民間人による宇宙旅行が現実になった今、比較的気軽に宇宙旅行体験ができる手段として、注目を集めているのが「気球」です。気球を利用した宇宙旅行体験とは、どのようなものなのでしょうか。ロケットなどと比較した場合のメリットや、気球を使った宇宙旅行に携わる企業などについてご紹介します。

※アイキャッチ画像提供:World View Enterprises/ASTRAX

気球で宇宙旅行に行けるってホント!?

飛行機の発明以前から、人間が空を飛ぶ手段として利用されてきた気球。その歴史は古く、18世紀末には、熱した空気を用いた「熱気球」による、世界初の有人飛行が記録されています。現在では、熱気球による遊覧飛行サービスが一般的なものになっているので、体験された方もいるかもしれません。

そんな気球で宇宙旅行体験ができるとは、どういうことなのでしょうか。

「気球で行く宇宙旅行」とは?

宇宙へ向かう手段といえば、ロケットを連想される方も多いことでしょう。確かに、国際航空連盟が定義する高度100km以上の「宇宙空間」へ行くためには、今のところロケットを利用するしかありません。

画像: 「気球で行く宇宙旅行」とは?

しかし、上空から地球の姿を眺めるなど、宇宙旅行に“近い”体験をしたいなら、成層圏(高度10~50km)に行くだけでも十分といえます。そこで注目されているのが、成層圏の高度に行く能力を備えた「高高度気球」と呼ばれる特殊な気球です。

バーナーなどで温めた空気をバルーン(球皮)に送り込んで浮上する一般的な熱気球に対し、高高度気球は空気よりも遥かに軽い水素やヘリウムを使うことで、成層圏まで浮上することが可能になっています。

画像: 画像:iStock.com/Jinli Guo

画像:iStock.com/Jinli Guo

これまで高高度気球は、おもに気象観測や高高度撮影の分野で利用されてきました。2000年代後半からは、個人で自作した高高度気球にデジタルカメラなどの撮影機材を搭載し、成層圏または成層圏に近い高度から地球の様子を撮影する「アースウォッチング」も行われるようになりましたが、それらはすべて無人での運用が基本となります。

画像: 画像:iStock.com/AleksandarGeorgiev

画像:iStock.com/AleksandarGeorgiev

そんな高高度気球を、有人の宇宙旅行体験に利用する試みが本格化したのはつい最近、2023年頃からのことです。

現在日本をはじめ、世界各国で進められています。

気球で行く宇宙旅行体験のメリットは?

画像: 気球で行く宇宙旅行体験のメリットは?

現在、商用サービスが始まっている宇宙旅行は、地球を周回する軌道に入り宇宙空間に滞在する「オービタル旅行」と、高度80km以上の宇宙空間(米国空軍の定義)に数分間到達した後に地上へ戻る「サブオービタル旅行」の2種類があります。

一方、高高度気球で到達できるのは成層圏までですから、厳密にいうと「宇宙旅行」とは異なります。そのため、高高度気球を使う場合は「“疑似”宇宙旅行」や「宇宙旅行“体験”」といった表現を使うのが一般的です。

しかし、高高度気球を使った“擬似”宇宙旅行には、オービタル旅行やサブオービタル旅行にはないメリットがあります。ここで、高高度気球を使った宇宙旅行体験の特徴を整理しておきましょう。

メリット① 長時間の遊覧体験ができる

高高度気球を使った宇宙旅行体験でいちばんのメリットといえるのが、遊覧時間の長さです。たとえばサブオービタル旅行の場合、宇宙空間に到達できるとはいえ、その滞在時間はわずか数分程度にすぎません。それに対し、高高度気球を使った“擬似”宇宙旅行は、成層圏に数時間程度滞在することが可能とされており、宇宙空間に近い場所からの絶景を長い間満喫することができます。

メリット② 比較的安全性が高い

ロケットを利用するオービタル旅行やサブオービタル旅行に比べ、乗客の安全性が高い点も高高度気球を使った宇宙旅行体験のメリットといえます。基本的には熱気球と同じしくみですから、緊急時でも緩やかに降下できるなど、ロケットに比べて墜落のリスクが低いほか、パラシュートを利用した脱出の有効性も高いと考えられます。また、地上からの上昇速度も緩やかなので、人体にかかる負荷もロケットに比べればかなり低いといえるでしょう。

メリット③ 特別な訓練や条件を必要としない

オービタル旅行の場合、宇宙飛行士が受けるのと同様のハードな訓練が必要になります。サブオービタル旅行の場合でも、数日間程度の訓練が必要になるほか、健康状態が良好であることなど、参加に際しクリアすべき条件が複数あります。

