙での悩みの解決は一筋縄ではいかないようです。
このような宇宙での悩みを解消するためにJAXAは、「宇宙生活/地上生活に共通する課題を解決する生活用品アイデア募集」(※2)を実施。これに多くの応募が集まり、宇宙でのQOL(生活の質)を上げるためのアイテムが続々と作られ、実際に宇宙で使われるようになりました。なかには、この取り組みをきっかけに地上でも市販化されたアイテムもあります。宇宙での生活環境をよくすることで、地球での快適な暮らしにも役立つのです。
参考資料
1)JAXA「Space Life Story Book」
2)JAXA「宇宙生活/地上生活に共通する課題を解決する生活用品アイデア募集」
宇宙飛行士も使った!?宇宙仕様の便利グッズ
ここからは、前述したJAXAの応募に採用された宇宙での悩みを解決するアイテムを4つご紹介。実際に宇宙で使われたものと、これから宇宙で使われる予定や市販化の可能性のある最新のものをピックアップ。編集部が実際に使ってみた感想とともにお届けします。
ボディーシートでお風呂上がりの爽快感を!
宇宙では筋力や骨密度の低下が進みやすく、予防のために毎日トレーニングを行います。汗をかいた後は、地上と同じようにお風呂でリフレッシュ!といきたいところですが、シャワーで汗を流すことができません…。そこで、お風呂上がりのような爽快感を実現するために開発されたのが、マンダムの「ギャツビースペースシャワーペーパー」です。
10枚入りで1,100 円なので単純計算すると、1枚110円と一般的なボディシートと比べると高額ですが、その理由は宇宙仕様のスペック。ISSでは引火の恐れや宇宙空間で必要な空気や水を供給し、生命を維持するために必要な装置に悪影響のあるアルコール成分を含むものが使えないため、スペースシャワーペーパーもエタノール不使用。エタノールは清涼感を与える役割もありますが、「Kai-tech技術」という独自技術を用いることでエタノール未使用でも清涼感を実現しています。
さらに、1枚で全身をしっかりと拭けるように液量が多めなのも特徴。頭皮用もあるので、キャンプや登山などのアウトドアシーンでも活躍しそうです。また、能登半島地震の際には、水が使えない環境で入浴の代替になることと、引火のリスクが少ないという理由から被災地に送られました。
SpaceMate編集部
手に取った瞬間、普段使っている汗拭きシートなどよりも、かなりしっとりとしていて、「液量が多い」というのがすぐわかりました。腕や首元を拭いてみても、爽快感も十分。宇宙でも地上と同じようなさっぱりした心地よさを得られるように作られているのだと実感しました。グレープフルーツとシャボンの香りも心地よく体も気分もリフレッシュできます!
ギャツビー スペースシャワーペーパー
販売店舗
マンダムオンラインショップ、全国の博物館・科学館(一部の施設、常設展・特別展・イベントいずれかのミュージアムショップ)など
磨いた後は飲みこんでOKの歯磨きジェル
宇宙でも歯磨き自体は可能ですが、問題はその後。ISSには洗面台がないので、口をゆすいでもその水を出せず、タオルに吐き出すなどして対応しているといいます。歯磨き後にどうやって口の中をスッキリさせるかが課題でした。そんな宇宙での歯磨きの悩みを改善してくれるのが、宇宙用のパーソナルケア用品を製造するトライフが生み出した「オーラルピース」という歯磨きジェルです。
この商品は元々、障がいや寝たきりの状態などで、うがいや吐き出しができない方向けに作られました。一般的な歯磨き粉と使い方は同じですが、一番の特徴は、磨いた後にそのまま飲み込むことができること。これが、水が使えない宇宙生活でも活用できるとして、2021年にISS搭載品に認定されました。
オーラルピースは、従来の歯磨き粉とは成分が大きく異なり、フッ素などの化学成分は不使用。自然由来の食品成分だけで作られているので飲み込んでも安心だそうです。
ISSで実際に使われるものと地上用ではパッケージや成分などが異なる製品も多くありますが、オーラルピースはISSと地上で使われるものはいずれも同一のものだそう。実際に緑のパッケージの商品が宇宙空間で使用されました。
SpaceMate編集部
歯磨き“ジェル”ということもあり、通常の歯磨き粉と比較すると泡立ちは少なめ。歯磨き粉を飲み込むってどんな感じだろう…と思っていましたが、口の中にスッと溶け込むので、不快感などは全くありませんでした!緑のパッケージのものはミントに加えウメの後味もありスッキリしました。歯ブラシがなくても飲み込むだけでOKなので、食後口をさっぱりさせたいときなどにも持ち運びたいなと思いました。
