宇宙飛行士や探査機が撮影した写真では、宇宙の“色”といえば「黒」のイメージですよね。でもなぜ、地球と同じく太陽に照らされていながらも、空のような青色にならないのでしょうか。そんな疑問を解決するために、この記事では「宇宙の色」についてわかりやすく解説します。

●この記事の監修者

日本気象協会、東京理科大学
菅井 肇さん

理学博士(天文学:東京大学)。京都大学、東京大学で研究を行い、京都三次元分光器第2号機を開発、すばる望遠鏡用可視赤外多天体ファイバ分光器PFSの初代プロジェクトマネージャーを務める。原始重力波検出のためのLiteBIRD衛星計画にも従事。研究・開発の傍ら、宇宙物理学を専門にさまざまな出版物やメディアの監修も行う。

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宇宙はなぜ黒く見える?

太陽などの強い光に照らされていながら、なぜ宇宙空間は黒く見え、明るくならないのでしょうか。まずは宇宙が黒く見える理由について説明していきます。

そもそも「色が見えるしくみ」とは

赤、青、緑……。世の中にはさまざまな色が存在していますが、大前提として、真っ暗で光のない世界では、すべてが黒く見えますよね。つまり、私たちが「色を見る」には、光(光源)が欠かせないのです。

太陽や蛍光灯、LEDなどは私たちの身近にある光源です。光源から発せられた光は一見無色(白色)に見えますが、じつはさまざまな波長の光が含まれています。波長は色ごとに異なります。

画像: そもそも「色が見えるしくみ」とは

この光は、物体に当たると一部の波長は吸収され、残りの波長が反射します。反射した波長の光は私たちの目の中の錐体細胞という場所に届き、そこから送られた信号をもとに脳が色を認識します。

たとえば、リンゴは赤色の波長の光をよく反射し、そのほかの色は吸収するため、赤く見えているのです。物体によって反射する光の波長の性質は変わるため、さまざまな色が見えます。

また、反射のほかにもう一つ、光の「散乱」によっても色が見える場合があります。たとえば、空が青く見えたり、雲が白く見えたりするのも散乱による現象で、光が小さな粒子(空気中の分子や水滴など)にぶつかった際、単純に反射するのではなく、さまざまな方向に飛び散ることで起きています。

なお、色の見え方は動物によって異なります。人間は赤・青・緑の3種類を識別できる錐体細胞を持っていますが、犬は2種類の錐体細胞しか持っていません。そのため、色が見えづらいと言われています。

宇宙が黒く見えるのは「光を反射・散乱するものがないから」

では、太陽光が届いているはずの宇宙空間はなぜ漆黒なのでしょうか。その理由は、宇宙空間が「真空」であることと関わっています。

前述のように地球の空では、空気中の分子が光を散乱しており、それによって空が青やオレンジに見えます。一方、宇宙空間は真空であり、分子や原子がほとんどありません。そのため、光を反射・散乱するものがなく、結果として宇宙は黒く見えるのです。

画像: 宇宙が黒く見えるのは「光を反射・散乱するものがないから」

なお、地上でも夜になると空が真っ暗になりますが、これは宇宙空間が黒い理由とは異なります。地上の夜は「光を反射・散乱する対象物がない」のではなく、そもそも太陽光自体が届かなくなるため、真っ暗になってしまうのです。

宇宙の星や銀河の色はどうやって決まる?

画像: 画像:iStock.com/Eerik

画像:iStock.com/Eerik

ここまで説明したのは「宇宙空間」における色についてですが、一方で、それぞれの星や銀河そのものには色があるように見えますよね。これらがなぜ「色」を持っているように見えるのか、その理由を説明していきます。

なお、以下で説明する内容では、大前提として肉眼で見える色と、天体写真で見える色が異なる場合があることに注意が必要です。天体写真では、肉眼では見えない色を強調したり、波長ごとに色を割り当てたりすることが多く、より鮮やかで明るい画像となっています。

星自体が光を放っている(恒星)

画像: 画像:iStock.com/Franco Tognarini

画像:iStock.com/Franco Tognarini

夜空に輝く星のほとんどが、自ら光を発している恒星です。代表的なものとして、太陽やオリオン座のベテルギウスがあります。恒星は核融合反応(※)によって光や熱を生み出しており、その色は表面温度により異なります。高温の恒星ほど青白く、低温の恒星ほど赤く見えます

