では、地球から月までの距離と所要時間は? 必要な費用はどのくらい? 一般人はいつから行けるようになる? そんな疑問にも触れながら「月旅行のあれこれ」を解説します。
そもそも月とは、どんな天体?
月は、地球の周りを公転する、唯一の天然衛星です。また、地球からもっとも近くに位置する自然の天体でもあります。古来よりさまざまな神話の題材になったり、満ち欠けをもとに暦を作ったりと、人々の暮らしにもとても身近な存在でした。だからこそ、「月に行ってみたい」という願いは、人類にとって普遍的な思いでもあるのでしょう。
月の直径は約3,476kmで、地球のおよそ4分の1の大きさです1)。重力は地球の約6分の1であり、これは月面でジャンプすれば、地球上の6倍の高さまで跳び上がれるということ。また、月には大気は存在せず、昼夜の温度差は非常に大きくなります。月の赤道付近で観測されたデータでは、昼は110℃、夜は−170℃と、その差はなんと300℃近くです。
非常に過酷な環境ではありますが、一方で月には多くの水が存在する可能性が指摘されています。この水を資源として活用すれば、月面での長期滞在も可能になるかもしれません。そのために、世界中でさまざまな機関が月の研究・開発に注力しています。
地球から月までの距離は?辿り着くまでの時間と、その方法
月旅行に行くには、どのくらいの時間がかかるのでしょうか。地球から月への距離を確認し、実際にどんな方法で向かうのか見ていきましょう。
地球から月までの距離は約38万km
地球から月までは約38万km1)。地球一周がおよそ4万kmですから、実に地球を9周半する距離になります。よりわかりやすく東京↔︎ニューヨーク間の距離に例えると、17往復分相当です。
地球から月までにかかる時間は約4日
38万kmの距離というと、時速50kmで自動車を走らせれば約320日間、時速300kmの新幹線なら約53日間、時速1,000kmの旅客機でも約16日間かかる計算になります2)。これは一日中休まずに進み続けた場合の計算であり、実際にはもっと多くの時間がかかることでしょう。
人類史上初めて月面着陸を成功させた、アポロ11号の例を見てみます。この時かかった時間は4日と6時間(102時間)。速度はマッハ32、つまり秒速10.9kmものスピードでした。
宇宙船に乗って月へ行く方法
宇宙船が地上を飛び立つと、まず地球の周囲をまわる「円軌道」に入ります(図の①)。この時の速度は秒速7.9km。これを「第一宇宙速度」といい、このスピードを維持すれば、エンジンを止めても円軌道を飛び続けます。しかしこれよりも速度を落とすと、宇宙船は地球の重力に引っ張られて地上に戻ってしまいます。
つぎに、月から見て地球の裏側の円軌道上に到達したところで、ふたたび宇宙船のエンジンを点火して加速を行います。すると今度は宇宙船が「楕円軌道」に乗りはじめます(図の②)。状況によってはさらに加速を行い、より大きな楕円軌道(図の③)に乗る場合もあります。結果、やがて月側にある楕円軌道へと辿り着くことができるのです2)。アポロ11号でも、この方法が採用されました3)。
実現間近な「月旅行」とはどんなもの?
さて、近年実現が期待される「月旅行」とは、どのような内容なのでしょうか。現在、アメリカの民間宇宙開発企業「スペースX」が計画している月旅行を参考にしてみましょう。日本の実業家・前澤友作さんが参加を予定していたことも、大きな話題になりました(後述)。
スペースXで計画されているのは「月周回旅行」と呼ばれるもの4)。約7日間をかけて月を中心にした軌道をぐるりとまわります。月面に着陸することは叶いませんが、地球上からは見ることのできない、月の裏側を目撃できるのは魅力的です。
実際に月面に立つことができる月旅行については、現在計画はありません。しかしながら、2028年に月面基地建設を目指す「アルテミス計画」5)や、月面都市の構想を描く企業である「ispace」(後述)のプロジェクトも進んでおり、月への着陸を目的にした旅行も、将来的には実現可能になると予想されます。
月旅行にかかる費用は?その予想額
宇宙空間に数分ほど滞在する「サブオービタル旅行」や、地球の周回軌道に乗る「オービタル旅行」といった宇宙旅行は、すでに実現しています。これらの費用は、数千万円〜数十億円以上と、非常に高額です。
【関連記事】宇宙旅行の費用はいくら?現在の例や内訳、将来予想について解説
こうした宇宙旅行と比べ、より距離も時間もかかる月旅行。費用はさらに高額になることが想像できますが、実際のところは…? 残念ながら現状、公表されている明確な情報はありません。前述のスペースXによる月周回旅行(7日間)の場合、ひとりあたり約120億円6)という予想がされていました。
ただ今後、安全面が確立され、安定的にツアーが供給されるようになれば、費用はもっと下がる可能性があります。
【コラム】「宇宙葬」という形の月旅行も
一風変わった月旅行として、「宇宙葬」という選択肢も。故人の遺骨を封入したカプセルをロケットに乗せ、月面へと運ぶのです。日本国内では株式会社銀河ステージによるサービス「スペースメモリアル」で「月旅行」プランが販売されています。
同社の宇宙葬はNASA協力のもと実施されており、現在は2026年出発分の予約を受付中です。生前の予約も可能で、費用は275万円〜。けっして安い値段ではありませんが、月まで行ける貴重なチャンスと考えれば、お手頃といえるのかもしれません。
実際に月まで行った人は、何人いる?
