本格的な宇宙旅行時代の到来が近づくにつれ、気になるのが宇宙空間における“宿泊先”でしょう。そこで注目したいのが現在、世界各国で開発が進められている「宇宙ホテル」です。いったい、どんな施設なのでしょうか? この記事では宇宙ホテルの概要や開発状況について、図版を交えながらご紹介します。

宇宙ホテルってなに? 一般の人も泊まれるの?

画像1: 画像:iStock.com/1971yes

画像:iStock.com/1971yes

テレビやネット動画などで、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する宇宙飛行士の様子を見たことがある人も多いと思います。現在、宇宙へ行った人の滞在場所はISSが主流ですが、近い将来「宇宙ホテル」という選択肢が誕生するかもしれません。そんな宇宙ホテルですが、ISSと何が違うのでしょうか? まずは概要についてご紹介しましょう。

一般の宇宙旅行客も滞在可能な宇宙ホテル

旅客や観光客向けの宿泊施設を意味する「ホテル」という言葉に象徴されるとおり、「宇宙ホテル」とは、一般の宇宙旅行客も滞在可能な宿泊施設です。

宇宙ホテルは、ISSのような宇宙ステーションと同様、地上から200km~1,000km上空の「低軌道」に建設されます1)。しかし宇宙ステーションと大きく異なるのが、宇宙飛行士のように特別な訓練を必要とせずに滞在できるようなしくみを採用していること。たとえば、現在計画されている宇宙ホテルの多くは、施設(モジュール)を一定速度で回転させるなどの方法で人工重力を作り出し、地球に近い感覚で活動できるような工夫を取り入れています。

画像: 宇宙ホテルは低軌道に建設が予定されています。

宇宙ホテルは低軌道に建設が予定されています。

そのため「客室」にあたるモジュールでは、地球のホテルのようにベッドで眠ったり歩き回ったりすることができるほか、屋外の景色を眺める感覚で宇宙や地球の様子を見て楽しむことが可能になります。もちろん、無重力状態を体験するためのモジュールも検討されているので、宇宙空間ならではのアクティビティも楽しめるでしょう。

なぜ宇宙ホテルが必要なの?

世界各国で宇宙ホテルの建設計画が進められているのは、近い将来に宇宙旅行の一般化が予測されているからです。特別な訓練を必要とせず滞在できる宇宙ホテルが増えれば、宇宙旅行のコストが削減され、ゆくゆくは海外旅行のように手軽な感覚で、宇宙旅行を楽しむことができるでしょう。

また、宇宙ホテルは観光施設としての活用だけでなく、モジュールを追加することにより、民間の宇宙企業が研究開発を行う拠点としての活用も可能になります。つまり宇宙ホテルが増えることによって宇宙旅行のハードルが下がるだけでなく、通信事業や資源採掘、運輸など、宇宙ビジネスの活性化も期待できるわけです。

【関連記事】宇宙旅行ってどんなもの?実現している旅の種類、費用の目安を解説

宇宙ホテルへ行く移動手段は?

画像: 宇宙ホテルへ行く移動手段のイメージ図。

宇宙ホテルへ行く移動手段のイメージ図。

宇宙ホテルに行くための移動手段は、基本的にISSの場合と同様です。現在想定されている主な移動手段は、以下の3つになります。

①ロケット

すでに実現されている宇宙旅行の移動手段としては、ロケットがあります。民間のロケットも増えていますが、現在のところ定員が限られているほか、乗船するために特別な訓練が必要となるため、宇宙ホテルへの移動手段としては、ややハードルが高いといえるかもしれません。

②スペースプレーン(有翼式再使用型ロケット)

特別な訓練が必要となるロケットに替わり、比較的現実的な移動手段が、スペースプレーン(有翼式再使用型ロケット)です。スペースプレーンとは、航空機と同じように自力で滑走し、離着陸および大気圏離脱・突入できる宇宙船のことをいいます。現状のロケットに比べればハードな訓練を必要としないほか、一度に乗れる人数も多いため、実用化が進めば料金を含め宇宙旅行のハードルも下がることでしょう。

③宇宙エレベーター

宇宙エレベーターとは、名前のとおり地上と宇宙ホテルとを、特殊なケーブルでつなぐ一種のエレベーターです。ロケットのような墜落のリスクが低く、繰り返し使えるほか、通常のエレベーターと同様に、特別な訓練を必要とせず誰でも利用できるなど、さまざまなメリットが期待されています。実現すればもっとも手軽な宇宙ホテルへの移動手段になるでしょう。

【関連記事】宇宙エレベーターとは?しくみや建設方法をわかりやすく解説】

宇宙ホテルはいつ実現する?

