「実業家の〇〇さんが宇宙へ!」というニュースを聞いても、自分には縁のない話だと思っていた宇宙旅行。しかし、技術の進化で、夏休みに宇宙旅行に行く日もそう遠くないらしい!? そこで「宇宙お悩み相談室」の連載第1回目では、いざ宇宙旅行へ行くときのために、準備や期間、費用について、4つの悩みを宇宙ライターの林公代さんに聞いてきました!

●話を聞いた人

画像1: 夏休みに宇宙へ行く…なんて可能!? 宇宙旅行の最短プランは?

宇宙ライター
林 公代さん

サンケイリビング新聞社、日本宇宙少年団情報誌編集長を経て、2000年からフリーライターに。20年以上にわたって、宇宙飛行士、宇宙関係者へのインタビューなど宇宙関連施設、関係者への取材を続けている。著書に「さばの缶づめ、宇宙へ行く」(小坂康之さんとの共著) 、「るるぶ宇宙」(監修)など多数。

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※この記事はSpaceMate編集部が執筆しています

【悩み①】宇宙旅行って長期のイメージだけど、夏休みの1週間でも行けるの?

画像: 【悩み①】宇宙旅行って長期のイメージだけど、夏休みの1週間でも行けるの?

SpaceMate編集部「宇宙旅行が身近になってきている…。とはいえ、たとえば1週間ほどしか夏休みがなくても宇宙旅行へ行くことはできるんでしょうか? そもそも宇宙旅行へ行くにはどのくらいの日数が必要なんですか?」

林さん「じつは宇宙旅行と一口にいっても、大きく分けて3つのプランがあるんです。国際宇宙ステーション(ISS)に滞在するプラン、ISSには行かずに地球を周遊するプラン、それから数分間だけ宇宙を体験できるプランです。プランによって日数は異なるものの、夏休み中に宇宙旅行へというのも夢ではないかもしれません。それぞれのプランを解説しますね」

(1)ISS滞在プラン―オービタル旅行―【1週間~数カ月】

画像: (1)ISS滞在プラン―オービタル旅行―【1週間~数カ月】

林さん「ひとつめのプランは出発から滞在含めて約1週間~数カ月間かかるオービタル(※1)旅行です。宇宙船でISSとドッキングしてからISS内に移動し、滞在します。宇宙食を食べたり、地球を眺めたり、無重力を体験したりと、ひと通りの生活ができるのが魅力です」

SpaceMate編集部「夏休みにたっぷり思い出を作るには最適なプランですね!」

林さん「現在のISSは2030年に運用終了予定なので、そのあとは宇宙ホテルや商業宇宙ステーションなど、商業用の宇宙施設の開発が進み、滞在型のプランが増えていくといわれています」

飛行時間約6時間~2日間1)
滞在期間約1週間~数カ月
費用の目安数十億円~
※上記はあくまで目安の期間、金額。出発地(アメリカなど)までの移動時間/費用は除く

※1:「オービタル」とは地球周回軌道をさす言葉

<林さんのここに注目!>

画像1: 林さん

林さん

ISS内では地上と同様の服装で暮らせるほか、個室もあってパソコンも使用できるので、宇宙での暮らしを満喫できます! ISSには300種類ほどの宇宙食のバリエーションがあるので、食の楽しみも。また、地球を周回するため、日の出や夜景など、さまざまな地球の姿を観察できるのも魅力です

【関連記事】宇宙ホテルはいつ実現するの?構想中の企業や施設概要を紹介

2)地球を周回するプラン―オービタル旅行―【約3日間~】

画像: 2)地球を周回するプラン―オービタル旅行―【約3日間~】

林さん「ISSより上空を宇宙船で周回するプランもあります。周回する高さや滞在期間などは完全カスタマイズ可能ですが、宇宙船の中は狭いうえ、積み込める酸素や水、食料の量が制限されるので、滞在日数は限りがあります。過去の事例では、スペースXが2021年に地球上空約600kmを3日間周回する『インスピレーション4』というツアーを実施しています2)

滞在期間(飛行時間含む)3日間
費用の目安数十億円~
※「インスピレーション4」の場合。出発地(アメリカなど)までの移動時間/費用は除く

<林さんのここに注目!>

画像2: 林さん

林さん

行き先も内容もカスタマイズできるので、『地球の姿を眺めたい』など、目的がはっきりしている人向けのプランです。費用が数十億円~と高額ですが、宇宙をより自由に楽しみたいという人には価値のあるプランだと思います

(3)宇宙の入り口まで行く日帰りプラン―サブオービタル旅行―【10分~1時間半】

画像: (3)宇宙の入り口まで行く日帰りプラン―サブオービタル旅行―【10分~1時間半】

林さん「高度100kmあたりの『宇宙の入り口』まで行くプランです。滞在時間は10分~1時間半程度なので、アトラクションとして楽しむにはいいプランですね。現在はヴァージン・ギャラクティックとブルー・オリジンの2社がこのサービスを実施しています。前者のフライト時間は1時間~1時間半で、後者は打上げから着陸まで約10分程度です」