それに対し、高高度気球を使った宇宙旅行体験は、特別な訓練を必要としないほか、年齢や体重の制限をとくに設けていない場合がほとんどです。誰でも気軽に宇宙旅行体験ができるという点は、とくに魅力的といえるでしょう。

メリット④ 他の手段に比べ安価に宇宙旅行体験ができる

宇宙旅行にかかる費用は、オービタル旅行では数十億円程度、サブオービタル旅行でも数千万円以上が相場とされています。対して、現在提供されている高高度気球を使った宇宙旅行体験のサービスにかかる費用は、最低数百万円程度です。それでも高価ではありますが、他の旅行手段と比べれば安価といえます。近い将来、高高度気球を使った宇宙旅行体験が普及すれば、100万円台で成層圏滞在ができる可能性も高いでしょう。

気球で行く宇宙旅行体験ビジネスを行う企業一覧

画像: 画像:iStock.com/Eoneren

画像:iStock.com/Eoneren

ここで、高高度気球を使った“擬似”宇宙旅行の体験サービスを提供している主な企業と、サービスの概要をご紹介しましょう。

Space Perspective

画像1: ©Space Perspective

©Space Perspective

Space Perspectiveは、気球型宇宙船〈ネプチューン〉の開発および、ネプチューンを利用した“擬似”宇宙旅行の体験サービスを提供するフロリダの宇宙開発企業です。

8名の乗客と1名のパイロットが搭乗できる直径16フィート(4.9m)の球形カプセルで、2時間かけて高度約30kmの成層圏に到達し、2時間の遊覧体験を経て、2時間かけて地上に戻る約6時間のフライトが体験できるサービスを提供しています。

画像2: ©Space Perspective

©Space Perspective

HISグループの旅行会社クオリタが日本国内窓口となっており、日本からでも体験の申し込みが可能となっています。すでに2024年、2025年分の申し込みは完了しており、参加したい場合は、2026年分からの申し込みとなります。なお2026年分の料金は、旅行代金と申込金をあわせて12万5,000ドル(約2,000万円)です1)

【関連ツアー】気球型宇宙船でいく“宇宙の入り口”への旅行

【関連記事】シャンパンで乾杯も!気球で行く“宇宙体験ツアー”の魅力【HIS・クオリタ】

スペース・バルーン

画像1: 提供:スペース・バルーン

提供:スペース・バルーン

スペース・バルーンは、茨城県水戸市に本社を置く宇宙開発企業です。同社が開発する高高度気球システムを使った成層圏(高度30km)の宇宙遊覧サービスの実施を予定しているほか、高高度気球による運輸システムの実用化を目指しています。また、茨城県大洗町に、宇宙港開港の構想も発表しています2)

画像2: 提供:スペース・バルーン

提供:スペース・バルーン

World View Enterprises

画像1: 提供:World View Enterprises/ASTRAX

提供:World View Enterprises/ASTRAX

World View Enterprisesは、気球型宇宙船〈エクスプローラー〉の開発および、エクスプローラーを利用した“擬似”宇宙旅行の体験サービスを提供するアリゾナ州にある宇宙船開発企業です。

エクスプローラーの定員はパイロットを含めた10名となっており、8名までの乗客を乗せることが可能。数時間の成層圏滞在を含む5~8時間のフライトとなります。

画像2: 提供:World View Enterprises/ASTRAX

提供:World View Enterprises/ASTRAX

日本からの申し込みは、ASTRAX(アストラックス)が窓口となっており、専用のフライトプランでは日本人民間宇宙飛行士や宇宙フライトアテンダントが同乗してくれるサービスも提供されます。現在募集されている日本人フライトの代金は、20万ドル(約3,100万円)〜。なお、ASTRAXでは通常のフライトのほか「宇宙ブラウダルフライト」や「宇宙生前葬フライト」の実施も予定しています3)

2024年には、初の気球による“擬似”宇宙旅行が実現予定!

ここまでにご紹介したように、高高度気球を使った“擬似”宇宙旅行の体験サービスは、早ければ2024年に実施される予定です。オービタル旅行やサブオービタル旅行のように宇宙空間に行くことはできませんが、安全性や費用対効果を考えれば、今後ますます活発になる「宇宙旅行」の主流となる可能性は高いといえるでしょう。高高度気球をはじめとして、100万円程度の旅行代金を目指す宇宙旅行サービスもあるため、近い将来には、海外旅行に行くような感覚で宇宙を楽しむことができるかもしれません。

This article is a sponsored article by
''.