※:小さい原子(例えば水素)が合体して、大きなエネルギーを作る現象。

恒星の光を反射・散乱している(惑星・衛星・人工衛星など)

画像: 画像:iStock.com/Sjo

画像:iStock.com/Sjo

宇宙には恒星のほかにもさまざまな星や物体が存在します。例えば惑星や衛星、小惑星、人工衛星などです。これらは、基本的にみずからか可視光を発することはなく、恒星から届く光を反射・散乱することで色があるように見えています

見える色については、前述のリンゴや空とおなじく、光があたる物質(星の表面や大気)により異なります。例えば、金星は黄色に輝いて見えますが、これは金星を覆う濃硫酸の雲が太陽光をよく反射・散乱することが原因です。このように、恒星からの光を強く反射していると、その星が光っているように見えることがあります。

【コラム】彗星が光って見えるのはなぜ?

画像: 画像:iStock.com/solarseven

画像:iStock.com/solarseven

宇宙で光を放っているものとして「彗星」をイメージする方もいるでしょう。

彗星は、主に氷や塵でできており、そのもの自体が発光することはありません。しかし、太陽などの恒星に近づく際、表面が温められてガスが発生し、そのガスが紫外線などに反応して、ネオンサインのように輝くことがあるのです。また、恒星に近づくことで恒星の光を反射・散乱します。

このように、彗星が光って見えるのは、発光・反射・散乱の3つの要素が組み合わさった現象によるものです。

銀河や星雲は星やガスなどの集まり

宇宙をイメージした時に、よりカラフルな想像をするのが銀河や星雲ではないでしょうか。銀河は無数の恒星とガスや塵などが集まってできた天体です。また、星雲はガスや塵が集まってできた雲のように見える天体です。

画像: アンドロメダ銀河 画像提供:NASA, NSF, NOAJ, Hubble, Subaru, Mayall, DSS, Spitzer; Processing & Copyright: Robert Gendler & Russell Croman

アンドロメダ銀河
画像提供:NASA, NSF, NOAJ, Hubble, Subaru, Mayall, DSS, Spitzer; Processing & Copyright: Robert Gendler & Russell Croman

銀河は多くの恒星が集まっているため、それぞれの恒星の発する光の色が混ざり合って見えます。さらに、銀河内の星雲の塵が恒星の光を反射・散乱したり、一部のガスが恒星からの紫外線に反応して酸素や水素などを発光させたりすることで、多彩な色合いが生まれます。

オリオン大星雲
画像提供:県立ぐんま天文台

星雲の場合でも銀河と同じく、塵が恒星からの光を反射・散乱するほか、ガスが紫外線に反応して特定の元素が発光することで光って色が見えています。

【コラム】宇宙の色はベージュ?

画像1: 宇宙の色は何色?黒く見える理由とは

2002年の論文をもとにアメリカの大学の天文学者チームが発表した内容によると、地球から観測できる銀河の色を平均すると「ベージュ」になるそう。

20万個以上の銀河を観測したデータから導きだしており、このベージュ色は「コズミック・ラテ」と名付けられました。もし宇宙全体の光を一つにまとめて目で見たら(※)、ベージュになるなんて驚きですね。

※:とても遠い過去の銀河を含まず現代の銀河を、宇宙膨張を止めて見た場合。

色に注目しながら、空を眺めてみよう

宇宙空間自体は黒が広がっていますが、一方で宇宙に存在するさまざまな星は、それぞれの色を放っています。そして、それらの星の色は常に変化し続けていきます。もしかすると、今日の空には、昨日と違う色の星があるかもしれません。そんなことを思いながら、宇宙を観測してみてはいかがでしょうか。

※この記事の内容は2025年3月7日時点の情報をもとに制作しています

この記事の監修者

菅井 肇

理学博士(天文学:東京大学)。京都大学、東京大学で研究を行い、京都三次元分光器第2号機を開発、すばる望遠鏡用可視赤外多天体ファイバ分光器PFSの初代プロジェクトマネージャーを務める。原始重力波検出のためのLiteBIRD衛星計画にも従事。研究・開発の傍ら、宇宙物理学を専門にさまざまな出版物やメディアの監修も行う。

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