<ヴァージン・ギャラクティックの場合>

滞在期間(飛行時間含む)1時間~1時間半
費用の目安45万ドル(2024年5月16日時点のレートで6,950万4,075円)
/1人
※出発地(アメリカなど)までの移動時間/費用は除く

<ブルー・オリジンの場合>

滞在期間(飛行時間含む)10分程度
費用の目安非公表
※出発地(アメリカなど)までの移動時間/費用は除く

<林さんのここに注目!>

画像3: 林さん

林さん

このプランのポイントは、短い時間で無重力体験ができること。高度80~100km付近でエンジンを切る(またはカプセルを分離する)と、宇宙船の中は無重力空間です。その間、身につけたハーネスやシートベルトを外し、4分ほど無重力体験をしながら、窓の外に広がる漆黒の宇宙を体感できます

SpaceMate編集部「どうせ夏休みに行くなら、数日滞在できるプランがいいなあ、とは思うものの、アトラクション感覚でサクッといけるサブオービタル旅行も気になります…!」

なお、ヴァージン・ギャラクティックとブルー・オリジンのサブオービタル旅行の詳しい内容は、以下の記事で紹介しています。

【関連記事】宇宙旅行ってどんなもの?実現している旅の種類、費用の目安を解説

【悩み②】宇宙旅行へ行ってみたい…でも費用が高すぎる!

SpaceMate編集部「宇宙旅行といえば、ロケットで打上げられてISSに行くというイメージでしたが、こんなに種類があるんですね! でも、数千万〜数十億円となると、到底私たちには手の届かないお値段です……」

林さん「確かに今はまだ、ごく限られた富裕層が行っているイメージですよね。でも、みなさんが思う以上に民間の宇宙開発は進んでいるので、数十万〜数百万円など、今より手頃な費用で宇宙に行ける日もそう遠くないかもしれません」

SpaceMate編集部「希望がわいてきました! でも、それはきっと何年も先の話ですよね。今でもできる、宇宙旅行ってないでしょうか?」

林さん「じつは宇宙空間といわれる高度80〜100kmまで行かずとも、宇宙を疑似体験ができるプランがいくつかあるので、ご紹介しましょう!」

(1)ジェット機で無重力を体験できるプラン【160万円~】

画像: (1)ジェット機で無重力を体験できるプラン【160万円~】

林さん「やはり無重力体験は、宇宙旅行の醍醐味です。ジェット機が約8,500mの上空で上昇・降下を繰り返すことで、20秒ほどの無重力状態を何回か体験できるプランがあります。滞在期間は飛行時間も含めて1時間半から2時間ほどです

これは私も体験したのですが、体験前は『たかだか20秒』と高をくくっていたのに、実際は1秒で人生観が変わるくらいの体験でした! 内臓ごと体が浮かび上がり、あらゆる束縛から解放される新鮮な感覚でした」

滞在期間(飛行時間含む)1時間半~2時間ほど
無重力体験は、数秒~数十秒を複数回
費用の目安160万円~
※上記はあくまで目安の期間、金額。出発地(アメリカなど)までの移動時間/費用は除く

(2)高度約30kmでできる宇宙体験プラン【700万~3,000万円】

画像: (2)高度約30kmでできる宇宙体験プラン【700万~3,000万円】

林さん「気球に乗って、高度30kmのあたりまで行くプランです。滞在時間は飛行時間を含めて4~6時間ほど。人が『宇宙に行った』と感じるのは、上空から地球を眺めたり、漆黒の宇宙と青い地球との対比に感動したりしたとき。この“疑似”体験でも、十分に宇宙らしさを堪能できます

滞在期間(飛行時間含む)4~6時間ほど
費用の目安700万~3,000万円
※上記はあくまで目安の期間、金額。出発地(アメリカなど)までの移動時間/費用は除く

SpaceMate編集部「こんな宇宙体験があるなんて知りませんでした! ジェット機の無重力体験は、頑張れば手が届きそうな価格なので、ぜひ体験してみたいです!」

【関連記事】気球で宇宙旅行の時代!?開発企業や費用、フライト予定を紹介

【悩み③】宇宙旅行の訓練は絶対必要?運動不足だし、ついていけるか不安…

画像: 【悩み③】宇宙旅行の訓練は絶対必要?運動不足だし、ついていけるか不安…

SpaceMate編集部「宇宙へ行くには厳しい訓練が必要…というイメージです。民間人でも訓練は必要なんですか?」

林さん「前澤さんのようにロシアの宇宙船ソユーズで行くなら、宇宙船の不時着時やISS滞在時のトラブルを想定した、数カ月~約半年間にわたる訓練が必要になります。というのも、ロシアは民間人であっても宇宙機関の宇宙飛行士と基本的に同じ訓練をさせるので、前澤さんも相当時間をかけて訓練を積んだはずですよ」