トライフ オーラルピース クリーン&モイスチュア
販売店舗
全国の歯科医院、病院売店、東急ハンズ、バラエティストア、オーガニックショップ、アウトドア専門店、アパレルショップ、動物病院、ペットサロンなど、オンライン販売もあり
宇宙での乾燥から肌を守る!洗い流し不要のクレンジングウォッシュ&ローションクリーム
「コスモロジー」は宇宙飛行士の肌の悩みを解決することを目的に、ポーラとANAの共同開発によって誕生したスキンケアブランド。宇宙での使用は2025年予定となっていますが、それに先駆けて2024年1月よりスペースクルーキットがすでに販売されています。
ISSでは、湿度が低いことと、微小重力下(無重力状態)で骨ホルモンの分泌量が低下することで、肌が乾燥するそうです。そんな宇宙飛行士の肌を守るため、骨ホルモンの一種「オステオカルシン」の減少を補う「ホホバクローブエキス」という独自成分を使用。この成分が、皮膚バリア機能や保湿効果に期待ができるといいます。
まずクレンジングウォッシュは、微小重力下でも飛散しない肌に馴染みやすいジェルを使用。肌への負担も少ない処方がされており、コットンやティッシュに出してやさしく拭き取るだけでOK。90%以上が水性成分で、水で洗い流さなくてもクレンジング後にさらに洗顔料で顔を洗ったかのような使用感を得られます。
その後に使用するローションクリームは、クレンジングウォッシュ同様に飛散しないようクリーム状になっていて、つるんとしたなめらかな肌を実感できます。
SpaceMate編集部
拭き取りタイプのクレンジングウォッシュは、肌への摩擦などが気になるところですが、ティッシュにつけて拭き取ってみても、擦れている感じがなく、メイク落とし後も肌がしっとりしていて驚きました。ローションクリームは、手に出したときはぷるんとしたクリーム状なのに、肌につけるとみずみずしいテクスチャーに変化し、すぐに肌に馴染みました。付属のクリップが、中身が減るとスマイルの顔になっていくので、かわいい見た目もうれしいポイントです。
コスモロジー
販売店舗
ポーラ ザ ビューティー、ポーラ ギンザ、ポーラ公式オンラインストア、日本国内空港免税店コーナー、ANA公式販売サイトA-Style(スペースクルーキットのみ)
スティックタイプで手軽に、宇宙でもいい香りを
ISSは空気の入れ替えなどが難しく、汗や食事の臭いが充満しやすい空間です。そのような環境で臭いを不快に感じるのは宇宙も地上も同じでしょうし、周りの宇宙飛行士に気をつかうシーンも多いでしょう。この悩みに対しライオンが開発したのが「relaXspace A(リラックスペースエー)」です。
スティックタイプで、首や手首などにサッと塗るだけで香りが広がり、簡単に臭い対策ができます。
その香りは全部で16種類。日本や地上を思い出せる香りは何か議論を重ね、「苔寺」や「桜」など日本人が懐かしさを感じるような独自の香りをブレンドしています。このように香りを楽しむ以外にも、嫌な臭いを低減する「ピュアソープ」など、目的別の香りを採用しています。
宇宙に行く際は、16種類の中から3つの香りをチョイス。それぞれ2025年以降に計画されている油井亀美也宇宙飛行士のISS長期滞在の際に使われる予定となっています。
市販はまだされていませんが、気持ちの切り替えや香りを楽しむ用途だけではなく、販売された際には、災害時の臭い対策などでも活躍しそうです。
SpaceMate編集部
油井宇宙飛行士が選んだ「苔寺」は、落ち着きを想起させる線香の香りで、深みのある高級香水を思わせる印象。ピュアソープは苔寺とは全く異なり、嫌な臭いをケアできそうな爽やかな香りでした。手の平サイズのコンパクトさもちょうどよく、地上でも日常使いができそうだと感じました!
宇宙用便利グッズは、アウトドアや防災でも活躍
今回ご紹介したアイテムは、水がなかったり空気の流れがなかったりする、「宇宙」という特殊な環境での使用を考慮して作られています。どれも地上でも使うことができるので、その高性能さから、登山やキャンプといったアウトドアとの親和性も高く、水が使えなくなる災害時の備えにも最適です。
すでに販売されているものは手に取ることもできるので、ぜひ宇宙での暮らしを体感しながら、防災グッズとして備蓄してみてはいかがでしょうか。
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