画像2: 画像:iStock.com/1971yes

画像:iStock.com/1971yes

予定を含めると、宇宙ホテルの「開業」は意外と間近に迫っています。たとえば、アメリカのスペース・デベロップメント・コーポレーション(旧:オービタル・アッセンブリー・コーポレーション)は、2025年から2027年までの間に、宇宙旅行客が宿泊できる2つの宇宙ホテルの開業を目指しています。

比較的小規模な宇宙ホテル「パイオニア・ステーション」

ひとつめが、2025年の開業を目指している「パイオニア・ステーション(Pioneer Station)」です2)3)最大28人を収容できる5つのモジュールで構成されており、全体の大きさとしては最大約400立方m(14,000立方フィート)で、ISSの2倍ほど。客室モジュールには、地球のホテルと同様のベッドやデスクなどを用意すると発表されています。また、リング状に設置されたモジュールが回転することで人工重力を作り出し、最大で地球の半分程度の重力を得られるといいます。なおパイオニア・ステーションは、ISSが2030年に退役することを視野に入れ、宇宙ホテルとしての活用だけでなく、政府関係者や民間の科学者が利用する研究施設としての利用も可能になっています。

最大300人の収容が可能な巨大宇宙ホテル「ボイジャー・ステーション」

スペース・デベロップメント・コーポレーションのメインプロジェクトとなるのが、パイオニア・ステーションの設計をさらに進化させた「ボイジャー・ステーション」です。2027年の開業を目指す、最大300人の収容が可能な宇宙ホテルです3)。直径約200mの巨大なリング状の構造物に24のモジュールを装着し、リングを観覧車のように回転させることで、月面に近い人工重力(地球の6分の1にあたる最大0.57G)をつくり出す計画です4)

パイオニア・ステーションよりも巨大なボイジャー・ステーションは、客室以外のモジュールも充実。レストランやバー、展望ラウンジのほか、ジムやイベントスペースなど、リゾートホテル並みの施設が提供される予定になっています5)。地球上と同様に使えるトイレやシャワーなども完備するということですから、かなり本格的な宇宙ホテルといえるでしょう。

宇宙ホテルの建設構想を掲げる日本の企業

画像: 清水建設が構想する「宇宙ホテル」のイメージ。 提供:清水建設

清水建設が構想する「宇宙ホテル」のイメージ。
提供:清水建設

一方、日本でもゼネコンの清水建設が宇宙ホテルの計画を構想しています。その歴史は古く、清水建設が「宇宙ホテル構想」を発表したのは1989年のこと。じつは、世界で初めて実用的な宇宙ホテルのアイデアを提示したのは、日本だったのです。

清水建設が構想する宇宙ホテルは、全長240mという超大型の施設です。その中には、64個の客室モジュールを含む104個の個室モジュールのほか、宇宙船の離発着場や太陽光発電でエネルギーを得るためのエリアなどが含まれます。客室モジュールは、ボイジャー・ステーションと同様にリング状の構造物に配置され、リングを回転させることで、最大0.7Gの人工重力を得られるといいます。ボイジャー・ステーションの人工重力が0.57Gですから、それ以上に地球に近い感覚で過ごすことができることになります6)7)

画像: パブリックゾーンのイメージ。 提供:清水建設

パブリックゾーンのイメージ。
提供:清水建設

また、「パブリックゾーン」と呼ばれるリングの中心部に設けられるモジュールは、無重力状態が楽しめるエリアになっており、さまざまなアトラクションが予定されているとのこと。バーやレストランもこのエリアで営業するそうなので、SF映画のように、ふわふわと浮かびながら食事を楽しむことができそうです。

なお、現在のところ清水建設が構想を掲げる宇宙ホテルの完成時期は未定となっています。ただ、2021年から国土交通省による宇宙無人建設革新技術開発推進事業に参画し、「宇宙飛行士が月面に滞在するための居住モジュール」の技術研究開発を行っているそうです。完成すれば、月面に宇宙ホテルを建設することも夢ではないでしょう。

【関連記事】ロケット発射場から月面開発まで⁉︎清水建設が1987年から挑む宇宙開発

宇宙ホテルとしての利用も? 商業宇宙ステーション

現在、人類が宇宙で活動をする唯一の場となっているのはISSです。しかし、このISSは老朽化などの理由により、2030年の退役が予定されています。そこで、ISSに替わる宇宙ステーションの開発が、世界各国で進められています。そのなかには、宇宙ホテルとしての活用も検討されているものも少なくありません。現在、民間の企業が建設を発表、または検討している宇宙ステーションの一例をご紹介します。