これまで月の付近までいったことがある人は18人。そのうち月面に降り立った人は、全部で12人。人類で初めて月の大地を踏んだのは、アポロ11号の船長であるニール・アームストロング氏です9)。これに続いて、乗組員のバズ・オルドリン氏も“ムーンウォーカー”となりました。この時のアームストロング船長の言葉「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」は、あまりにも有名です。
なお、月に降り立った12人はすべてアポロ計画の宇宙飛行士で、全員がアメリカ人です。また、1972年のアポロ17号に搭乗したユージン・サーナン氏、ハリソン・シュミット氏以降、月面着陸を果たした人はいません。
参考資料
これから月へ行く予定の日本人
今後、日本人が月に到達する可能性はあるのでしょうか。月旅行と宇宙開発の両面からご紹介します。
前澤友作さんの「dearMoon」プロジェクトは中止を発表
実業家の前澤友作さんが、スペースXの月周回旅行に参加予定だったことは前述のとおり。前澤さんによる月旅行プロジェクトは「dearMoon」と名付けられ、民間人による初の月周回旅行を目指し、2018年に発足しました。2021年には前澤さんと共に月へと向かう参加者が募集され、249の国と地域から約100万件もの応募が寄せられたそうです。最終的に8人のクルーメンバーと、2人のバックアップメンバーという計10人をメンバーに選出。「グラミー賞」受賞アーティストのスティーヴ・アオキ氏、韓国の人気アーティスト兼俳優のT.O.P氏など、グローバルなメンバーが選ばれました。
【dearMoonの選出メンバー】
- リアノン・アダム(写真家)
- スティーヴ・アオキ(DJ、音楽プロデューサー、作曲家)
- イェミ・A・D(振付師、クリエイティブプロデューサー)
- ティム・ドッド(YouTuber)
- ブレンダン・ホール(映像作家)
- カリム・イリヤ(映像作家)
- T.O.P(アーティスト、俳優)
- デヴ・ジョシー(俳優)
- ケイトリン・ファリントン(スノーボーダー)
- Miyu(ダンサー)
しかし、2024年6月にプロジェクトは苦渋の中止を決断10)。理由は、宇宙船「スターシップ」の開発の遅れのためでした。残念ながら前澤さんが月に行くことはできませんでしたが、dearMoonプロジェクトは多くの人に「月旅行」実現のリアリティを感じさせました。引き続きスペースXでは宇宙船の開発が進められており、将来の期待は膨らむばかりです。
デニス・チトー氏が日本人の妻の章子さんと月旅行を予約
前澤さんは計画を見送ったスペースXによる月周回旅行ですが、参加表明をしている人物は他にもいます。それは、アメリカの実業家であるデニス・チトー氏。チトー氏は2001年に世界初の宇宙旅行を経験した人物でもあり、今回の月旅行へは日本人の妻・章子さんと共に参加予定とのこと11)。具体的な出発時期は未定ですが、章子さんが「日本人初の月旅行者」になる可能性は高そうです。
2028年には日本人宇宙飛行士が初めて月面着陸予定
月旅行という形ではないものの、近い将来に日本人が初めて月面に立つ可能性もあります。アメリカ主導の「アルテミス計画」において、日本人2人が月面着陸を目指すことを、日米政府が合意しました12)。現在JAXAの宇宙飛行士5人と宇宙飛行士候補生2人が候補となっており、これからメンバーが選ばれる予定。早ければ2028年には実現するそうで、今後の動向に要注目です。これが達成されれば、アメリカ人以外で初の月面到達者ということにもなり、大きな快挙となるでしょう。
参考資料
【関連記事】宇宙旅行に行った人は何人?日本人や民間人はどのくらいいる?
アポロ11号の月面着陸から半世紀以上、ついに夢の月旅行へ
アポロ11号が月面着陸を成功させてから約半世紀。「月旅行」はもはや夢物語ではなくなりました。NASAやJAXAのような国家機関のみならず、スペースXやispaceなど、多くの民間企業が月への進路を開拓しています。そう遠くない2040年には、気軽に月へ行けるようになっているかもしれません。
※この記事の内容は2024年9月13日時点の情報をもとに制作しています