SpaceMate編集部「その訓練は、どんな内容なんですか?」

林さん「目的にもよりますが、たとえば、ロシアの訓練では雪山に不時着した場合を想定し、雪山で数日間を過ごすサバイバル訓練を受けることもあるそうです。

ロシアに限らず、どの宇宙船でISSを訪問するにしても、宇宙旅行者が必ず受けるのはISSで起こるトラブルに対応するための訓練ですね。

ISSの3大緊急事態は『火災』『急減圧(宇宙ゴミの衝突などによる)』『空気汚染』です。もしそれらが発生した場合に、どうやって避難やISSからの離脱を行うか、シミュレーションして訓練します。またISSで触れてはいけない機器もあり、かなり細かくレクチャーを受けていると思いますよ」

SpaceMate編集部「大変そうですね…。ちなみに、ISSに行かない場合も同様ですか?」

林さん「地球を周回するプラン『インスピレーション4』の参加者も、数カ月にわたって同様の訓練を受けたと聞いています。

ただ、サブオービタル旅行や“疑似”宇宙旅行の場合は、特別な訓練はないと考えてよいでしょう。旅行会社にもよりますが、私が経験したときは簡単なメディカルチェックがあるくらいでした。とはいえ、打上げのときに体に負荷がかかるので、人によっては事前にテストする場合もあるようです」

SpaceMate編集部「それを聞いて安心しました! “擬似”宇宙旅行なら、意外と誰でもチャレンジできそうです」

【悩み④】宇宙へ行くなら月にも行ってみたいけど、実現しそう?

画像: 【悩み④】宇宙へ行くなら月にも行ってみたいけど、実現しそう?

SpaceMate編集部「今現在だと、宇宙旅行の滞在先として行けるのはISSのみということですが、憧れるのは月や火星など、太陽系の別の天体に行くことです! 惑星旅行ができる日はくるのでしょうか?」

林さん「もちろんです! 直近だと、前澤さんが民間人初の月周回旅行を予定しています。宇宙船で月をぐるりと周回する旅は、月着陸に比べると技術的に難しくないといわれているので、期待も高いです。

この旅の見どころは、日の出ならぬ『地球出』。月を周回するときに、地球が月の水平線から昇ってくるのが見られるんです。これは、月の周りを周回するからこそ見られる景色です」

画像: 月の周回中に見る「地球出」のイメージ。なお、満地球、半地球、三日地球のように位置関係によって地球は満ち欠けします。

月の周回中に見る「地球出」のイメージ。なお、満地球、半地球、三日地球のように位置関係によって地球は満ち欠けします。

SpaceMate編集部「月から地球の満ち欠けが見られるなんてステキですね! でも38万kmもあると、旅行期間が心配です」

林さん「月までは片道3日といわれています。トータル1週間程度の旅になるでしょう」

SpaceMate編集部「オーストラリア旅行と同じくらいですね」

林さん「そう! わりと近いんです。ただ、他の惑星だと、もう少し技術の進歩が必要です。たとえば、宇宙工学者の川口淳一郎教授の試算によると、土星で往復30年以上かかるそうです3)。これは、人生の多くの時間を宇宙船で過ごすことになってしまう計算です。しかも宇宙船に何十年分もの食料や水など、生命維持に必要な物資を搭載することは難しいので、『人工冬眠の技術』が必要になってきます」

SpaceMate編集部「いよいよ映画の世界みたいになってきました!」

林さん「まさに映画『インターステラー』(※)の世界ですよね。人工冬眠の技術が進み、さらに低燃費の宇宙船が完成すれば、土星まで行くことは不可能ではないと考えられます」

※:2014年公開、クリストファー・ノーラン監督の宇宙を舞台にしたSF映画。作品内で惑星間を移動するのに、人間を冬眠させ寿命を延ばす生命維持装置が登場する

SpaceMate編集部「土星はさすがに遠いので、せめてお隣の火星ではいかがでしょうか?」

林さん「火星も月と同じです。じつは現在、『スペースX』のイーロン・マスクが、火星に行くための宇宙船スターシップを開発しています。すでに何度か実験していて、先日の飛行実験では帰還のときに燃え尽きてしまいましたが、かなり成功に近づいているといえるでしょう。これが実現したら、人類が火星に行く可能性がぐんと上がりますね」

SpaceMate編集部「スターシップが成功したら、人類が火星に住む未来の最初の一歩になるんですね。そう思うと急にワクワクしてきました。スペースXの活動を見守りたいと思います!」

※この記事の内容は2024年5月16日時点の情報を元に制作しています

画像2: 夏休みに宇宙へ行く…なんて可能!? 宇宙旅行の最短プランは?

この記事の監修者

林 公代

サンケイリビング新聞社、日本宇宙少年団情報誌編集長を経て、2000年からフリーライターに。20年以上にわたって、宇宙飛行士、宇宙関係者へのインタビューなど宇宙関連施設、関係者への取材を続けている。

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