①アクシオム・スペース「Axiom Station」

「Axiom Station(アクシオム・ステーション)」は、アメリカのアクシオム・スペースが建設を目指している、実現すれば世界初となる商業宇宙ステーションです8)具体的な建設に向け、まずは2026年に、ISSに接続するモジュールを打上げる予定になっています9)。このモジュールは、研究施設として活用されるほか、将来的には宇宙ホテルとしての運用も検討されています。ISS退役後には、ISSから分離して独立運用が行われる予定です。

②シエラ・スペース「Orbital Reef」

画像: Orbital Reefの外観イメージ。 Sierra Space Corporation © 2024

Orbital Reefの外観イメージ。
Sierra Space Corporation © 2024

「Orbital Reef(オービタルリーフ)」は、アメリカのシエラ・スペースが建設を目指している商業宇宙ステーションです8)10)。宇宙空間で「Large Integrated Flexible Environment (LIFE)」と呼ばれるモジュールを膨張させ居住空間を確保する、ユニークな構造を採用している点が大きな特徴。計画では2027年から建設のための打上げが始まる予定です。なお、宇宙往還機「Dream Chaser(ドリームチェイサー)」の開発元としても知られています11)

③Starlab Space(スターラボ・スペース)「Starlab」

画像: Starlabの外観イメージ。 提供:Voyager Space

Starlabの外観イメージ。
提供:Voyager Space

「Starlab Space(スターラボ・スペース)」は、ISSの後継機としてNASAが進める商業宇宙ステーションプログラム(CLDプログラム)の候補者のひとつです8)。日本の大手総合商社である三菱商事をはじめ、米・欧・加からそれぞれ戦略パートナーが参画する、CLDプログラム唯一の国際ジョイントベンチャーを構築している点が特徴12)13)。2029年に予定される打上げ1回で商業宇宙ステーションが完成する予定です。また、宇宙飛行士等の滞在者の“体験”を追求するべく世界的ホテルチェーン・ヒルトンが公式パートナーになっており、共有エリアや宇宙飛行士の寝室を共同開発すると発表されています14)

④大林組「静止軌道ステーション」

画像: 大林組が構想する静止軌道ステーションのイメージ図。 提供:大林組

大林組が構想する静止軌道ステーションのイメージ図。
提供:大林組

日本のゼネコンである大林組が構想を発表している「宇宙エレベーター」には、宇宙ホテルも含まれています。宇宙エレベーターのメイン施設として建設される「静止軌道ステーション」は、高度約3万6,000kmに建設されます。ステーションは、大規模な宇宙太陽光発電や宇宙環境を活かした研究開発を行うほか、宇宙ホテルとしての活用も想定されています。

大林組の「宇宙エレベーター」構想については以下の記事で詳しく紹介しています。ぜひ合わせてご覧ください。

【関連記事】宇宙エレベーターとは?しくみや建設方法をわかりやすく解説

【コラム】一足お先に宇宙ホテルを疑似体験⁉ 八ヶ岳高原テラス

画像: 「星降る里」として知られる長野県原村にある八ヶ岳高原テラス。 提供:amulapo

「星降る里」として知られる長野県原村にある八ヶ岳高原テラス。
提供:amulapo

ここまでにご紹介したように、実現までには今少し時間がかかりそうな宇宙ホテル。しかし、その雰囲気を味わうための施設は、すでに開業しています。それが、満天の星空を眺められる環境にあることから「星降る里」と呼ばれる、長野県原村に誕生した「八ヶ岳高原テラス」です15)

こちらは地上で体験できる「宇宙ホテル」をテーマにした滞在型リゾート施設となっており、現在は星空を眺めながら食事やお酒が楽しめる「宇宙ダイニングバー」や、天体観測など、地上で宇宙旅行の気分を楽しめるアクティビティを提供しています。

2027年に向けて段階的に宇宙ホテルを実現させていく計画となっており、宇宙飛行士訓練の疑似体験や、宇宙で使われるモジュールの試験的な設置、宇宙ホテルをイメージさせる客室の建設などが予定されています。

宇宙ホテルの実現が待ちきれない方は、ます八ヶ岳高原テラスで宇宙旅行を“体験”してみてはいかがでしょうか。

来たる宇宙旅行時代に向け、宇宙ホテルの構想は進む

画像: 画像:iStock.com/mik38

画像:iStock.com/mik38

ご紹介したように、早ければ2025年から開業予定となっている宇宙ホテル。残念ながら、今のところ海外旅行のような感覚で宇宙ホテルを利用するのは、まだまだ先の話になりそうです。とはいえ、各国で建設が進められているほか、宇宙へ向かう手段も日々進化を続けています。宇宙ホテルでバカンスを過ごす時代は、すぐそこまで来ているのかもしれませんね。

※この記事の内容は2024年8月21日時点の情報を元に制作しています

This article is a sponsored article by
''.